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小学校教員を辞める

 「現状に至ったここ数年」をふりかえっています。今回は、③小学校教員退職→鍼灸師を目指す決意について。
 正確には、小学校の教員を辞める決意と鍼灸師を目指す決意の間にはタイムラグがありまして、あらためて整理すると、教員辞める決意(2016年8月14日)と鍼灸師目指す決意(2017年6月16日)との間は約10ヶ月ありました。まずは、教員を辞める決意のいきさつから。
 2016年に入ってから、月に一度、F先生の治療を受けるようになりました。先生の治療はとても心地良く、治療後は明らかに身体が楽になるので、毎回とても楽しみにしていました。
 7月も半ばがすぎ、小学校も夏休みに入った頃、いつものように先生の治療を受けにいきました。「修行」の話が出たのは、その日が最初でした。

 ここで新しい登場人物。「気の先生」こと、Aさんです。Aさんのことは皆、「先生」ではなく「さん」づけで呼んでいるので、ぼくたちもAさんと呼んでいますが、「気」を操ることが出来る、すごい先生なのであります!!

 F先生の話はこうでした。「Aさんと一緒に、修行と称して全国の寺社仏閣を巡るツアーをもう長いことやってますが、よかったら今度一緒に参加してみませんか。」
 何それ!面白そう!笑 ぼくも妻も、その場で参加したい意思を伝えました。日程は8月13日・14日、行き先は石川・富山方面。
 Aさんとは、現地で初めて対面しました。真っ白な髪が印象的な、ややふくよかな老年の男性。どこか神々しさを感じます。
 修行の道中について書き出すとすごく長くなってしまうので、省略してクライマックスの部分だけ。一行は、能登半島にある「義経の舟隠し」と呼ばれる岩場に来ました。皆が般若心経を唱える中、ぼくは弓を引いて海に向かって矢を放ちます。矢はキレイな放物線を描いて、崖の向こうへ消えていきました。この瞬間、ぼくは小学校の教員を辞めることを決意しました。

 小学校の教員を辞めようと思ったことは、正直に告白すれば、在職中、実は何度もありました。それこそ1年目から笑。1年目は実際、当時の所属校の校長に辞意を伝えましたが、同僚の説得や励ましもあって辞意を撤回。最も信頼していた同僚先輩の「何がなんでもとりあえず3年はやってみて、それからまた考えたらいい」の言葉が妙に腑に落ちて、頑張れたのを思い出します。4年目には、新しく赴任してきた妻と出会い職場結婚。人生、何があるか分かりません。
 何度も辞めようと思った理由は何か。1年目は新任で単にスキル不足、経験不足ゆえに上手く仕事に適応できず、心身にストレスがちょい過剰にかかってしまい・・といった、まあ程度の差はあれど、割とありがちな理由です。そして、経験を積んでいくことで、そのしんどさは克服することができました。辞めたいと思う理由の中心は、「教員の仕事そのものに対する自己欺瞞」にありました。自分を偽って場の空気に順応する「自己欺瞞」が精神の深いところを傷つけていることをぼくはずっと自覚していました。
 ぼくは教員として、教え子たちにどんな人間に育ってほしいか、明確なものがありました。「シン・ニホン」の著者、安宅和人氏の言葉を借りれば、「異人」になってほしい。あるいは、自身が「異人」になれなくとも、「異人」を尊重できる人であってほしい。世の中のルールが根底から変わっていくこれからの時代、夢(妄想)を描き、マルチな領域をかけ合わせてそれを形にしていく力をもった「異人」の活躍が不可欠であると考えていました。
 ところが、学校は「異人」とは真逆のベクトルの人間を育てる場所なのです。いまだに「気をつけ」「前へならえ」の世界。型を教え、型にキチンとはまることを良しとする世界。「空気」を読める人間になることが最も評価される世界。
 担任する子どもたちに、ぼくは教室で熱っぽく、これからの時代がどう変わるのか語ります。そして世の中(学校)に意味のない(むしろ害になる)決まりや仕組みがあることを語ります。でも、朝会で校長の話を聞くときに、ぼくのクラスだけ「気をつけ」や「前へならえ」をしないわけにはいきません。矛盾。
 システムを今すぐ変えることが出来なくても、同僚ともっと議論をしてもよかったかもしれません。ですが、ぼく自身が「空気」を読んで、毎度職員会議でおかしいと思うことがあっても、発言することなくやり過ごしていました。矛盾。
 決定打になったのは、2015年9月に筑波で行われた中央研修に参加した経験でした。当時、ぼくはまだ30代後半でしたが、その研修に参加するということは、そう遠くない未来に管理職(教頭)になるということを意味していました。研修には、日本各地から校長や教頭、教育委員会の指導主事等も多数参加していました。5日間のプログラムでしたが、「日本の学校教育のシステムはまだまだ変わらない」ということを参加者との交流を通して痛感しました。日本は肩書きの国です。じっと耐え、組織内でそれなりの地位につくことで、あるいは自身が思う望ましい教育のあり方を少しは実現出来るかもしれない、そういう未来も考えてはいました。が、それはかなり甘い展望だと確信しました。
 
 修行に参加したぼくは、Aさんに「今の仕事を続けるべきか辞めるべきか悩んでいる」旨を伝えました。ぼくの放った矢の様子から「気」のレベルで未来を見通せるAさんの答えは、「今、決断して大丈夫。」あの日、あの瞬間、太陽が少しずつ傾いていく日本海を眺めながら、ようやくぼくは、「自己欺瞞」の日々に終止符をうつことを決断できたのでした。 

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ウラサト
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