モザイクス1stアルバム『無駄吠え』全曲レビュー
モザイクス活動10周年記念盤にして初のフルアルバム『無駄吠え』が2024年10月24日に発売となる。
現在ライブ会場では先行販売されておりボーカルの鈴木弱聴氏よりサンプル盤が送られて来た。
今回は元メンバーとしての目線も交えつつレビューを書いてみようと思う。
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モザイクス1stアルバム『無駄吠え』¥1500
【収録曲】
1.無駄吠え
2.糠に釘
3.ときめき
4.見える景色
5.心まで老いてきた
6.説教するは我あり
7.無限ループ
8.握りしめたもの
9.ブラックサバスによろしく
10.五十歩百歩
11.お前の差別が顔を出す
12.プロレタリアな夜
13.東海林
14.センタービレッジ
15.明日へ
16.ノーリミット〜栗城史多へ〜
17.デスゾーン〜栗城史多へ〜
18.何やってんだ俺は
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アルバム全編を通してまず感じるのは鈴木さんのボーカルは聞き取りやすい日本語歌詞で良い。
耳に残るワードの組み込み方がうまいのだ。
鈴木さんは歌詞を作るための歌詞を書かない。
本気で心から感じた事、その時々に思っている事を綴るので嘘がない故に心に響くのだと思う。
鈴木さんはパンクバンドだからといって決して反戦や政治批判などと言ったベタなネタを題材に取り上げない。
家庭を持った中年男性として普通に働いて生活をしている中でその時々に怒ってる事、不満に思ってる事を等身大で捻りのない真っ直ぐな言葉で表現をする。
これについて私は表現というよりは親父の小言、日記に近いような気もする。
鈴木さんとの雑談や飲みの場での愚痴が新曲の歌詞となって上がってくるのを元メンバーの私は何度も体感してきた。
心から思ってる事だからこそライブで全力で歌い、それが観る者の心に響く。
※主に中年男性に刺さる。
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改めてモザイクスのプロフィールを振り返っておく。
2014年ボーカルの鈴木弱聴、ドラムの竜翔丸を中心に結成。
都内を中心にライブ活動を行うジャパニーズハードコアバンドである。
結成当初から変わる事なく2ビート主体のリズム、シンプルなコードワークによるささくれたギターのリフを主軸に組み立てられた哀愁のハードコアパンクサウンドを体現し続けている。
幾度かのメンバーチェンジを経たのち今年10周年というアニバーサリーイヤーを迎え念願だったキャリア初のフルアルバム完成に至った次第である。
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モザイクスのバンドサウンドは先述した鈴木さんの日本語歌詞による魂の叫びの他にもう一つの特徴がある。
ドラムの竜翔丸氏によるハイスピードかつパワフルで歯止めの効かない2ビートのドラムである。
竜翔丸氏の性格と人間性がそのまま演奏スタイルに現れているステージパフォーマンスは必見である。
この基本となる2本の柱を軸にその時々の弦楽器隊の個性が加味されてサウンドが変化するのも特徴と言えるだろう。
既発のdemo2014、demo2017、demo2021あたりを聴き比べてみると変化がわかりやすい。
いずれも三軒茶屋のレコードショップ・フジヤマにて入手可能。
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1.無駄吠え
オープニングナンバーとなるこの曲はキャリア初の音源であるdemo2014においても一曲目に収録されている、いわばモザイクスの出発点でもある重要な曲とも言える。
2.糠に釘
スピード感溢れるビートに乗せて、何度同じことを言っても糠に釘を打つかのような感触しか得られない相手への不満が爆発というわかりやすい怒りがテーマの曲である。
3.ときめき
