#書く術 note 第11回 【執筆編】田所さんロングインタビュー
ブラッシュアップ・ライティング
みなさん、こんにちは。
SBクリエイティブより本年10月に刊行予定の新書、
『書く術』(仮題)の製作委員で、訓練生担当の直塚大成です。
ひろのぶと株式会社より正式に依頼を受けました
『スローシャッター』特別企画
著者・田所敦嗣さんへのロングインタビュー。
完成までの道のりを、引き続きお見せいたします。
前回の【感想編】はこちらです。
依頼内容の確認
まずはじめに、依頼内容の確認です。
ひろのぶと株式会社より正式にいただいた依頼段階で、企画の目的や資料イメージ、想定字数などの情報をもらっていました。その中で「原稿の執筆」に関わるところを抜粋します。
今回トップ画像でご一緒しています、廣瀬翼さんからお伝えいただきました。
1. 資料の目的
現状では本を読まないと伝わらない以下のポイントを短い資料で伝え
「ただの旅行、他の紀行と違うから置いてみようかな」
「海外、旅以外にも、こんな切り口で特集に上げられるかも」
「こういう人が書いた本なら、読んでみようかな」
など、本を手に取るきっかけを作る。
2. 伝えたいポイント
● 田所さんの人柄
・一般の人(職業作家や著名人ではない)であること、サラリーマンであること
・性格や人との関わり方、仕事で大切にしていること
● 仕事での交流であること
・行きたくて行っているわけではない点
・観光地ではない点
3. 想定使用場面
● 書店さまやメディアの方とお話しする際に参考資料としてお渡しする
● 書店に本と一緒に置き、お客様に手に取っていただく
● ひろのぶと株式会社の直販サイトやイベントで読者やファンにお渡しする
4. 資料のページネーション(大枠構成)
● A5 4ページ冊子(A4用紙を二つ折りに) フルカラー
5. 原稿字数
● 表1(表紙) リード部分:200文字程度(MAX270文字)
● 表2/表3(中面) 記事本文:2,000文字程度(MAX2,200文字)
●表4(裏表紙)は書籍情報などを掲載予定
6. 文体形式
● 三人称(地の文と「」)
または
● QA方式(——質問。 田所:回答)
7. 記事内で特にフォーカスしたいポイント
田所さんのキャリア、仕事、仕事への姿勢
「ビジネス」の側面を感じられるようにできるとうれしいです。
8. スケジュールについて
初稿締め切り:取材から1週間(5営業日)
以上が、今回受けたご依頼の詳細でした。
執筆開始
要するに、
あのベリーロングな書き起こし原稿を
最終的に「2000文字程度」に収める必要があるということです。
78000字 → 2000字
驚異的な圧縮率です。
いくらインタビュー記事が、書き起こしから言葉を選んで作られるものと知っていたとはいえ、これほど膨大な文字数から選ぶことまでは想像していませんでした。
それに、どんな言葉を選ぶべきかという指示はありません。
インタビュー原稿の書き方を教わっているわけでもありません。
さらに言えば、田所さんとお話しした言葉は、
出来ることならどれも外したくありません。
全文を残したい気持ちでいっぱいです。
しかし、決まりは決まり。
どうなるのか想像もつきませんが、やるしかない。
まずは原稿としては粗削りでも構わないので、文字数を減らしていき、完成記事に少しでも近い形を目指すようにしました。オリジナルの書き起こし原稿さえしっかり保存しておけば、何度でもやり直すことができます。書き起こしをしておいて良かったなと、心から思いました。
スリムアップ・ライティング
こうして原稿を作るにあたって、僕は2つの基準を設けました。
1.自分の言葉は入れない
まず1点目です。
自分の話している箇所を原稿に加えないようにしました。
「インタビュー記事なのにどうして?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。そのような判断をした理由としては、田所さんの魅力をそのまま伝えたかったからです。それならインタビュアーである僕の質問や感想を入れるよりも、田所さんの言葉のみで構成する方が良いと考えました。
自分の話している箇所をまるごと取り払い、田所さんの言葉で重複する部分は調整して、まず4万字まで削ることができました。
2.「明日仕事行くのヤダな」と思っている人にうったえかける記事にする
続く2点目です。
取材中に印象に残った言葉を軸にして考えるようにしました。
はじめてのインタビュー原稿ですから、手探りで作っていくにあたって軸になるものが必要です。それを、田所さんの言葉から探すことにしました。そして見つけたのがこの一節です。
僕はこの田所さんの想いを中心に、原稿の執筆を進めました。「明日仕事行くのヤダな」と思っている人が、このリーフレットを思わず手に取り、そして『スローシャッター』にも出会ってほしい。そう考えて、記事にする部分を選んでいきます。そうして2万字まで絞り込み、さらなる試行錯誤の結果、なんとか1万字にまですることができました。
クライアントとの打ち合わせ
そして1週間後、クライアントである
