山口晃は最高なので、アーティゾン美術館に行ってきた
子どもの頃に一番好きだったテレビ番組は「できるかな」。毎日のっぽさんが見られたらいいのにと思ってたけど、たぶん木曜の本放送と火曜の再放送だけ。ビデオもない当時、畳に寝そべってじっと見ていた。輪ゴムを使って動く紙で作られた車を見た時が、人生で初めて機能の美しさを感じたのだと思う。目の前で手を動かして作られたものが動くことの感動。
山口晃の作品が好きなのはできるかなの影響が大きい。今回の展覧会ではジオラマというかウォーリーを探せというか、街を俯瞰して細かい人物や建造物がひたすらに建ち並ぶ作品が多い。時々すごく大きな人がいて建物の2階で蕎麦をすすってたりするのを見つけるのも楽しい。それが美しい線で描かれているというのが最高なんだわ。
美しさと共に楽しませる心、笑いがあるところが最高の由縁。
やっぱり笑いは大事で、展覧会でも言われてたけど「深い精神性」とかどこにあるか分からないものはどうでもいいんだわ。取り出して見せられないものって結局衰退していくしかないんだと思う。
展覧会、まずいきなりすごい体験から始まる。後から来たカップルや若い人たちはわーぎゃー騒いでたけど、会場に筒抜けですからほどほどにね。
そこここにかけられたすゝ゛しろ日記をじっと読みふけってしまう。
ちなみに今回の図録には、すゝ゛しろ日記と、モーニングに掲載されたマンガは収録されていません! 別媒体で売るんでしょうけど、ここにも載せて欲しかったなー。
すゝ゛しろ日記4をあくしてください。
ブリヂストン美術館改めアーティゾン美術館てセザンヌの超有名作《サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール》所有してたのね。美術の教科書に必ず載るような作品だからフランス所蔵なのかと思ってた。
Photoshopでいうところのレイヤーを意識させる作品で、会場でも言葉を尽くして山口晃の解説があります。名作と言われても分かりにくいよね、でも面を重ねることで対象ではなく感覚を躍動させるような見方が求められるという。
ここはわたしには分からなかった。確かに面によって情景を描写する、そのことでミクロを意識させないというのは分かるのだけど、この絵を見て気持ちいいかと問われると難しい。山口晃の域には1万年生きても届かないと思う。それでも説明がきびきびしていてわかりやすい。このセザンヌ見るためだけでも充分もとがとれます。
納得いかなかったのは雪舟の部屋。
障子を通して届く太陽光を再現したかったのかもしれないけど、ガラスが反射して雪舟の絵をまともに見ることができない。セキュリティ上しょうがないのかもしれないけど、目が悪いわたしにはまったく集中できない環境だった。
雪舟含め水墨画は好きで、手前の現実と遠くの楽園、はるか高い山の上の荘厳さが1パックになっている。こういうところで酒を酌み交わしてぼんやり楽しくやりたいよねって気持ちと、そこまで至るのにどれだけつらい山を登らねばならないのかという現実を突きつけてくるところとか、本当に楽しい。
1時間いてもまだまだ見ていられる。見るたびに新しい発見がある。
図録も買いました。図録すごくて、同じ絵を拡大して掲載してる。老眼で細かい部分が見えない人でもだいじょうぶ。
特に東京オリンピックに大反対だったにもかかわらず、なぜパラリンピックのポスターを引き受けたかを、すゝ゛しろ日記形式で解説しているところはちょっと泣きそうになった。将棋指しと同じように自分の指し手へ厳しく批判を向けつつそれでも当時の自分にはこうするしかなかったというやるかたなさが描かれている。わたしも当時なぜ山口晃が?と思ったので、こうして本人の見解を知ることができたのは納得がいくし、これほどの葛藤を乗り越えて描かれたポスターをしみじみと眺めてはすばらしいとしか言いようのない感情に包まれる。
わずかな逮捕者という犠牲をもって「東京オリンピックは成功した、ともかくも終了はした」となかったことにしてしまってはいけないと、忘れていた正義感が再び心のドアを叩く。
本会場が終わって、4Fまで下りると常設展があるのですが、ここにはすごくひっそりと洛中洛外図屏風があったりする。
金の雲がとにかくゴージャス! 雲に箔というか模様があるのです。かなりの人が見過ごしてましたが、見てる人はみんな一斉にため息をつくくらいに絵の力はすごい。
図録もすかさず購入しました。
なんと背が閉じられていない! ページごとに表裏じっくりと眺められるように本の形になっていないのです。これもすごい。そしてこの形式は山口晃の絵にぴったり。マストバイでっせ。
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