五条別れの道標とSNS言論空間のゆくえ
note上で文書を公開するにあたって、改まって書くのも気恥ずかしいが、せっかくの機会なのでつらつら認めたい。
五条別れ
京都市内には別(分)れとつく場所がいくつか(ざっと調べたところによると8カ所で、柊野はフォント「ヒラギノ」の語源)ある。
そのうちの「御陵(みささぎ)中内町道標」(通称、五条別れ)は、幕末の江戸末期に建てられ、そのまま進めば東海道の終着地「三条大橋」へ、左に折れれば「五条・伏見方面への近道」を示す役割を担っていた。
JR山科駅から旧三条通を西へと進んだところに現存し、京都市指定の登録文化財(史跡)となっている。
本線から支線へと入らず通り過ぎてしまえばはるかな遠回りとなる要所で、往時の様子は寡聞に知らないが、これかと思えば真に立派な道標なのに、現状は擬態のごとく景色に馴染んでいるため注意していなければ見落としてしまうだろう。
ここを折れていくと、右手に京都薬科大学の本校、その先の三条通を越えたところに同大学の南校があり、そのまま住宅街を進んで渋谷街道、さらに五条通(国道一号線)を越えると、いくつかの街道筋があることからも往来が多かったと思われる。
五大力さんとして有名で、今もなお2月には全国から10万人以上の参拝者が訪れる醍醐寺も街道沿いにあり、醍醐を抜けて伏見へと通じる。
街道というのは行き止まりになっては意味がないので網目状に構成され、ゆえに混みいれば迷うことになってしまうのだが、どのように別れようとも、本筋さえ見失わなければ、全体の様子をある程度は見通せるだろう。
レゲットの樹と伏線の回収
過日のことになるが、山科で待ち合わせをしていたら、JRの遅延で時間を潰さなければいけなくなり、スイス菓子ローヌ本店さんでチーズケーキでも買おうかと、旧三条通を歩き始めた。
駅前こそ建物が建て替わっているようでも、疏水のあたりから古めかしい雰囲気になり、當麻寺さんにも変わりないように見えた。
この先の左側に五条別れの道標があり、これを目印に角を曲がって通っていたはずなのに、当時の記憶は薄れていて、こんなに狭かったっけと思うばかりだった。
近頃は、書籍や論文など資料を読み込むことが業務の一環で、それで感じることは、文脈がわかりづらく、結論がなかなか見えてこない。
その昔、日本語の論文というのは伏線だらけで先が見通せず、何を言いたいのかよくわからないまま結論に至ってしまい、結局は元に戻って読み直すしかないということだったらしい。
これが英語圏では真っ先に結論が置いてあり、これを本線として、そこからいくつかの支線が伸びる。
「レゲットの樹」は、この相違を図解したもので、理系の論文を書く手解きを受けたことがある人なら知っているのではないだろうか。
考案者のAnthony James Leggettは、イギリス出身の物理学者で、1960年代には京都大学で日本語による論文を英訳する仕事に就いていた。
この経験をもとに書いた論文の中で「レゲットの樹」を掲げ、日本語と英語の構成の差異を指摘した。
日本語であれば、多数の伏線は最後にはある点に寄ってくるように構成されるのだが、英語では逆に途中から枝分かれするような形をとって、いくつかの支線があるとなると末端までいけば収拾がつかないように思える。
それでも読者が戸惑うことなく読み進めることができるのは、本線をしっかり認識したうえでのことだからであって、道筋が示されていなければ当然のこと迷うだろう。
支線も勝手な話を展開するのではなく、本線を補強するような内容であれば、最終的に本線に戻る(結びつける)ようなことがなくても構わないわけだ。
SNS言論空間のゆくえ
SNS上にはかつて、「バカッター」のかばん語がたびたび登場し、仲間内であれば笑いごとで済んだかもしれない出来事が社会問題に発展するほどの破壊力を世間に知らしめた。
現在はどうかといえば、「泥仕合」のような応酬が、これもまた以前であれば陰になって見えなかったはずなのに可視化されてしまう。
巨大なプラットフォームの横暴ともいうべき混乱の中で、分散型と呼ばれるソフトウェアの連合に居を移し、次なるSNS空間を構築する試みが有志によって行われ、興味を示す人たちが日ごと増えている。
人生100年時代を迎え、少子高齢化の社会という現実を前に、日本語環境はどうなっていくのだろうかと、ふと考えることがある。
そのあたりのことが語られるSNS言論空間であってほしいと切に願うのだが、トレンドには下世話なワードが並び、先の見通しはけっして明るくない。
#今ここ私
書くにあたってこれといった目的・目標はないのだけれど、「今ここ私」を残しておくことにしようかと思う。
盛大なプロローグだからって期待なさるなよ。この先は戯れ言のような雑文が並ぶだけなのだから。
※更新は不定期で、その際にはX(旧Twitter)で告知します。