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SOHOで起業した旅行会社のはなし|5〜SOHOの経理

旅行業の経理業務は非常に細かい。

一般的な会社の場合、支払いはたいてい月末に集中しているだろう。

だが、旅行業の場合、旅行費用はたいてい申込金と残金とに分かれて入金される。そして、収受した中から航空券代、宿泊代といった仕入代金を、その都度支払う。

出発は申込時の半年後という旅行を請け負うことはざらなので、1件の予約について支払期間が長期にわたる。

だから、一般的なキャッシュフローは旅行業には当てはまらないに等しい。

では、旅行業での経理実務を行うためには何が必要か、またどうすべきか。

「公明正大」な経営

少し前、某旅行会社の倒産で「旅行会社=自転車操業」という悪いイメージが浸透してしまった。

ある旅行客から預かった旅行代金を、別の旅行客の航空券やホテルの仕入れに充てる。途切れることなく旅行申し込みがあれば問題ないが、途切れた時には支払いが滞る。またそれぞれの金額に差があれば、やはり支払額が足りなくなる。

これが自転車操業のリスクだ。

筆者が在籍したいくつかの会社も、倒産までに至ることはなかったが、どこも余裕のある経営状態ではなかったことを覚えている。

これまで何度も書いてきた通り、旅行業は低利益だ。

そのため、中途半端な規模の会社では、大量に申し込みを受けても利益が手元に残るのはわずかで、実は某旅行会社のようなことに陥る可能性がある会社は多いのかもしれない。

そして、正直なところ、現在こんなに数多くの旅行会社があること自体、不思議で仕方がない。

個人的には、わずかな大規模旅行会社を除けば、旅行業は出来るだけ人件費を抑えて小規模で行うことが生き残る術だと思っている。

そして、筆者自身がSOHOで独立した一番の理由はそこにあった。

今まで在籍した会社の行ってきたことを反面教師として、自転車操業にせず「公明正大」に経営することをモットーとして起業した。

旅行客から預かった旅行代金はその旅行の仕入れだけに使い、仕入以外の経費はプールした利益から支払う。

航空券代を支払わないことで、お客様を出発させることができなくなるなど、旅行客に迷惑をかける経営はけっしてしてはいけないのだ。

SOHOの経理実務

では、どうすれば自分のモットーに沿った堅実な経営が出来るか?

実は未だにその答えに至ってはいない。

いつの時も疑問だらけだ。だからこそ、自分自身で経理業務を行い、常に財務状況を把握することが必要だと思ってきた。

開業までに考えた経理構想は、以下の通り。

・旅行費用の支払は、キャッシュ・オン・デリバリー。売掛・買掛は一切しない。
・クレジットカードでの支払いは受けない。全て銀行振り込みで支払いをしてもらう。
(注)2018年10月より、利便性を考えクレジットカード決済を開始した。
・伝票は全て自分でつける。それもペーパーレスで。
・決算及び法人税確定申告を自分で行う。

幸い、在籍してきた会社で、経理業務の手伝い程度は行ってきたので、入金・出金伝票から振替伝票の書き方くらいは分かっている。

しかし知っているのはそこまで。振替伝票から勘定元帳に書き写し、それをもとに試算表を作成し、年度末に行う決算といった、経理実務の流れは全く知らなかった。

伝票だけしか書けなかった筆者が、どうやって自分で会社の経理実務全般を行うか?

答えは、ただ関連本をいくつも読むことだった。

「小さな会社の経理」といった類のタイトルの本を何冊か購入し、まず経理実務がどのようなものかを把握することから始まった。

ペーパーレスにするため、振替伝票や試算表のテンプレートをネットからダウンロード。

例えば、「振替伝票 エクセル」で検索すれば、実に数多くのページがヒットし、ほとんどは無料でダウンロード出来る。

そして、データベースソフトで独自の売上台帳兼仕入台帳を用意する。

データベースソフトは、最初はファイルメーカーProを使用し、そのデータをもとにLibreoffice Baseにて作成・使用している。これらのソフトを利用し、自ら売上台帳を一から作った。

