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命に別状がないのなら

失敗しない人間なんていない。

そんなことはわかっている。けれども、何も好き好んで失敗する人はいないだろうし、失敗するのがチリひとつ程度も怖くないという人の方が少ないだろうと思う。

わたしは失敗が怖い人間だ。叱られるのが怖いというわけではない。叱られるよりも、失敗のせいで影響を与えてしまうことが怖い。

何か失敗すると、「迷惑をかけてしまった!」という思いが頭の中をわーっと駆け巡って、思考がパンクする。心の中では土下座。「そこまでのことじゃないよ(笑)」と、昔バイト先で言われたっけ。


そんなことを思っていたら、「銀の匙」(荒川弘)のワンシーンを思い出した。

主人公八軒が、同級生の実家である酪農家に住み込みバイトをしているときの話だ。八軒は、バイト中にある失敗をしてしまう。お金にも関わる、大きなミスだ。わたしが八軒なら胃が捻じ切れるか、吐き気で倒れそうになるかするだろうと思うような、そんなミス。

バイト後に手渡された給料を、「あんなミスをしてしまったから受け取れない」と俯く八軒に、同級生の曽祖母が声をかけた。


「人間のやることだもの、たまーには失敗することもあるべさ」


「ただし命が関わってるときは失敗したらいかんよ」


失敗しないに越したことはない。同じ失敗は繰り返してはいけない。

けれども、失敗を意味のあるものにするのは自分次第だし、失敗しないと成長できないことだってたくさんある。


失敗恐怖症なのは、これは完璧主義だからなのかな。それとも、見栄やいい格好をしたい思いがあるからなのかな。


相変わらず、失敗すると心臓が跳ね上がるし、手足は冷たくなる。頭も真っ白になる。恐怖心はなくならない。

「してしまった」ときには、「命に別状はない」と言い聞かせ、「なんで」を考えて「今後」を見据える思考回路にスムーズに切り替えられるよう、意識している。


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卯岡若菜
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