
名もなき書道家の夢。
何度も雲泉堂をご利用いただいているカナダのお客様から、道場の本部のロゴのカスタムオーダーのご依頼をいただいた。
墨字と言えば道場、道場と言えば墨字。
とにかく雲泉のブラシを気にいってくださっているようで本当にありがたい。
日本で書道の依頼がコンスタントにある人と言えば、親の代から書道一家だという家の書道家や、特別なコネがある方くらいだと思う。
需要はあっても非常に狭き門である。
日本には、腕はたっても名もなき書道家はたくさんいるのだと思っている。
こういうちょっと特殊な業界は、日本の中では『誰それさんの紹介で』という紹介でしか食える仕事を繋ぐ術はないに等しいのだ。
私の師匠は素晴らしい書道家である。
関西の書道会では、展覧会場でサインを求められるくらい知られた方である。
しかし、CMや大河ドラマで使う書を依頼されたりするのはほんの一部の方だけなのである。
師匠は、書道展の運営や審査員などを務める傍らで、お墓に掘る書の特別注文なんかの依頼を受けたりしている。
昔ながらの◯◯家などと書かれたお墓ではなくて、フランス式とか、イギリス式とかのハイカラな洋風墓地にある墓石に、故人が好きだった言葉などを書いてもらいたいという依頼をご遺族から受けたりしているそうだ。
空とか風、夢なんかの字を書いていただけませんか?というご依頼が多いと言っておられた。
日本ではこういうマニアックでニッチな仕事を狙うしかないが、海外ならばもっと広い需要があるはずだという考えで私は海外への進出を決めた。
その狙い通りで、書道作品を心から欲しいと思ってくださり、本当に喜んでくださる方々が海外におられることを知った。
それがわかっただけでも挑戦してみて良かったと思っている。
今はまだ小さなネットショップであるが、もっとたくさんの国の方々に書道の魅力を知っていただければ嬉しいと思っている。
『どこの世界もコネばかりだよ。』と拗ねていても仕方ない。
コネがなければ自分を磨くしかない。
良い作品を作っていくことで、より見る目のある方が現れてくれると思うし、結局のところは自分の腕次第なのだ。
金やコネで書道展に受賞してきた有名な書道家が死んだ途端、数百万の価値を持っていた作品が数千円になることもよくある話らしい。
この世でチヤホヤされるために金をばら撒き、死んだら作品の価値が紙くずのような扱いになるなんて絶対に嫌だ。
名もなき名人たちの作品の良作が作者不詳や詠み人知らずで残され、人々に認知されていくのと雲泥の差ではないか。
だけど。
やっぱり生きている間に光を掴み取り、ものすごい有名にならなくとも、『ああ、雲泉って聞いたことあるわ。』くらいに名の知れた書道家になりたい。
そして精進を続けて、死んだときには私の子や孫なんかが雲泉の作品を大切に保管しておいてくれて、なんたら鑑定団とかで鑑定してもらったりするんだ。
『これは本物です。そうですね〜雲泉が一番筆がのっていた時期の作品ですから大切にしておけば、価値はまだ上がりますよ!』
などと鑑定団に言われたりして。
『ラッキー!家宝やな、家宝!』
ドカ弁一家やちゃっかり一家がテンションを上げてくれたりしたら幸せやなぁなどと思う。
それくらいの成功はしてから死にたい。
贅沢だろうか?
身の程知らずと笑う人もいるだろうが、結構本気のうぬぼれ屋はだいそれた夢を胸に今日も筆を持つ。
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