ひろのぶと株式会社との打ち合わせが行われました。
打ち合わせの内容は、第1稿の確認と進捗報告です。打ち合わせには1万字の原稿と合わせて、完成に近い2000字のラフ原稿も準備して臨みました。
ラフ原稿は時間がないながらも、何度も読み返して文字数を絞る作業を繰り返し、セリフのつながりを整えて、2000字に落とし込みました。さて、これがどう評価されるのでしょうか。
フィードバック
打ち合わせは1時間半で終了。
丁寧で事細かなご指摘のおかげで、今後の課題が明らかになりました。
1週間で書き起こしからラフ原稿にする過程は高い評価をいただいたものの、やはり完成品からは程遠い出来でした。
いただいたフィードバックは大きく2点です。
以下にまとめます。
1. 仮でもいいから、見出しを先に立てる。
今回、僕が提出したラフ原稿は『先輩に地図だけ渡されて、行きました』という書き出しから始めています。そして見出しの赤枠に「田所さんはどうしてアラスカに?」というイメージの見出しが入る予定でした。
これはトリッキーな書き方で逆張りがしたかったわけではなく「明日仕事行くのヤダな」と思っている人に届けるための作戦でした。
本来なら、まず田所さんが水産系商社でお仕事をするようになった理由について、アメリカの従兄弟の家を訪ねたり、大学卒業後に機械メーカーに携わったり、大の釣り好きだったり、などなど、いくつもの選択が絡まっていることを説明することが丁寧だと思います。
しかし、「仕事に行くのヤダな」と思っている方々の視点で考えたとき「いきなり地図だけ渡されてアラスカに行くって、どういう状況なの?」と仕事の枠を越えた書き出しの方が興味を持つのではないかと考えたのです。
しかし、泰延さんはこの点を指摘しました。
「それなら、とりあえず見出しを書こう」
書かれた文章が何の話をしているのか、
どこへ行こうとしているのか分かるように
①順を追った文章にする
②田所さんの言葉の前に、それがA(答え)になるようなQ(質問)を入れる。
③何の話題か予測できるような見出しを置く
このどれかが必要、というFBをいただきました。
また、他のページ(画像外です)も、仮でいいから見出しがあれば構成イメージが掴めるけれど、それが無いので全体が見えにくいという指摘もありました。
そして、例として、その場でいくつかの見出し案を泰延さんが考えてくれました。それぞれの見出しで読んでみるだけで、かなり印象が変わります!
これが1点目のフィードバックでした。
これだけでも、次に大きく生かすことが出来ます。
2.記事の目的やクライアントの要望を見失わない
僕が打ち合わせで最も反省したのがこの2点目です。
今回の取材記事には、文体形式の指定がありました。
しかし僕が用意したラフ原稿は、「3人称形式」でも「Q&A方式」でもありません。田所さんのセリフのみで構成されている「モノローグ形式」です。
田所さんの魅力をそのまま伝えたいという思いが先走ってしまい、仕様として形式の指定があったことをすっかり忘れてしまっていました。それは「クライアントの要望」ではありません。
同様に「明日仕事行くのヤダな」と思っている人に届けるという意識も、クライアントの要望に書いてあったわけではありません。
それよりもまず踏まえるべき目的がありました。
今後も、目的意識を持ったブラッシュアップが必要です。
「ライターとして書く」重みを改めて感じました。
フィードバックを受けて
打ち合わせも終わり、とても丁寧なフィードバックをいただき「さあ、次はもっと良い原稿にしてやるぞ!」と意気込んでいた僕ではありますが、実はそれと同じくらい頭が混乱していました。
その理由は、今回の原稿が「変則的な書き方」や「あんまりない手法」という評価をいただいたことです。7万字から4万、1万と段階的に縮めていくやり方も「普通はそんな時間かかる方法しないよ(笑)」とのことでした。
とはいえ、僕としてはこれが最善のつもりでした。渾身のストレートを投げたのに変化球扱いになり「次はまっすぐでいいんだぜ!」と言われる始末。これは『私と北条政子』の時にも感じたことでした。
正しくストレートを投げるには、ストレートを習わなくてはいけません。そこで、打ち合わせが終わった日の夜に、思い切って「どのような書き方を基準にすれば良いのかわかりません。教えていただけませんか」という旨のメールをクライアントへ送信しました。
これはもしかすると(もしかせずとも)、
かなり失礼なメールだったかもしれません。
すると翌日、次のような返事が返ってきました。
この件に関連する部分だけを抜粋いたします。
追加フィードバック
いただいたトンマナのご質問
一人称(ひとりがたり / モノローグ)
二人称(Q&A方式 / 対談方式)
三人称(地の文と「」)
それぞれ参考例を下記します。ただし、いずれもWEBベースなので多少本件とは勝手が違うと思います。「これに合わせて欲しい、模倣してほしい」というわけではありません。
あくまで、それぞれの形式の特徴や
読みやすい文章の参考程度に思ってください。
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▼一人称の例