「断捨離」というワードを軸に人間関係もプライドもいらねぇ物は捨てちまえという鈴木節が炸裂する新曲。
4.見える景色
何度かアレンジが変わって行った結果、独唱から始まるverへと変化し泥臭さが増し大化けした曲である。
5.心まで老いてきた
竜翔丸氏のハイスピードドラムが心地よく、「老い」をテーマにカッコ悪い歳の取り方するなよという熱いメッセージを感じる一曲である。
6.説教するは我あり
以前鈴木さん曰くスターリンみたいな曲をやりたかったと語った通りノイジーなサウンドとシンプルなコード進行に古き良き日本のハードコアパンクを感じる一曲である。
7.無限ループ
モザイクスの楽曲の中では珍しい変則的なアレンジ進行を楽しめる意欲作である。
8.握りしめたもの
ライブでの人気ナンバーであり「氷結の曲」として認識されている一曲である。わかりやすくキャッチーな曲でありながら「氷結350缶」という底辺労働者の味方をテーマに中年の哀愁を歌う歌詞が良い、
9.ブラックサバスによろしく
活動初期からライブで披露されていた未音源化の幻の楽曲が正式に音源化。背伸びしてCD買ったけど全く良さがわからなかった誰もが通る「あるある」を歌にした一曲。
10.五十歩百歩
自分の事を棚に上げるなというわかりやすいメッセージを1分以内にまとめたとにかく速いスラッシュコアな一曲。
11.お前の差別が顔を出す
差別をテーマに自分を見下しすヤツらに鉄槌を下すような歌詞が炸裂する一曲。コロナ禍を経て意味が増し深みがでた曲となっている。
12.プロレタリアな夜
これぞ中年の哀愁、賃金労働者の叫びでありこれぞ実生活の不満を歌詞にぶつける鈴木節という一曲となっている。こちらも新曲である。
13.東海林
恐らくあの有名人をターゲットにしたモザイクスにしては珍しく攻撃的な曲でありながら自分を見下す者への反骨を代弁している内容にも受け取れてサラリーマンからの共感を呼びそうな新曲である。
14.センタービレッジ
全熟女好きに向けたテーマソングであり、センタービレッジという分かる人には分かる男同士の共通言語を上手く取り入れた内容ながら、同世代の男女に向けた応援歌でもあるポップな一曲である。
15.明日へ
モザイクスでは珍しいストレートで前向きにさせる中高年に向けた応援歌である。中年のオヤジ達がオヤジに向けて歌うからこそ味わい深さが出る、オヤジ達の青春パンクと言ったところか。
16.ノーリミット〜栗城史多へ〜
予備知識として栗城史多という破天荒な登山家について知っているとより世界観が伝わる曲となっている。夢見る(他人から見たら)バカな大人へのメッセージソングである。
17.デスゾーン〜栗城史多へ〜
栗城史多シリーズ第二弾、ハッタリと嘘は極めれば世間から見たら滑稽だとしても胸に熱いものを秘めた(他人から見たら)バカな大人にはたまらないカリスマという存在になる事が出来る。それがマイノリティだろうと小さな界隈だろうと関係なく、愚直に突き進む男はバカである事に対して真摯であればカッコイイのだ。そんな忘れかけてた想いを再燃させる一曲である。
18.何やってんだ俺は
モザイクスといえば「何やってんだ俺は」と認知される事が多い代表曲である。
大人になればなるほど自分自身に問いかける「何やってんだ」という言葉の破壊力は大きく、だからこそそこにある物の輝きは美しく哀愁を誘う。
いい歳してバンドを続けて来たからこその10周年であり、アルバムの最後に相応しく、またこれからのモザイクスの活動を彩り肯定するナンバーとなっている。
言われなくてもわかっている、恥の多い人生だからこそ私もまた「何やってんだ俺は」と自分に問いかけながら前に進みたい。
そう思わせる鈴木さんからの言葉の贈り物だと思っている。
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モザイクスは現在アルバムを引っ提げてレコ発企画ライブを展開中である。
もし気になった方は是非足を運んで頂き、彼らの持つ熱量と哀愁溢れるステージに触れて欲しいと思う。
取り急ぎレビューなどを書いてみた。
改めまして、活動10周年おめでとうございます!