SOHOで起業した旅行会社のはなし|4〜なぜSOHOだったか?
前回までは、SOHOで旅行会社を起業しようと思い立ってから、営業開始までの間に行った会社登記や旅行業登録と開業準備について、覚えている限り綴ってきた。
自分が行ってきたことが、今後旅行会社を設立しようとしている人へのヒントになれば、と思い綴ってきたのだが、そもそも、なぜSOHOで旅行会社を起業したのかを書いてみたいと思う。
「SOHO」は旅行業における逆転の発想
旅行業は、直接物を作って販売することがなく、サービスとサービスを組み合わせて、お客様に代わり手配する代理業だ。
そして、組み合わせた各サービスを、「旅行」という形のない商品として販売しているだけで、自らサービスをするものではない。各サービスを提供するのは、航空会社や宿泊施設などだ。
利益の中心は代理店手数料で、その点では広告代理店と似ているかもしれない。
代理業は原価率が8~9割、それに対する粗利はわずか1割からよくて2割だ。
旅行業法改正以前は運輸大臣登録旅行会社と言われ、今は募集型企画旅行を取り扱う、第1種旅行会社に在籍した期間はわずかであったため、現在の募集型企画旅行(いわゆるパッケージツアー)の利益率が、どのようなものかはわからない。それでも、多少の違いはあれど、大手も中小旅行会社も大体同じだと思う。
そして、この代理業としてのサービス業を支えるのは社員、つまりマンパワーだ。
旅行会社は人材で支えられている業種である。
ここまで書けばおおよそ予想がつくだろう。
つまり、利益率が少なく、人材が会社をささえる代理業は、人件費を抑えることが最も堅実な経営方法だ。
起業するときに「それなら、人件費を極力かけずに旅行会社が出来ないだろうか」と考えた結果がSOHOだった。
物をたくさん作って販売し、そのために大人数の社員を抱えるのではなく、出来る限り少人数で自分達が食べていけるだけの売り上げを挙げるという「逆転の発想」なのである。
少人数だから可能な旅行業
会社は社会に奉仕するもの、社員に会社を支えてもらう一方、社員及びその家族の生活を支えることで社会に奉仕することが会社の基本だと思っていたし、現在もそう思っている。
しかし、会社を始めるにあたり、一般的な規模の会社を設立する財力はなく、また、急に人生の岐路を選択しなければならない事情が、自分に降りかかった。
そのため、じっくり時間をかけて必要な人数を募り、それなりの規模の会社を作る余裕は全くなかった。
プロローグでも触れた通り、旅行業はその性質上、大人数で行う業種ではないと常々思っていた。
現在は社員はおらず、役員のみの本当に小規模の旅行会社だ。けれども、大手と変わりないサービスを提供出来ると思っているし、反対に大手にはできないことが出来ると思っている。
以前は、自分自身の顧客を抱えていないと独立などできないと思っていたが、今はそんな必要はない。
ということは、業界で何十年も過ごさなくても、アイデアさえ持っていれば独立することが夢ではなくなるということだ。
夢描いた通りの旅行業ができる
筆者自身の独立起業は、大変なことばかりが続いたが、SOHOで旅行会社を運営することは大変なことばかりではない。
実際はその逆だ。
例えば、人は会社に就職したときに、必ず希望の職種や部署に配属されるだろうか?
その答えは”No”である。
筆者自身が就職を控えていた学生時代、ある同級生が電鉄系の大手旅行会社から内定をもらった。旅行の専門学校に通っていたので、同級生はみんな、就職したら旅行業の第1線で活躍したいという夢を持った人ばかりだ。
けれども、その同級生の入社後の配属先は総務課、それも定期券売り場だった。
必ずしも、その仕事を一生続けるわけではないだろう。部署が変わることもあるだろうし、いずれは旅行業の花形といわれる企画部署に配属されるかもしれない。
その後、彼がどうしたかはわからないが、旅行会社に入社しながら、自分たちが思い描いている業務をさせてもらえていない人は少なくないと思う。
自分自身はといえば、何社か旅行会社を渡り歩き、幸いにもずっと旅行業中心の会社員生活だった。
しかし、会社の業務縮小により旅行部門を廃止するといわれ、再度他の旅行会社に就職することなく、独立起業することを選択した。
開業後は総務、経理、営業、システム構築、ウェブ制作などなんでも自分でやっている。
だが、業務の中心は旅行業だ。それも、自分がやりたいと思う旅行業を、その信念に基づいて続けている。
いわば、「自分自身が会社そのもの」だ。
そしてそれは、旅行業を目指す学生が必ず思う旅行業の原点、お客様が望む旅行を提案して作り、自分がプランニングした旅行に満足して帰国してもらう、ということが出来ているという幸せだ。
責任は自分に降りかかるが、その分思い切りやりたい仕事が出来る、それがSOHOの魅力と言えるだろう。
けっして大変なことばかりではないのだ。
注)このはなしは、コロナ禍以前までのこと。世界的パンデミックを経験した今、旅行業の未来はまだ見えない。
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