>「売名行為」と言われても揺らがなかった。『五番街』はなぜ貧困家庭の子どもの無料カットを創業から40年続けているのか
「いま行なっている活動・事業の話」を比較的わかりやすい構成で背景から順番に話している例です。
>クレンジングオイルジェルを自分の髪に塗ったことも?! 常識を超えた発想を形にする「スタイリング剤開発」の仕事とは|裏方から見る美容の世界
本記事はインタビュー中で最もフックになりそうだったキーワード部分を頭に持ってきているという点で参考になるかと思い、ピックしました。
▼二人称の例
>「恥ずかしいって、すごく良いこと」ZAZYに訊く、恥で測る“自分らしさ”。
かなり会話の語り口を残したやわらかい記事の例です。
>「文と向き合うほど、唯一の正解が世の中にどれだけあるかわからなくなる」校正者・牟田都子が語る、仕事論
リードがコンパクトで参考にしやすいかもしれません。
▼三人称の例
>性と生を赤裸々かつ繊細に綴るWeb作家が満を持しての書籍デビュー『全部を賭けない恋がはじまれば』稲田万里インタビュー
ダ・ヴィンチの本誌に載った記事のWeb転載です。比較的「インタビュイーの言葉」を軸に多く入れながら、テンポよく地の文で話を展開している記事です。
>彩瀬まる、人の考えの揺れを描く小説 「幻想を交えた」
日経新聞の文芸欄の記事です。こちらは基本が地の文で、印象的なここぞというところにだけ「インタビュイーの言葉」を使っているタイプ。
====================
どの形式にもメリット・デメリットがあります。また、どの形式を選択したとしても、文章の堅さや、どの程度インタビュイーの言葉を盛り込むかには幅があります。
何度もお伝えしていることになってしまいますが
● 田所さんのことを知らない人にも伝わる、
は担保した上で
● 田所さんの人柄が伝わる
● 直塚さんが読みたい、興味深いと思える
記事にしていただけると、うれしいです。
直塚さんが田所さんを取材して、どこが心に残ったのか。グッときたのか。
「直塚さんの琴線に触れたポイントは、ここだ」という核が伝わってくるといいなぁ、楽しみだなぁ、と私は思っています。
最後に、この先はちょっとお節介だと思うので、読み飛ばしてください。
まず、今回の企画、受けてくださってありがとうございます。まだ途中ですが、改めてお礼お伝えさせてください。
取材の雰囲気がとても良かったのは、直塚さんがとてもしっかり『スローシャッター』を読み込んでくださっていたからだと思います。ありがとうございました。
それから、昨日はスタイルがオーダーと違ったことについてお話ししましたが、あくまでそれは仕事として受けるならば、それに必要なコミュニケーションはあるよね、というフィードバックなだけです。
私個人は、直塚さんの記事に対する姿勢やコメントは、取材を受けて自身で考えて「こうしたい」という意思を持って記事をつくろうとしてくださっているんだなと感じ、うれしくもありました。だから「こんなFBを受けたけど、こうしたほうがいいのだろうか」とか「これは違うのだろうか」と必要以上に迷わなくて大丈夫です。「自分はこれが読みたいんです!」をまずは書いてみてください。その上で、もし「話を知らない人」が読んだら伝わりにくい部分があれば少しずつ編集してすり合わせていけばいいです。
そのために編集者はいるし、クライアントのチェックもあります。
初めてのお仕事としては内容もスケジュールもなかなかのものだと思います。でも、直塚さんなら最後の最後には私一人・泰延さん一人・田所さん一人では生み出せないいい記事を一緒につくり上げてくれると、書き起こしからの原稿制作過程を自分で考えて進めている様子や昨日のZoomの話で確信できました。
なので、とても楽しみに原稿お待ちしております。
またもしご相談・ご質問あれば、お気軽にメールにてご連絡ください。
引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。
追加フィードバックを受けて
人生で一番丁寧なメールでした。聞いた僕でさえここまで丁寧なメールを返してくださるとは思ってもおらず、めちゃくちゃ感動しました。
一人称形式・二人称形式・三人称形式
ここまで区別されると理解できないはずがありません。そして恥ずかしながら「トンマナ」という言葉も初めて知りました。これも成長です。
さらに原稿を作る過程で、知らず知らずのうちに排除していた
「感動を中心に書く」
という点を強調してくださったことで、自分のやるべきことが明確になりました。
何より、最後のメッセージが心を打ちました。
ここまでしてもらって頑張らぬわけにはいきません。
次はもっと良い原稿にしてやるぞ!
ということで、今週はこの辺にてお別れです。
インタビュー記事の途中経過をお送りしました。
お読みいただき、本当にありがとうございました!
次回予告
1800字まで走り出す俺!!
乞うご期待!
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