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最南端の駅と、旅の終着駅・枕崎【18きっぷ・現実逃避の旅行記‐7】
2024, 9, 9(月)
朝日
朝日が差し込む部屋で目が覚める。何ヶ月ぶりだろう、この感覚。
夏の間はずっと昼夜逆転してたのが、少しづつ治ってる。今日の自分に満足できない毎日は、体は寝たがってるのに、心の中は寝たくないって思っていて…それが、ずっと続いてたのに。ここ数日は、違う。
旅の7日目、鹿児島のゲストハウスで迎えた朝。
旅を始めてから1週間…東京にいたのが、はるか昔に思えた。
まだ眠い。
疲れてるけど、帰りたくはない。
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線路
高架線のホームは、列車を待つ人で混雑している。
遅れてやってきた列車に乗った。2両編成の普通列車。
ほとんどの人は、反対方向の快速列車に吸い込まれていった。
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今の私は、自分だけの力では進むことができない。線路の上を行くことしかできない。
そんな私は、列車の揺れに身を任せて、眠る。
それでも、私は
夏を追って、日常から逃げてここまで来た。
こんな遠くまで来た。
最南端
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指宿枕崎線・西大山駅。
ずっしり佇む開聞岳に、「JR日本最南端の駅」の文字が並ぶ。
本土最南端の佐多岬でも、日本最南端の駅・沖縄の赤嶺駅でもないけれど。
私の街の、私の日常から1本の線路でつながっている、最南端。
駅前に1軒だけ、ぽつんと立っている商店に入る。
地元の漬物やお土産が並ぶ、小さな店内。その一角に、この駅のお土産も並ぶ。
お気に入りの1枚を選んだ絵はがきと、記念の「到達証明書」をお土産にした。
マンゴーのジェラートで、ひと休み。
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最後の列車
私を乗せた普通列車はゆっくり動き出す。
もう、旅の終わりも近い。
この旅が終わったら、私は私の日常に戻らないといけない。
帰りたくない。現実に戻るのも怖い。それでも…。
夏の18きっぷが使えるのは、明日まで。
ずっと繋がってきた線路も、もう少し。
…もう、帰らないといけない。
青春18きっぷ。
どこにでも行けるというけど、それは線路の上だけのはなし。
まだ19の私は、周りの人の力がないと生きていけない。
怖いなぁ…
ちゃんと、言葉にして、話ができるのか。自分と向き合えるのか。こころの隙間も埋められるのか。
サークル。授業。ゼミ。就活。そして家族。自分の将来。
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終着駅
枕崎ー
この旅の、終着駅。
何があるかもわからないままに進んできたけれど、ずっと繋がってきた一本の線路はここで途切れる。
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終着駅って、なんでちょっと惹かれるんだろう。
寂しいし、悲しい。
でもちょっと達成感があって。
そしてなにより、
終着駅は、同時に新たな始発駅でもある。
行こう。
復路
私の旅も、変わってないようで変わっているんだ。前の私は、何も考えず景色だけを眺めていた。
こころを空っぽにして、現実世界からの逃げ込み先にした。
旅に出る前、この夏の過ごし方も同じ。
そうしていれば、楽だったから。
でも、それはその場しのぎに過ぎない。そのうち、限界か来る。
だから、変えたい。だから、旅に出た。
ゆっくりできる時間が、好きなんだろうな。
列車に揺られて、温泉に入って、ごはんを食べて休んで
考えごとしながらゆっくりできる時間が、今の私には必要。
小雨の降る中、車内には自分以外だれもいなかった。
指宿
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指宿駅の駅舎を出ても、細かい雨の中だった。
雨粒が風に吹かれていて、傘を差さずに歩く。
南国っぽい木が立ち並ぶ商店街は、こんな天気の夕方なので、すれ違う人もいなかった。
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有名な砂蒸し風呂に入ってみたくって、砂蒸し会館「砂楽」というところにやってきた。
受付を済ませて専用の浴衣に着替える。案内されるまま、砂浜にある砂蒸し施設まで降りていく。はじめてのことは、どんなものでもちょっと不安になる。
あたたかい砂の上に横になって、上から砂をかけてもらう。
砂の重みと温度が、全身に伝わってくる。落ち着く。
汗が疲れを流して、自分が脈打つのを感じる。生きてるって感じ。
砂をかける音、波の音、どこかの花火の音。
ただ何も考えない時間が過ぎていった。
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砂と汗を流して、温泉に入った。
この時間が、いちばん自分を大切にできる気がする。
駅の方まで、夜ご飯を食べられそうなお店を探して歩いてきた。
一番最初に見つけた、黒豚と郷土料理の「青葉」というお店。
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お刺身の漬け丼と、きびなごの塩焼きを注文。
この旅でずっと食べたかった海鮮も、やっと食べられた。大きなお刺身とあったかいご飯を、たいせつに味わう。
やわらかい味のきびなごもおいしい!
旅っていいな。
しあわせ。
大満足の夕食に、お財布にうれしい値段。毎日食べたい!と思いながらも、お店を後にした。
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駅前の足湯で、列車までの時間を過ごす。
ずっとこのままでいいのに。
帰っても、僕はこんなに自分を大切にはできないから。
天文館
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列車に乗って、鹿児島に戻る。
イヤフォンでいつもの音楽を聴きながら、慣れないボックスシートの片隅に座る。
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明かりのまぶしい街を歩いた。
非日常と日常の隙間で、そのまま眠りについた。