SOHOで起業した旅行会社のはなし|2〜開業準備
これは、SOHOで旅行会社を起業した筆者の体験記である。
会社設立と旅行業登録申請は済んだけれど、開業までにはまだまだやることがたくさんある。
今までは毎月給料が貰えていたけれど、これからは自分達が食べていく分をこの会社で稼がなければならない。
そのために何をすべきか、手探りの状態で行ったことを書いておく。
開業までの事務手続き
無事に旅行業登録申請を済ませ、あとは登録完了の連絡を待つだけだが、その間にするべきことは様々だ。
会社設立登記と旅行業登録申請のため、登記所や登録申請書作成、法人印作成、銀行口座開設などはすでに済ませた。
ここからは、社内の事務手続きだ。
会社の形態、規模、業種によっても違うだろうが、思い出す限り行ったことは以下の通り。
・会社ロゴ制作(自作)
・前籍の会社との顧客分けと挨拶状作成・発送
・事務所什器類用意とリース契約
・リース以外の電話・PC類の用意と配線・設定
・経理帳簿の用意
・新規開店挨拶用のノベルティ用意
・旅行業協会加入手続き(後述)
・旅行保険代理店契約(後述)
最も面倒だったことは、前籍の会社との顧客分けだった。
めでたく退職できたのは、会社に退職することを伝えてから1か月後のこと、それまではまだ前の会社に在籍の身だった(会社設立は在籍中にしたということ)。
小さな会社ではあったが、企業の業務渡航をメインに取り扱っていたため顧客は企業が多く、その企業をどちらの会社が担当するかを決めることだった。
結構ワンマンな社長だったので、なかなかこちらの希望通りにはいかず、その社長の分け方で決定。そして自分がが引き継ぐ顧客への挨拶状を作成し発送する。
挨拶状作成については、オフィスサプライの会社へ発注。
同時に社内レイアウトを決めて机やいすなどの什器、さらには開業挨拶の際に配るノベルティ(シャープペンに社名を入れたもの)まで、まとめて発注した。
会社設立時に納付した資本金から、これらにかかる経費がどんどん出ていく。
すでに経理業務は始まっている。まずは、毎日伝票を記入していった。
必要なものは振替伝票と勘定元帳だが、インターネットで検索してエクセル形式のファイルをダウンロード。
ペーパーレスで、それらに毎日入力していくことにした。
簿記などやったことはないが、渡り歩いてきた会社での経理業務がここでも役に立っている。
ペーパーレスとはいえ、コピー機はまだまだ必要だ。
プリントするものは結構多いので、プリンターを兼ねたコピー機が必要と考えた。
以前からつきあいがあった業者の営業担当に相談し、出来る限りランニングコストのかからないリース契約を依頼した。
そうこうしているあいだに、やっと在籍していた会社を退職。
旅行業登録完了から営業開始までのわずかな間に、顧客分けで獲得した企業へのあいさつ回りをしながら、開業までの準備は進む。
信用への取り組み
開業したばかりの会社は、そう簡単に信用・信頼を得ることはできない。
その為に、旅行会社としてすべきことは、以下の2つだ。
・関連協会への加入
旅行業を営むにあたり、関連協会への加入は必要だ。
前回、会社設立資本金の設定について協会加入費用に少し触れたが、自分達の会社にとって必要な協会は旅行業協会である。
通常、第3種旅行業の開業には保証金として300万円を法務局に供託しなくてはならないが、旅行業協会の保証社員になればその5分の1(弁済業務保証金分担金という)に抑えられるからだ。
しかしコスト面よりももっと重要なことがある。
それは、「リスク管理」だ。
この点において、一般社団法人日本旅行業協会(JATA)、一般社団法人全国旅行業協会(ANTA)のどちらに所属すべきか考えた結果、後述の理由でJATAに加入することとした。
当社のようなSOHOでは、万が一自社の企画旅行中現地で事故が発生してしまった場合、現地と本社の両方に事故対策本部を置くほどの人手はない。
それをカバーするのが日本旅行業協会と株式会社アイラックが共同で取り組む「緊急重大事故支援システム」というもの。
