案外すんなりとカウンターデビューをしたこと
すこし前のこと。
久しぶりに研修でグループワークというものをした。
初対面同士、お互いのいいところをひとつ挙げてみるというのがあって、私は「聞きながら頭の中で分析して組み立てたうえで話している感じがする」「説明の流れがわかりやすい」などというコメントをもらった。
予想していない方面からの褒めポイントだったので、内心えっ、と思ってしまった。
話を聞きながら頭の中であれこれ考えている、というのはたしかにそうかもしれない。ただ、それらを順序立てて話す、というのはむしろ苦手だ。口に出してから、本当はこの順番で話したかったのに、今の要素はべつにいらなかったのに、なんて思う。
ただ、それをどうにかしようと、余計な注釈をつけないとか、要点を絞るとか、日頃意識しているつもりではあった。少しはその心がけが、身になってきたのだろうか。だったらいいんだけれど。
意外ではあったけれど、言ってもらえたことは嬉しかったし、素直に受け取っていこう。そんなふうに前向きに考えることにした。
その日の夕方。
研修も終わってせっかく早く帰れることだし、どこかでごはんを食べて帰ろうか。何を食べようかなあ、と思考が別の方向へ流れていく。
そこでふと頭に浮かんだのは、以前通りすがりに見かけたワインバル。個人店で夜しかやっていないから、一人で行くのはちょっと勇気が要る感じのお店。気になってはいたけれど、いつか行くぞ、というほどのつもりもとくになかった。でも、その日はごく自然に、"あ、あそこに行ってみよう"という気分になった。
そんな気分のまま、本当に店の前まで来て、しかも大して身構えることもなくすっと入店してしまった。その流れでカウンターへ座る。
先客は2組ほどだが、どうやら店主一人で切り盛りしているようで忙しそうだ。
とりあえずグラスワインと冷菜を注文。
お酒は飲めなくはないけれど、なければないで全然平気なので進んでは飲まない。久しぶりだったので、ちょっと飲んだらすぐにふわっとしてきた。
とくにやることもないので、ぼんやりメニュー黒板を眺めたり、店主がワインボトルを空ける小気味いい音を聞いたりしながら少しずつ味わう。
そうしているうちにだんだんゆったりした気持ちになってきた。家で一人で食べるときはこんなに食事に時間をかけたりしないものなあ。
店内の音楽をバックに、聞こえるか聞こえないかくらいのほどよい会話が交わされるくらいで、居心地がいい。頃合いを見てゴルゴンゾーラのたっぷりかかったパスタを食べ、すっかり満足して家に帰った。
一人での食事は抵抗なく行けるタイプだけれど、カウンターで一人飲み、というのははじめてだ。なんとなくそれは一段上のハードルの高さを感じるものだったのに、案外あっさりと行けてしまったのはなんでだろう。
でも、案外そういうもので、やってみようと自然に思えたときが、それをするのに適したとき、ということなのかも。
研修でのことも、直接は関係ないかもしれないけれど、気持ちの部分では何かしら影響するものがあったのかな。
また、あの店に一人でふらっと行けるくらいの心持ちでいよう。そう思いながら、ゆっくりと家路についた。
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