
「心の強さ」への捉え方はお国ごとに違う件。
アメリカのお客さまから書のカスタムオーダーの依頼が入った。
バレンタインに彼女に贈る言葉を書いてもらいたいというありがたい注文である。
「宗教的な信仰心」
「人としての温かさ、優しさ」
「大家族のような家族の愛」
「愛し合う二人の間の愛」
「困難を乗り越える心の強さ」
これらの言葉を日本語で表現する字にしてそれぞれ分けて5枚書いてほしいと仰る。
うーん。すごく難しい注文である。
そしてバレンタインまでには間に合わせるよう希望されている。
パネルサイズだと職人さんに裏打ちしてもらう時間がかなりかかるから間に合いそうにない。半紙サイズをお勧めすることにした。
まさかバレンタインに彼女にプロポーズするのではないのかしら?
もしそうだとしたら責任重大である。
一生懸命彼の求める言葉を探そうと自分なりに調べて考えてみたものをUNSENDOカスタマーサービス担当の福井さんに連絡してみる。
**Faith 信仰心は仏教ではこう表現します。「信心」 **
**Warm 優しい人柄を表現する四字熟語として
「温柔敦厚(おんじゅう とんこう)」穏やかでやさしく、情が深いこと。 **
**Family 家族愛を表現する四字熟語として
「笑門来福(しょうもん らいふく)」大家族のたくさんの笑顔が幸せを呼び寄せます。 **
**Love 愛し合う二人の間にある愛を表現する四字熟語として
「海誓山盟(かいせい さんめい)」永久に変わることのない海や山のように、変わらない固い誓いという意味。 **
Strong 困難を乗り越える強い心を表現する四字熟語として
「雲外蒼天(うんがい そうてん)」困難を乗り越えたら、気持ちの良い空を見ることができるという意味。
ところがである。
お客さまからこんな返事が返ってきたとUNSENDOカスタマーサービス担当の福井さんから連絡が入った。
FaithとWarmはこれで良いそうですが、強さに関しても、まあ多分同じ理解だと思うけど、身体的な強さじゃなくて、精神的な強さね。とか書いてこられています。
wow‼︎
日本人ならではの情緒や心情を汲み取った言葉や漢字を考えてみたのであるが、「心の強さ」への理解が日本とアメリカではかなり違うのだと感じた。
彼らにとって心の強さとは「タフなハート」みたいな感じなのだろうか?
アメリカ人にどうも伝わりづらい感じの
「家族」「愛」「心の強さ」は直訳でそのまま書こうかと思ったが、やはり「心の強さ」とそのまま書くことだけは違和感を感じ、「志」はどうかと福井さんに連絡してもらうことにした。
再びお客さまから連絡が入った。
「もし‘志’に心の強さが入っているなら、それでいいよ。」
やはり心の強さへのこだわりが最後まで感じられる回答であった。
しかし「心の強さ」とそのまま書くのは私の美意識が許せない気もしてきた。
福井さんが「志」は心の強さに繋がっていることを熱心にお客さまに伝えてくださったおかげで、ようやく納得していただけた。
お客さまの要望には、極力応えられるように最善を尽くして対応することを忘れたことはないが、やはり意味のある言葉を書いてもらいたいという要望である限りは、日本の情緒や心情を無視した字は書くべきではないと思う私は、ヘンコツの職人なのだろうか。
外国人で書道や日本文化に詳しい方が私の作品を見たときに
「UNSENってSHODOアーティストが書いたものなのかい?彼女、センスないね。」などと笑われたくないのだ。
正しいニッポンを伝えていくことも、日本の書家には必要なことだと思う。
ダイアナさんに大穴と書き、「あなたの名前をニッポンの漢字で書きます」みたいなサービスをしているWEBショップも見かけるが、UNSENDOはそういうことはしない方針である。
ようやく完成した5枚の作品は、バレンタインデーまでには無事アメリカへお届けできそうである。
どうか幸せなバレンタインになりますように。
『UNSEN!「志」を選んでよかったよ!』
いつかそう言ってくださることを祈りたい。
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