作品を見せたくなる場所
ちょっと面白いことに気づいた。
私は約30年ほど出版業界の片隅に棲むフリーの編集者兼ライター「だった」んだけど、95年頃から若手芸人を中心に取材やらインタビューをやってきて、彼らを間近で見ていた。
若手芸人って一般の視聴者からも近い存在だからだと思うんだけど、よくナメられる。みんなもそんな話を聞いたことあるかもしれない。
彼らがよく言われるのが「ココでネタやってみて!」。
見ず知らずの通りすがりのヤツに言われるのもカチンとくるだろうけど、インタビューに来た編集者やライターも平気で言う。
いや、それでも断らないのが芸人だからやるんだけどね。
まだ上京して間もない千原兄弟もインタビューに来た雑誌のライター(女)に「どんなネタやるの?ココでやってみてよ」と乱暴に言われ、たった一人の生意気な女のためにその場で「タダで」ネタをやったという伝説が残っている。今と違って、バリバリ尖ってて「ジャックナイフ」と呼ばれている頃のジュニアさんでさえ、我慢してやったというから、驚くべき出来事だ。
ところで、編集者になる前からマンガ家さんの友人が多かった。
たまに、マンガ家さんたちと一緒に呑みに行くと、行った店でたまたま居合わせた客が「え?マンガ家なの?」と話に入ってくる。
そして、そのマンガ家さんの名前も作品も知らないクセに必ずこう言うのである。
「サインちょうだいよ。あ、ココに◎◎ちゃん(その時ヒットしているマンガのキャラ)描いて!俺、好きなんだよね」(←聞いてねーよ!)
他人の描いたマンガのキャラを描けと言われることは結構あるらしい。
親戚、知人、そのまた知人から……。
30年来の親友は「鉄腕アトムとかドラえもんとかドラゴンボールの悟空とか描いてって昔から言われてきたよ。結構、上手く描けるようになった。親戚だと断れないんだよね」と笑っていた。
断ると双方とも後味が本当に悪いようだ。
じゃあ、最初からそんなん頼んでこなきゃいいのに……。
お笑いもマンガ、イラストも、それからお芝居、歌うこと、文章書きも一見簡単そうに見える。
そう「見える」だけで、すごく難しいし、そこに辿り着くまでにも大変な経験をしていたり、苦労してきたに違いないのだけど、想像力のない人たちからすると「簡単に楽して金儲け」にしか見えないらしい。
若手芸人のネタにしてもマンガにしても、まず「ココで!」「タダで!」やれということだが、どちらにしても「作品」であることに間違いない。
「作品」の価値って、何だろうと思う。
彼ら曰く「ココでパパッと描いたらええやん。簡単やろ?」ということになるが、断ると「ケチケチすんなよ」「気取るんじゃないよ」と悪態をつかれる。
だから、クリエイターやアーティストは警戒心を持ってしまう。
「売れてなくたって安売りはしたくない」だろうし、ナメたようなことも言われたくない。
「私の作品も知らないクセに」「バカにすんな!」って気になると思う。
でも、ケンカする気にもならないだろうけど…ね。
さあ、そこで冒頭の「気づいたこと」だが(←前フリ長げーよ!)
「note」において、無料や投げ銭にして作品公開してくれるクリエイター、アーティストの多いこと多いこと。
いや、ありがたいし、とっても楽しいんだけど、「いいのかな?悪いなぁ~。早くオンライン決算専用プリペイドカード買えるようになるから待っててね♡」なーんて思ってるんですよ。
私自身は、今は漫才コンビがつかみで言う「名前だけでもおぼえていってくださいね~」状態の「まずは自分がどんな小説書く人か知ってもらう」宣伝時期なのでいいんだけどね。
みんな嬉々として作品公開しちゃってるから「かわいいなぁ~♪」って思っちゃう。
やっぱ見てほしいもんね、何かしら創ったら…。
そこがなかなかビジネスとして切り替えにくい分野でもあるよね。
最後に、マンガ家さんと呑みに行って、先述のような「ココで描け!」状態に陥った時、私はこう対処しました。
その女が普段、経理のお仕事(その仕事は悪くないよ)をしていたので…
「じゃあさ、あんたココで電卓たたいてみろ。ものすごく速くたたいて計算してみろ。そろばんでもいいぞ!」
ちゃんちゃん♪
(終)
※魚住はこわい人ではありませんよ。今はもう歳なので、まあるくなりました(笑)。
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