高級メロンよ、どこへゆく。
タカミメロンか……それもイイな。
ふわふわのネットに鎮座ましましている高級メロンがずらりと並ぶ棚をじぃっと眺めていると、そばにいたご婦人が話しかけてきた。
「どれが食べごろか、迷うわよねぇ」
メロンたちを穴が開くほど見つめていたわたしは、ちょっとしたバツの悪さをおぼえつつ、
「そうですよねぇ。こう、オシリのところがすこし柔らかくなって香りがしだしたら食べごろ、とか聞きましたけど」
言いながらメロンをうやうやしく持ち上げて鼻を近づけてみせたりした。
「孫がね、メロンが大好きなのよ」
「そうですか、じゃぁお孫さんに?」
「あんまり好きみたいだから、スイカみたいに輪切りにして、抱えて食べたいって思わない?って聞いたのよ、」
「メロンを⁈ それはなんとも贅沢な食べ方ですねぇ!」
「そしたらね、そんな食べ方じゃなくて、すこぅしずつでいいから毎日食べたいって言うのよ」
ご婦人はなんとも愛おしそうに目を細めた。かわいくてたまらないといったふうに。
女の子の孫からはTシャツなどよくプレゼントをもらうので、お礼にメロンを買ってあげたくなったのだそうだ。
「男の子の孫からはそういうの(プレゼント)はまったくないのよ、おばあちゃんたまにはゴハン行こうって言ってくれても財布持たないでくるしね。でも男の子はすごく気が優しいの」
そうだよ。男の子は気が利かないかもだけど優しいんだよ。
ひとり息子をもつわたしは心の中でつぶやいた。
「喜んでもらえるといいですね〜」
かわりに最高のメロンを選んであげたくなったが、目利きができず残念。
皮の網目がととのっていると美味しいっていうのも聞いたことありますね、などと言いつつ
ふたりであちこちのメロンを持ち上げては吟味する。
「わたしは職場へ持っていこうと思ってたんですよ」
あらそう、という感じでメロンから目線をあげたご婦人。
「老人ホームに勤めてるんですけれど、このあいだお皿を割っちゃって、そのお詫びに。こちらの桃とどっちがいいと思います?」
わたしのカートにはすでに、これまた高級そうで金色のブランドシールがついた桃が4つ、丁寧にラッピングされて入っていた。自分では絶対買わないやつだ。
「そうねぇ、あげる先の人数にもよるけど……」
10人くらいのところなんです、と言うと
婦人はちょっと考えて
「メロンなら10人ぐらいに分けられそうじゃない、そういうところだとなかなか口に入らないだろうし」
と、アドバイスしてくれた。
そうなのだ、わたしが勤めるホームでは食卓にメロンがのぼることは、まずない。
悲しいかな、憧れのメロンなのだ。
もっとも、わたしがメロン好きだからよけいそう思うだけかもしれないけれど。
「よしっ、メロンにしよう!」
わたしは見知らぬご婦人とひとしきり会話を楽しみ、それぞれ選りすぐりのメロンを手にその場をあとにした。
同じところから旅立ったメロンたち。
どちらも喜んでもらえるといいな。
わたしはだいじに抱えていたメロンを丁寧に助手席に座らせて、上機嫌で家路を急いだ。