24時間旅行会社からの事故発生連絡に対応し、旅行会社と連携しながらお客様とそのご家族、メディア、保険会社、関係各所との連絡をサポートしてくれる。
現在においても、このサポートシステムがあるのはJATAだけなので、コストよりもお客様への安全、安心を重視した結果だ。
「リスク管理」をしっかりとすることは、すなわちお客様からの信頼につながるものと考える。
・旅行保険
「海外旅行にトラブルはつきもの」
だが、旅行会社が対応できるのは、実際に事故が起きたあと。
お客様が、旅行中スリや盗難、置き引きにあった場合、または交通事故やその他の事故に遭遇してしまった場合などは、全て旅行保険の補償対象である。
そのため、旅行を申し込んだ人に安心の備えとして保険の案内が出来るよう、保険代理店として営業することはとても重要だ。
また、上述の「緊急重大事故支援システム」に加入するには、旅行会社としてかけておくべき「旅行特別補償保険」と「旅行事故対策費用保険」が必須のため、保険代理店になることも必須なのだ。
開業までのわずかな時間に、前籍の会社の保険営業担当に連絡をとり、保険代理店登録をしたい旨の相談をした。
しかし、開業しようとしていた頃は、保険会社としても代理店の新規登録を抑えていたのか、なかなか良い返事をもらえなかった。ある程度旅行会社としての実績を積んでから、というなんとなくの理由をつけられ、交渉は難航した。
そこで、同じ保険会社で、ずいぶん前に大変お世話になった別の営業担当者に連絡した。
その方は、その後ずいぶんと出世されたようで、このような新規会社の代理店契約において、どうにかできる立場についていらしたらしい。
最終的に、その方に尽力してもらい、開業後2か月たってからではあるが、晴れて保険代理店登録が完了した。
経営方針について
開業までの準備はまだまだある。
開業後、どのように営業していけばよいか?
すぐに食べていくことが出来なくなってしまうという不安のないよう、長続きする旅行会社として、しっかりとしたビジョンが必要と考えた。
会社勤めのときから、これからの旅行は
「団体」よりも「個人」
と考えていた。
旅行者全てに、その人に合ったオリジナルプランの旅行を提供することが、これからの旅行業、つまり、
パッケージツアーよりオーダーメイド旅行
だ。
団体、個人旅行を問わず、既存のパッケージツアーをただ案内するのではなく、全て旅行者のニーズに沿ったオリジナルプランを作ることが、自分たちが提案していくべき旅行業ではないか。
同時に、パンフレットに掲載される旅行代金が、全てパック料金になっている現状に疑問があった。
この業界に入った初めての会社は、国内旅行が中心の会社だった。その会社では、国内の団体バス旅行の見積書に、バス代○○円、宿泊代○○円というように、料金の明細を全て記載していたものだ。
それが海外旅行になると、どうしてパッケージツアーもオーダーメイドの個人旅行もパック料金なのか?
「○○一式いくら」というざっくりとした料金では、旅行者も自分にとってそれがリーズナブルなのか、高いのか判断できないだろう。
巷に溢れる格安料金には辟易するが、ものには全て適正料金があるはずだ。
そのためにはひとつひとつ内訳を明示し、正しい見積金額で旅行者に提供すべきと考えた。
例えば、航空券を少し割高な直行便にこだわる分、宿泊はリーズナブルなホテルに抑え、自分で空港からホテルまでの移動は可能という人には送迎を省くといった調整を、旅行者と旅行会社が打ち合わせながら理想の旅行費用を算出していくことができる。
そして、最後に算出した旅行代金に、旅行会社としての手数料を明示の上、最終的な旅行代金とする。全ての明細が見積書に記載されていること、これが自分で名づけた「オープンプライス」である。
この「オーダーメイド」と「オープンプライス」を、当社が掲げる経営方針とした。
注)このはなしは、コロナ禍以前までのこと。世界的パンデミックを経験した今、旅行業の未来はまだ見えない。
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