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ゲームシナリオディレクターの仕事と大切にすべきこと
ゲームのシナリオディレクターとは?
ゲームのシナリオディレクターは、ゲーム開発プロジェクトにおいてストーリーやキャラクターの設定、物語の進行を統括し、ゲーム全体のシナリオを管理する責任者です。
自ら執筆することもあれば、自分は執筆せずクオリティなどの管理だけをすることもあります。
主にその役割には以下のようなものが考えられます。
※ただし、シナリオディレクターと言っても会社やプロジェクトによって役割が異なることがあるのでここに記載されているのはあくまで私がこれまで見てきた複数社の経験に基づいたものです。
1. ストーリーの設計と構築
コンセプトとビジョンの策定:
ゲーム全体のストーリーのビジョンとテーマを設定し、それをプロジェクトチームと共有します。
サスペンスなのか、ミステリなのか、ファンタジーなのか、成長物語なのか、バディものなのか、物語や体験として一番大切にするべきことを明確にします。ログラインなどもこの段階で決めることが多いです。
ただゲームのプロジェクトとしてのコンセプトはプロデューサーやディレクターが決めることが多いです。
シナリオディレクターはそれらに基づいて物語や世界観をどんなものにするのか?を考えます。逆にDやPが大まかな世界観などを考えていることもあります。
またプロジェクト初期の段階からDやPと一緒に世界観を構築していくこともあります。コンシューマーゲームの場合、このパターンが多いように思います。そしてこの方が完成度が高くなる
プロットの作成(あるいは監修):
主なストーリーライン、サブプロット、キャラクターのアーク(成長や変化)を設計します。
これは前述したように自分で書くこともあればライターにビジョンを伝えて一緒に作っていくこともあります。
ゲームシナリオの場合この段階でゲームデザインについても物語に組み込んでいきます。
2. シナリオの執筆と管理
シナリオの執筆
主なシナリオライターとして、ゲーム内の対話やイベントシーンを執筆します。これは自分が書かないパターンもあります。監修の立場として関わるケースです。ただ自ら書くシナリオディレクターの方が多い印象です。
フィードバックの統合:
チームからのフィードバックを受け入れ、必要に応じてシナリオを修正します。
3. キャラクター設定
キャラクターの発案:
ゲーム内のキャラクターの設定(バックストーリー、性格、動機)などを詳細に設定します。チームでの作成の場合、これについても共同で行ったりライターに依頼することもあります。
キャラクターアークの設計:
各キャラクターがストーリーを通じてどのように成長するかを設計します。これについてもキャラクターの原案を考える段階で設定しておいた方がスムーズです。キャラクターのイメージが広がりますし、デザインにも影響を与えます。ただし物語を構築していく中でこれについては変わっていくこともあります。
キャラクターデザインの発注と監修:
デザイナーに自分の構想したキャラクターのデザインを作ってもらい監修します。これも多くの場合はシナリオディレクターの仕事に含まれます。
ただし業務委託として関わる場合はキャラクターデザインの監修はあまり関わらないパターンも多いです。会社員のシナリオディレクターの場合、多くの場合はキャラデザの監修まで求められることが多いはずです。
普段からキャラクターデザインについての感性を磨いたり、ファッションやトレンドのデザイン、魅力的なキャラクターなどについての引き出しを増やしておくことが大事です。
4. ゲームプレイとの統合
ストーリーとゲームプレイの連携:
これが他のメディアのシナリオと最も異なるところです。
ストーリーがゲームプレイとどのように連携するかを設計し、シナリオをゲームプレイに統合します。
シナリオディレクターにゲームデザイナーのスキルがある場合、シナリオディレクター自らゲームデザインの設計をしつつ、物語を構築していくこともあります。コンシューマーだとこの傾向が強い印象です。
プレイヤー体験の設計:
プレイヤーがストーリーをどのように体験するかを考慮し、ゲームのフローや重要なイベントを配置します。この段階ではボスキャラや主要なゲーム要素の配置や解放順、チュートリアル、などを物語に組み込んでいき、バランスを取ります。
5. チームとの連携
コラボレーション:
デザイナー、アーティスト、プログラマーなど、他のチームメンバーと緊密に連携し、シナリオがゲーム全体と一貫していることを確認します。
リーダーシップ:
チームメンバーに対して明確な指示を与え、プロジェクトの進行を監督します。
6. シナリオに関わるクオリティの責任者
ユーザーテストとリライト:
ゲームのテストプレイを通じてシナリオの問題点を発見し、修正を行います。
ゲームの場合、最後までシナリオの修正が行われることが多いです。たとえばプレイしてもらって「ヒントが足りない」「謎が解けない」といったことになった場合シナリオ側での対応も必要になります。誤字脱字の修正などもあります。
一貫性の確保:
シナリオの修正が重なることで必要になってくるのが一貫性の確保です。
シナリオ全体が一貫しており、プレイヤーにとって魅力的であることを保証します。
シナリオの場合様々な意見がチームから上がってくることがありますが、そういった場合もビジョンや物語として大切にするべきことを考慮して判断を行っていく必要があります。