こうして、日々の経理業務に必要な帳簿類をそろえることが出来た。

会社設立時から開業までの2か月、必要なものを買い揃えたときから伝票をつけ始め、開業してからは申込があるたびに入金、出金を振替伝票に記載した。まだ目が回るほど忙しいわけではないので、伝票も少なく、そんなに経理実務が苦になることはなかった。

もうひとつ、普段の営業に関わる経理実務以外に必要なものがある。

それは給与・社会保険に関する総務の実務だ。

会社設立と同時に社会保険事務所に各種届出を行い、そこから給与実務が始まる。

役員だけの会社だが、役員報酬ではなく給与制にしたので、会社から報酬を受け取る為の手続きだ。経理実務の本のほか、給与実務については、幸い社会保険事務所から様々な資料を貰え、丁寧に教えてくれる。開業前は、何度も社会保険事務所に足を運んだ。

給与を支払うには給与台帳が必要だ。

これもネットで検索すれば、給与明細書といったテンプレートをダウンロードできる。明細書をもとに、毎月の給与を計算する。

経理と社会保険実務(総務)はリンクしている。

小さな会社やSOHOでは、全ての帳簿を最低限のソフトでまとめることにより、CMで紹介されているような総合財務システムなどを使う必要はない。

年末調整と決算

初年度はたいして難しくもない伝票作成がほとんどの経理業務だが、年度末になって初めて直面するのが「年末調整」と「決算」だ。

・年末調整

年末調整と言えば、サラリーマン時代はわずかに現金が戻ってくるくらいの理解しかなく、その仕組み自体全く分からない。

11月になり、区から年末調整講習会の知らせが届いたので、さっそくそれに参加してみた。

そこでもらえる資料を基に、給与台帳から年末調整の書類に書き写す。これはペーパーレスにできない、提出する書類はやはり紙だ。

と思ったら、国税庁ホームページでは「給与所得者の扶養控除等の(異動)申告書」、「給与所得・退職所得に対する源泉徴収簿」、「給与所得者の保険料控除及び配偶者特別控除の申告」など、全てのフォーマットのダウンロードが可能だった。

また、講習会でもらえる資料は全てPDFで読むことが出来る。余計な紙の資料を大量にもらう必要なく、PCの画面上で読めることも、立派なペーパーレスだ。

・決算

今まで在籍した会社では、決算作業を全て税理士事務所に委託していた。

それを、独立後は自分自身で行おうと考えた。

しかし、はずかしながら、それまで決算書類というものをまともに見たことはなく、バランスシートが何たるかも、全くわからなかった。

わからないことは例によって本で調べる。会社設立の時からしてきたことだ。

さっそく、例の「小さな会社の...」シリーズで決算に関する本を購入し、決算がどういうものかを勉強した。

決算期が近づくと、区の法人会から法人税申告についての講習の知らせが届いた。法人会には加入していなくても、この講習会には参加できると知り、さっそく出かけてみた。そこで聞いたことと、本で勉強したことを組み合わせて、決算書をどう作成するかを理解した。

決算書類もエクセルで作成する。

毎日の振替伝票を月ごとの試算表にし、試算表を合計すると貸借対照表の原型が出来上がる。

それを決算書のフォーマットに埋めていく。言葉にすると単純だが、日頃振替伝票と試算表を作成していないとできない。

ようやく出来上がった初年度の決算は赤字だった。

けれども決算書上の赤字であって、申し込んでくれた旅行客に迷惑をかける類の赤字ではない。

ちなみに、現在は、決算書をウェブ上で作成できるフリーウェイ・ジャパンを使っている。

必ずしも全てこれで作成できるわけではないが、最終的に税務署に提出する書類をきれいに作成できるので便利だ。

経理実務と決算については、そのすべてを書ききれるものではない。

年度ごとに状況は違い、それによって決算書の記載内容は変わってくる。未だに経理実務を完ぺきに理解しているとは言い切れないが、日々「公明正大」に行っていることだけは確かだ。

ここに書いてあることは、旅行業のSOHOだけではなく全ての小規模会社にも当てはまることだと思う。

注)このはなしは、コロナ禍以前までのこと。世界的パンデミックを経験した今、旅行業の未来はまだ見えない。

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