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おばあちゃんは21歳

父方の家はちょっと複雑というかいろいろあったようだ。「ようだ」というのはすべてを知らないから。僕はどうも他人にあまり関心がないようで親のことですら根堀り葉堀り詮索したがらない。親父が生きてるうちにもっといろいろ聞いておけばよかったという事がいっぱいある。

親父が亡くなってから今年で7回目のお盆を迎えた。その親父が実は双子の弟がいることを親から知らされたのが中学生のころだったらしい。のけぞってひっくり返る位に驚いたそうだ。僕がそれを初めて聞いたのは5歳の時だった。昔は双子が生まれるとあまり良く思われてなかったり、経済的なこともあったらしいのだが、もちろん当時の僕はそんなこと気にもせずに素直に受け入れた。それから親父が亡くなった後で知ったのだが、親父は広島で生まれたが親父の弟は生まれてすぐに大阪に連れられて行ったそうだ。親父の父、つまり僕にとっておじいちゃんの姉が大阪に住んでいて引き取られていったそうだ。

僕が5歳の時にその叔父の家に遊びに大阪へ行ったのだが、雨の天王寺動物園の記憶しかない。その後、小学3年生の夏休みに叔父の家族が広島まで遊びに来てくれた時のことはよく覚えている。髪型以外は全部一緒だった。前歯の形までそっくりであった。それで大阪弁でしゃべるのがとても不思議で面白かったのを思い出す。叔父家族には二人の兄弟がいて歳が近いのもあってすぐに仲良くなり、僕はずっと大阪弁を真似していた。とても楽しい夏休みだったがそれ以来会っていないし、連絡も取合ってはいなかった。叔父は今でもご健在であることは母から聞いた。

父方の家の話に戻します。田舎なので本家とか分家とか親戚同士では呼び合うのだが大抵は長男が本家を受け継ぐものだと思う。しかし、親父は長男なのに分家。しかも本家のすぐ隣である。本家には親父の7歳下の弟家族が住んでいた。子供の頃はなんの疑問も持たなかったし、大人になっても親に何故に分家になったのか聞くこともなかった。別に仲が悪かったとかではなく、親父は弟のことを可愛がってたと言うし、僕から見ても仲は良かった。その弟家族も少々複雑なのだが自分事ではないので話すのはやめておく。そんな諸々の事情が分って来たのは親父が亡くなってからだった。

それは親父の葬儀が終わった後のことだった。久々に家族そろっての団欒のひと時に母がポツリと言った一言から始まった。「おじいちゃんは再婚だったのよ」。つまり、おばあちゃんにとって父は実の子ではなかったのだ。それで納得した。親父の弟はおじいちゃんの再婚相手との間に生まれた子だった。親心としては血の繋がった子に愛情が傾くのはよくある話だ。親父が分家の立場になったのは多分そういう事なのだろうと勝手に納得したのだった。

葬儀から数日経って諸々が一段落し、僕は家でぼーっとそのことを考えていた。おじいちゃんは再婚でおばあちゃんは僕とは血が繋がっていない。これまでの人生の中でなんの疑いもしなかったのだが、ここでようやくあることに気が付いた。つまり、僕にはもう一人おばあちゃんがいる(父方の)。その人は今どこに?まだ生きておられるのか?どうされてるのだろう?そう考えるともう一人のおばあちゃんに会いたくてたまらなくなった。いや、会わなくてはいけない気がしてきた。そして知らせなくては。

そんなことを思ってた数日後だった。母から電話で知らせがあった。
「お父さんの母親の写真があったの」
「え?その写真どこにあったん?」
どうやら母は親父が亡くなったことを親父の実の母親の親戚に伝える為に家を訪ねたらしい。実は母の実家からそれほど遠くない人だった。そこにたまたま写真が一枚だけ残っていたのだ。それを写真屋さんでもう一枚作ってもらって来たのだという。僕は居ても経ってもいられなく、すぐに母の家に向かった。

そして僕は衝撃の事実を知ることになった。
おじいちゃんと結婚したその人は双子の子供を産んですぐに亡くなってしまったという事を母は初めて話してくれた。その時21歳だった。写真はおそらく成人式の時のものではないかと言っていた。そこには綺麗な振袖を着たお嬢さんが首を傾げて微笑み佇んでいた。とても可愛らしい人だ。この人が僕のおばあちゃん。会いたいという想いが通じたのだと思うと涙が溢れて止まらなくなった。ごめんなさい、これまでおばあちゃんのこと一つも考えずに生きてきた。おばあちゃんはどんなにか寂しい思いをしただろう。胸が張り裂けそうな思いだった。おばあちゃん、これからは毎日手を合わせるよ。

先日、お彼岸ということもあり親父のお墓を訪ねた。このお墓は親父が亡くなってから建てられたものだ。その横の霊標にはおばあちゃんの名前が刻まれている。そして、その横に僕の姉の名が刻まれている。生まれてすぐに心臓の形成に問題があって亡くなった。あまりにも早すぎた二人の命。もしも生きていれば僕の人生もまた違ったものになっていたのかもしれない。でもそんなことはどうでもよくて。その分、僕は今ある命を大切に燃やしていこう、懸命に生きていこうと誓いを胸に手を合わせてお墓を後にした。

あなかしこ、あなかしこ。



毎年、秋のお彼岸に咲く彼岸花ですが今年は暑い日が長引いた為かようやく咲きそろって来た感じです。









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