正月の味覚と祖母の話。
94歳になる祖母がいる。
加齢からくる物忘れや癇癪は多少あるものの、心身共に健康で、日中短時間の留守番はおろか、洗濯物を畳む、電話を取りつぐなどもできる。
だいぶ腰は曲がってきたものの、掴まりながらの自力歩行は可能で、カートを押しながら1日2回は近所を散歩して健康的だ。
食べ物も、量が食べられないだけで、静岡の実家で同居する私の両親と同じ物を食べることができる。
定期的に帰省する私を、いつも快く迎え入れてくれる。
正月の食べ物といえば餅。
一年で唯一かもしれない、餅を一日中食べる時期。
我が家も例外ではなく、正月三ヶ日はお雑煮攻めである。
焼いた切り餅を、大根、鶏肉、小松菜が入ったすまし汁に入れる。
仕上げに青のりと鰹節をかけるのが静岡流らしい。
縁起物であるお雑煮を、我が家では元旦に、おせちと共に全員食べる。
お雑煮をあまり好まない妹も、年始の一食目だけは食べる。
もちろん祖母も。
年始には、餅を喉に詰まらせるお年寄りが毎年のようにニュースになる。
祖母は、毎年他の家族と同じ、餅入りのお雑煮を食べている。
数年前から、「さすがに同じ大きさは心配」と思い、小さくカットした餅を入れることにしているが。
祖母は賢く用心深い。
近所で家の階段から落ちて亡くなったお年寄りの話を聞くと、家の階段を後ろ向きでゆっくり降りるなど、常に我が身に置き換えて対策を錬ることができる。
当然餅の誤嚥についても慎重を期しており、毎年ゆっくりよく噛んで飲み込んでいる。
それでも、万が一のことがあったらと思い、祖母が餅を食べている時は、目の片隅で常に様子を伺うことにしている。
子供の頃医者になりたかった私が昔読んだ救急治療の児童書の、誤嚥の時の対応法を、改めて思い出しながら。
最悪、いつでも救急車を呼べるよう、スマートフォンを常に手元に置きながら。
身体が健康なうちは、いつまでも好きなものを食べさせてあげたい。
逆説的だが、それが健康でいる秘訣なのかもしれない。
でも、目に見えないところで、少しずつ人間の身体は老化していくものだ。
この時期になると毎年考える。
次の正月は祖母に餅入のお雑煮を出してあげられるかどうか。
祖母には少しでも長く、健康かつ充実した生活を送ってほしい。
あと半月に迫った来年の元旦、孫として全力で考え、向かい合っていきたいと思う。