「食べる音楽」リターンズ
No.5 コーヒーと飛行機と私
リースヒェン:
ああ、コーヒーはなんて甘く美味しいのかしら
千のキスよりも愛しいわ
マスカットワインよりも甘いわ
コーヒー、コーヒーを飲まなくちゃ
もし誰か私に優しくしたいと思うなら
ああ、コーヒーをプレゼントしてちょうだい
J.S.バッハ<コーヒー・カンタータ>より
前回に引き続きコーヒーの話を。一時期、ヨーロッパに渡航する際はいつもオーストリア航空を利用していた。最終目的地は大概イタリアであるのだが、乗り継ぎの手間をものともせず、同社のフリークエント・フライヤーであり続ける理由はただひとつ:機内食が美味しいから!
オーストリア航空が提案する食事へのこだわりのうち、特に筆者の琴線に触れるものは、伝統的なウィーンのカフェ文化を機内でも楽しめるようにした、食後の「ウィーン風カフェサービス」である。なんと食後のコーヒーをウィーンのカフェ同様、10種類(!)のメニューから選ぶことができるのだ。
1. 味わい深いブラックコーヒーに、フレッシュなホイップクリームを加えた「ブラウナー」
2. ブラックコーヒーの「シュヴァルツァー」
3. グラスにブラックコーヒーを注ぎ、そこにホイップクリームと粉砂糖を加えた、いわゆるウィンナー・コーヒーである「アインシュペナー」
4. コニャックとホイップクリームを加えたブラックコーヒー「フィアカー」
5. ブラックコーヒーに泡立てたホットミルクを注ぎ、更にホイップクリームとカカオパウダーを加えた「フランツィスカーナー」
6. グラスに注いだブラックコーヒーに、泡立てたホットミルクをたっぷり加えた「カフェー・フェアケールト」
7. ブラックコーヒーにオレンジリキュールを加えた「マリア=テレジア」
8. ブラックコーヒーに、アイルランド原産のクリーム系リキュールであるベイリーズとホイップクリーム、カカオパウダーを加えた「カフェー・ベイリーズ 」
9. ダブル・エスプレッソにバニラアイスとホイップクリームを加えた「アイスカフェー」(日本でいうアイス・コーヒー=冷たいコーヒーではない)
10. そして泡立てたホットミルクとブラックコーヒーをミックスしたウィーンの古典的なコーヒー「ヴィーナー・メランジュ」。
こうなると食後のコーヒーを選ぶのにも一苦労ではあるが、毎回何を注文しようかと迷う楽しみも確かにある。筆者のお気に入りはなんといってもメランジュだ。イタリアで飲むカップッチーノも大好物だが、メランジュはよりコーヒー自体の苦みが強く感じられ、ウィーンのこれまた名物である各種スイーツとの相性が抜群である。例えばホイップクリームを添えたアップフェル・シュトゥルーデルのリンゴの優しい甘みと酸味、そしてパイ生地の織りなす素朴ながらも複雑な甘味と、メランジュの乳脂肪分の甘みとキリッとしたコーヒーの苦みは、それだけでウィーンを愛する理由になり得る幸せなマリアージュとなる。
ああ、カフェに誘われて旅がしたくなってきた……。