見出し画像

欅坂46と櫻坂46、二度目の思春期のその先⑥

ものすごく乱暴な言い方になるが、
欅坂に出会うまで、私が抱いていたアイドルのイメージは、
コミュ力が高くてクラスの1軍感強くて
いつもニコニコしていて、自信に溢れている、という感じ。

でも、欅坂はちょっと違った。作り笑顔じゃない表情。
一生懸命やっているがゆえに、枠からはみ出してしまう。
奮闘する彼女たちの姿は、そんなふうに私の目に映った。
ともすると叩かれるネット社会で無数の傷を負いながら、
自分らしさを表現する彼女たちの歌に、ダンスに、言葉に、
私は耳を澄ませ、目を凝らした。

人生の後半戦に入った私はいつの間にか、
世間や社会で求められている枠の中に自分を押し込めていた。
だから、深い森の中に迷い込んだように、
自分がわからなくなっていたのだと思う。

歳を重ね、経験を積むと、大抵のことは経験済みになる。
若い時には楽しいと感じたことを、楽しく感じなくなったりする。
言い換えれば、若さとは体験と感動の新鮮さなのだ。
彼女たちの全力のパフォーマンスに触れるたび、
石のように凝り固まっていた自分の心が動き、躍動し始めるのを感じた。
欅坂46を通じて、私は思春期の追体験をしていたのだと思う。

二度目の思春期を体験した私は、
コンプレックスだらけだった過去の自分に
愛おしささえ感じるようになっていった。
まるで心理療法みたいだ。推し活療法。

しかし、コロナ禍の2020年10月13日、
欅坂46はその幕を閉じ、櫻坂46に改名した。

改名後はこれまでと同じというわけにはいかないだろう。
そう思ったが、ファンをやめる選択肢はなかった。

欅を愛する人の中には、改名を機に離れた人もいるだろう。
そのことは否定しない。
ただ、私の場合は彼女たちの「その先」が見たかったのだ。

人間がコンテンツとして消費されている世界で、
若さと可愛さが最大の武器とされてきた女性アイドルが
狂乱の中でもがき続きけた先に何を見つけ、何を見せてくれるのか、
それを見守りたい。応援し続けたい。そう思ったのだ。
それは、40代の私が親子ほど離れた女の子を応援する意味の一つかもしれない。

改名から1年半、櫻坂46は常に変化し続けてきた。
櫻坂の1stから3rdは欅の「僕」を振り返り、自省し、
そこから新たな一歩を踏み出そうとするような楽曲が続いた。
それは欅時代からのファンを納得させるような期間だったようにも思う。

4thを初めて聴いた時、
「今いるメンバーが纏う空気が音になったような曲だ」と思った。
そこに溢れているのは、慈悲と慈愛だった。
五月雨は慈愛の雨だ。
それは、欅時代から人に寄り添うことを大切にしてきたグループが
思春期の先に辿り着いた、柔らかく温かな寄り添い方だと感じた。

欅のラストシングル「誰がその鐘を鳴らすのか」から
櫻の3rd「流れ弾」までの期間は
欅と櫻の「のりしろ」だったのかもしれない、と思う。
欅と櫻が重なって折々の色が四季をつくる。
そのどれが欠けたって永遠は生まれないし、五月雨は降らなかった。
私が好きなのはそんな欅坂であり、櫻坂なのだ。

私は今でも欅坂46が大好きだ。これからもずっと大切な存在だ。
改名直後はよく欅坂46のライブ円盤を見ていた。
しかし、今はほとんど見ていない。
それは見たくないとか、見ないようにしているとか、
そういうことではなくて。

欅と過ごした2017年秋から2020年秋までの3年間は、
私にとって「思春期の追体験」の時間だった。
心が動いて、躍動して、悲しいニュースに自分まで傷ついてしまうような。

だけど、いや、だからこそ。

欅という「思春期の先」に辿り着いた櫻坂の現在地に一緒に立ち、
「櫻坂の今」を見逃したくない。今の私はそう感じている。

この気持ちを例えていうなら。
中学時代の親友と同じ高校に進んで、
最初は中学時代の話とか中学の友達の話ばかりをしていたのが、
一緒に高校生活を過ごすうちに、
新しくできた友達のこと、一緒に過ごすイベントのことを
話す機会がどんどん増えてきて、
高校時代を一緒に楽しんでいる、みたいな状態だ。

だからなのか、私は櫻坂46のライブで
欅坂の楽曲をやってほしいと思わない。
私に思春期を追体験させてくれた彼女たちが、
彼女たち自身の思春期の先で見つけ、作り上げる世界を、
今は見たいのだ。

とはいえ、これはあくまでも私の感覚なので、
今でも欅が一番好きだという人の気持ちも、
櫻坂のライブで欅の楽曲を見たいという人の
気持ちも理解できるし、否定はしない。

そして、私も唐突にまた欅の世界にどっぷりと浸りたい時が来るだろう。

そんな気がする。それは明日かもしれないし、1年後かもしれない。

自分たちの青春そのものが、存在そのものが、
こんなにも人の心を揺さぶるアイドルは、本当にすごい。
欅坂46と櫻坂46に出会えて本当によかった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?