2020年おもしろかったマンガ —ラブコメに出会った年—

思春期まっただ中、『僕ヤバ』市川のようにラブクラフトや殺人の本を読んでいました。現象としての力は人間の存在に左右されない、正気を失うとは自分の実在をどこまで認識できるか、みたいなことばかり考えて友達はいなかった。そりゃそうだ。その頃、とある事件があってマンガやアニメは有害な何かがあるのかもしれないと遮断して部活に集中するようになったので、同世代の常識があまりない。ドラゴンボールはアニメのシーズン1しか知らないし、そこから後のアニメは京都アニメーションの「けいおん!」まで知らないまま。

でも、今年は自粛もあってマンガをいろいろ読んでみようと小耳に挟んだ作品に手を出していたら、気づけば登場人物が優しくて戦わない物語ばかり選んでいた。選んだ作品は(個人的に)どれも大島弓子先生につながっている。
(1)絵がきれい・かわいい
(2)エログロなし:無駄な巨乳がいない
(3)やさしい世界:暴力反対
(4)ふつうじゃない人たち
これらの要素がマンガを読むときの個人的ポイントです。これらの要素ってアニメ化にも共通するので、アニメから入った作品も多い。
今年読んでおもしろかったマンガは以下の通り。それぞれの項目を★5でつけてみましたが、要素の多寡であって善悪ではないことをお断りしておきます。

かぐや様は告らせたい

(1)絵がきれい・かわいい:★★★★
(2)エログロなし:★★★★★(パンチラなんて不要です)
(3)やさしい世界:★★★★
(4)ふつうじゃない:★★★★

7月にアニメを見て11月にコミックス一気買いしました。キャラクターの豊かさ、物語の展開、週に1回は全巻読み直すくらいはまっている割に内容を覚えられないので、Evernoteにあらすじを書き出しています。各回のタイトルも意味深で、伏線の絡み具合とほどけていく様も見事。
キャラの一押しはかぐや様、かな。有能な人のポンコツさ、ツンデレのデレにポンコツさが混じるとこんなに魅力的になるのかと驚くばかり。第39話で思い人である会長の妹に会うところで妄想全開になって喜んでるところとか、メイドの早坂に本心を悟られながら反抗するところとか、おかわわわです。作中で「パンツを見せないラブコメなんて」と自嘲していますが、そこがいい。作者は疲れたOLさんが楽しめるように描いているそうですが、自分がターゲットど真ん中だとは思ってもみませんでした。
アニメ化されてない、そして第3期で描かれるであろう11〜15巻の内容は白眉。作者が笑いと泣きの両方を見事に使い分けていて、振り回されるのがただただ楽しい。

小林さんちのメイドラゴン

(1)絵がきれい・かわいい:★★
(2)エログロなし:★★(無駄な巨乳が多い)
(3)やさしい世界:★★★★
(4)ふつうじゃない:★★★★

これもテレビアニメから入って読んでみました。ドラゴンが人間に変身して日常をかわいらしく壊していく基本路線が好き。小林さんとトールの弁当合戦とか、小林さんに無条件でデレるところとか。これも広義の百合なのかも?
ただ、8巻あたりからただの一般人である小林さんが力を持つあたりから不穏に……。過去の因縁と解決は語られなければならないのですが、キャラクターの成長というよりは物語に要請された都合の良い変身に見えます。一般人枠を越えてしまうことはこの物語においてチート。小林さんがただの人間でありながら解決できたら今後の展開も楽しみだったのですが、京都アニメーションのアニメ続編が楽しみだから読み続けます。
あと本作の巨乳の使い方がすごく苦手です。作者がやりたいことだろうから仕方ないけど、本当に男性向けマンガではこれが求められてるんですか? 後半出てくるイルルの無邪気エロとか見ててつらい気持ちになります。

好きな子がめがねを忘れた

(1)絵がきれい・かわいい:★★★
(2)エログロなし:★★★★★
(3)やさしい世界:★★★★★
(4)ふつうじゃない:★★

このかわいらしさは反則です! 不自然なくらい眼鏡を忘れる三重さんと、隣の席で教科書を見せてあげる小村くん。わたしたちの世代だったら「おまえらつきあってるの!?」なんて公に後ろ指をさされそうなくらいの距離感ですが、二人は中学生、言葉にして「好き」とか「つきあってください」って言える雰囲気じゃない。そのもどかしさを楽しむ作品です。
柱の「めがね」部分が近眼で見たときのようにぼやけてるところをはじめ、随所に細かい気配りが感じられる。一番好きなのは小村くんのセルフつっこみ。クラスメイトに「三重さんにイケメンα波を浴びせるな」と呪ったり、三重さんの眼鏡に向かって「実質三重さん…!」など自制がききすぎていてキモかわいらしい。三重さんの時折出す天然ぽいキラー小村な台詞もまたよいものです。

お近づきになりたい宮膳さん

(1)絵がきれい・かわいい:★★★★
(2)エログロなし:★★★★★
(3)やさしい世界:★★★★
(4)ふつうじゃない:★

元ヤンキー男子とお嬢様、過去に一度だけ会ったことのある二人が高校で再会。暮らしてきた世界が全くちがう二人だけど、高校生活を通してお互いの魅力を分かっていく、スタンダードなラブコメ。
絵のかわいらしさ、線の確かさが読んでいて安心。話が進むごとにきちんと関係が深まっていくし、新しいキャラも自然に出てきて二人の関係性からクラスや学校へと視野が広がっていくような、元ヤンキー男子と重ねられるような視点が新鮮です。ずる膳おかわわわ。

ヤンキー君と白杖ガール

(1)絵がきれい・かわいい:★★★★
(2)エログロなし:★★★★★
(3)やさしい世界:★★★★★
(4)ふつうじゃない:★★

視覚障害者の音訳ボランティアをやっていたこともあるし、自分自身目がとても悪いので、本作はとても身近に感じる。ボランティアやるまでは視覚障害者との接点は全くなくて、何に困っていて自分がどうふるまえばいいのか分からなかった。
本作は目が見える人と見えない人がどのようにコミュニケーションをとればいいのかを考える大きなきっかけになる。特に4巻で弱視でありながら調理の仕事につくにはどうすればいいか試行錯誤する場面は、「自分は視覚障害者のことを知っている」つもりをくしゃりと潰された。音訳で会ってる一面しか知らないのだと気づかされた。
障害者だけじゃなくて、社会からつまはじきになっているような人たちにも焦点を当てる優しい物語。いつまでも続いてほしい作品です。

若い頃にこれらの優しい物語があったらわたしの人生は変わっていたかもしれない。この年になってすごく影響を受けました。つづきも楽しみです。

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