SOHOで起業した旅行会社のはなし|9〜旅行業登録実務
鞄を持って得意先を1軒1軒まわる、昭和の営業スタイルは、今や旅行業には不要だ。
旅行客の集客は、店舗に代わるウェブサイトと、アイデア次第でいくらでもできる。
言い換えれば、たとえ顧客を抱えていなくても、すぐに旅行会社を設立することが出来るということだ。
そこで、行政書士に頼ることなく、自力でできる旅行会社を開業するまでの登録実務について、書いてみる。
旅行業務取扱管理者の資格
旅行業登録には、営業する旅行業種別にあった「旅行業務取扱管理者」の資格が必要だ。
これを取得していなければ、いくら実務経験があっても旅行会社で起業することは出来ない。
1人で起業する場合は、自分が持っていなければいけないが、複数人で起業する場合は、社員のうちの誰かが旅行業務取扱管理者を持っていればいい。
登録種別は第1種~第3種まであり、第1~2種は後に書く基準資産額や営業保証金が高額なので、SOHO向きではない。
これから旅行業で起業するという人には、第3種旅行業、もしくは旅行業代理業が適切だ。ここでは、自由度が低い代理業は除いて、第3種旅行業で起業するまでを書いてみる。
第3種旅行業の場合、最初は旅行業務取扱管理者1名で登録可能だ。
後に毎年の売上額により、あるいは営業所を増やすことにより、管理者を2名以上に増やす必要が出るかもしれないが、最低1名の取扱管理者を確保することである。
基準資産額・営業保証金または弁済業務保証金分担金
次に、旅行業登録に必要な基準資産額と営業保証金について。
・基準資産額
旅行業は、常に基準資産額との戦いである。これをクリアしなければ、更新登録が出来ないし、当然のことながら開業時にも求められる。
第3種旅行業の場合、基準資産額は、直近の決算報告書の貸借対照表から、以下の計算式で算出する。
資産合計
▲負債合計
▲営業保証金又は弁済業務保証金分担金
▲資産の部にある▲の額
≧300万円
だが、新規に起業する場合貸借対照表には開業資金分しか記載されないので、余計な計算は不要だ。
つまり、開業資金としてまずは300万円以上用意する必要がある。
2005年に会社法が変わり、1円から起業できるようになったのに、300万円も開業資金を用意する必要があるというのは少々ナンセンスな気がするが、常に夜逃げや倒産という悪いイメージが付きまとう旅行業界なので、致し方ないことだろう。
・営業保証金または弁済業務保証金分担金
旅行業法に記載されている通り、旅行業を営むには営業保証金を供託しなくてはならない。
近年、某旅行会社の騒動により、この営業保証金がクローズアップされたので、覚えている人も多いだろう。万が一の際、顧客への補償に充当する金額のことだ。
登録種別により供託する金額が違い、
・第1種:7,000万
・第2種:1,100万
・第3種:300万円
を供託する。
だが、旅行業協会に加入した場合、協会の会員全体で保証金を分担する制度がある。
これが「弁済業務保証金分担金」で、営業保証金額の5分の1を協会に供託すればよい。つまり第3種なら60万円ということになる。
基準資産額の算出において、この営業保証金または弁済業務保証金分担金のいずれかを予定して計算することになる。
なので、開業資金として最低用意するのは、300万円+営業保証金または弁済業務保証金分担金、それに各旅行業協会への入会金の合計となる。
登録申請書類作成
旅行業務取扱管理者の確保、基準資産額、営業保証金または弁済業務保証金分担金を見据えた開業資金を用意すれば、旅行会社は開業できたようなものだ。
あとはペーパーワークとなる。
・会社設立登記
まず、会社設立登記に必要な書類と定款を作成し、それを公証人役場で認証してもらう。
次にメインバンクを決め、出資金(開業資金)の払い込みをし、払込証明書を発行してもらう。そして法務局で登記申請だ。
会社の定款は、のちのちも会社の基礎となる大事なもの。
事業の目的や役員について、本店の所在地や営業日に関すること、決算その他会社の運営についての取り決めを書いたものだ。ネット上で定款のひな形が簡単に探せるので、まずはそのひな形を利用するのが良いだろう。
その前に、会社の代表印や銀行印を作成しておき、印鑑証明をしておくことだ。開業までのペーパーワークに不可欠である。
会社登記申請も、恐れることはない。全ては単なるペーパーワークだ。
必要な書類(これもネット上で丁寧に解説されている)を取り揃えたら、それをもって法務局に申請するだけだ。
・旅行業登録申請
無事会社設立登記が済んだら、次に旅行業登録申請にとりかかる。
第3種旅行業は、最寄りの都道府県に申請する。申請に必要な書類は、旅行業協会でセットになって販売しているので、それを利用するとよい。
筆者の場合、前籍の旅行会社で登録に関する一切を担当していたので、この類のペーパーワークは慣れていた。つまり、登録を受理してもらえる「コツ」「ポイント」を、今までの会社で勉強してきたということ。
少し乱暴な言い方をすれば、都道府県の旅行業登録の担当者が見るところは
・書類の不備がないかということ
・基準資産額
だけといっていい。
そして後々の更新登録についても、これをクリアしなければ更新できない。
このことは、旅行業がいかに金銭的信用で成り立っているか、そして信用に値するのは財務状況だということを表している。
登録申請については、当社も加入している日本旅行業協会の「旅行業の登録制度の概要」ページに詳しく出ているので、そこを参考にしてほしい。
旅行業登録を済ませると、1カ月弱で登録可否の連絡が来る。
今の旅行業は「認可制」ではなく「登録制」なので、上述の通り、基準資産額さえしっかり用意すれば、ほぼ登録は可能だ。
「登録」とは、「正しく届出をする」という意味なので、旅行業改正以前の認可制度よりも、ゆるやかだといえる。
これでめでたく開業となる。
旅行業登録を済ませたのち、予定していた旅行業協会への加入手続きをする。
開業後が大事
会社設立、旅行業登録までは資金を用意し、ペーパーワークさえ正しくできれば誰でもできる。
問題は開業後だ。会社は営業し続けることではじめて意味を成す。3カ月で店じまいするラーメン屋のようでは、会社は成り立たない。
だが、最初に述べた通り、今は鞄を持って営業する時代ではない。ネットを駆使して集客し、他とは違うオリジナリティを持って営業すれば、細々ながら営業し続けることが出来る。
開業を決意するまでは、「果たして食べていけるのか?」ということばかり考えていたが、やってみなければわからないものだ。薄利な業界だが夢を売る商売、やってみる価値がある。
現在、他の旅行会社あるいは他業種に転職しようかと考えている人は、一度独立起業を考えてみるのも良いかもしれない。
注)このはなしは、コロナ禍以前までのこと。世界的パンデミックを経験した今、旅行業の未来はまだ見えない。
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