シナリオディレクターとして大事なこと
ビジョンの明確化と布教:
プロジェクトの明確なビジョンと目標を設定し、チーム全体に共有することが大事です。自分の頭の中だけにあってはいけません。DやPなど上層レイヤーだけの中にあるだけでもよろしくないです。チーム全体に共有することが望ましいです。その方がチームとしてのモチベーションも高まり、何を大切にするべきか、どこを重視して力を入れるべきかおのおのが判断できるようになるからです。
すべての判断やフィードバックの受け入れをビジョンに照らし合わせて行う鑑定眼や判断力も大事です。
明確な裁量権とその自覚:
きっちりと裁量権を持っていること、つまり物語のクリエイティブに関する決定権を持つことが大事です。PやDにももちろん最終決定権がありますが、シナリオディレクターにも大きな裁量が必要です。プロジェクトを進めていくとPやD、あるいはチーム内のご意見番などからの強いフィードバックがあり、簡単に対応してしまうと、物語がくつがえるようなことも起こりえます。他者の意見に簡単に揺さぶられず、プロジェクトの方向性や物語の大切なことを守ることも大事です。
もちろん必要な修正なら行うべきですがそれはビジョンに照らして合理的だったりゲームや物語を面白くする上で合理的だったりする必要があります。そしてスケジュールやコスト感と照らし合わせてやるやら判断も必要になっています。
こういった判断を行うには権限が必要です。プロジェクト初期の段階でシナリオディレクターとしての裁量の度合いを偉い人と握りましょう。
そして、その自分の役割と責任を明確に理解し、必要な決断を自信を持って行うことが大事です。
フィードバックのフィルタリングとぶれない覚悟:
シナリオは比較的意見を言いやすい対象です。そのため様々なフィードバックがあがってくることがあるかもしれません。そういった際にフィードバックの整理とフィルタリングを行い、プロジェクトのビジョンに合致するものだけを取り入れる姿勢が大事です。
「あの人は偉いからちょっとおかしい意見だけど取りいれとこう」といった忖度などは悪です。
そう、ぶれない覚悟が必要なのです。
……といったものの、現実には多かれ少なかれ忖度はあるものかもしれません。とはいえなるべく覚悟を持って退けましょう。一番偉いのは物語です。ピクサーでもそんなことを言っていたはずです。もちろん、穏便に。感じ良く。
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強いリーダーシップ:
チームを効果的にリードし、全員が一貫した方向を向いて作業できる環境を作る必要があります。
ゲームのシナリオは物語だけ面白くすれば良いというわけではありません。ゲームとしての面白さやキャラクターの魅力、演出などにも気を配る必要があります。
1人、ワープロとにらみ合いをして執筆だけしていればいいといわけではありません。強いリーダーシップでリードしゲームを面白くしてく責任があります。
客観的なものさしやノウハウを持つ:
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シナリオチームなどがある場合、メンバーにフィードバックを行う必要があります。自分自身が書いたシナリオに対してもフィードバックを行う必要はあります。
そういった際に自分の主観や気分、意見だけで判断せず、客観的なものさしで判断できる必要があります。
たとえば最新のストーリーテリング技法や業界のトレンドについてです。
そのために学び続けることが重要になります。
三幕構成やヒーローズジャーニーなど基本的なことは知っておきましょう。知らないと外部のライターさんとやりとりする際にも共通言語で話しにくかったりします。レシピも見ずにすばらしい料理を作ることもできるかもしれませんが、あなたが天才で無いのなら知識を得ましょう。絶えず、常に勉強です。
初心者に特にオススメな本
ブレイク・スナイダーの「Save the Cat!: The Last Book on Screenwriting You'll Ever Need」(「SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術」)
難解ながら必読本
シド・フィールドの「Screenplay: The Foundations of Screenwriting」(「映画を書くためにあなたがしなければならないこと」)
既に基本を理解している読者にオススメな本
リンダ・シガーの「ハリウッド・リライティング・バイブル」(絶版)」
だが絶版。
クリストファー・ボグラーの本の比較
「作家の旅 ライターズ・ジャーニー 神話の法則で読み解く物語の構造」: 読みやすく、初心者や中級者に推奨。ヒーローズ・ジャーニーを学ぶのに最適。
ロバート・マッキーの「Story」
二回読む覚悟が必要なほどの濃密な内容だが、物語作りを本格的に学びたい人には非常に有益。
ある程度シナリオを書き、さらにスキルを向上させたい人には非常に有益な本。
だがかなり本気で読み込む覚悟は必要。その分、得られるものは大きい。
最近の本だとこれもお勧め
初心者にもおすすめ。大変わかりやすい。
小説だけじゃ無く映画やゲームシナリオにも役立つだろう。
三幕構成以外の構成手法が紹介されている
つまったときやアイデアの出し方なども記載されている
他の書籍でも似たようなことは書かれているところは多い。ただそれは「基本」を押さえているからだ。