セーターに残っていた彼の香りが消えた。もう思い出しかない。
大きなキャンバスに鉛筆で丁寧に描いた下書きを、端から少しずつ消しゴムで消していくような作業。最終的には、ほとんど真っ白になるくらいにまで。どのくらいの時間がかかるんだろう。溢れる涙を拭きもせず、ただ終わるまで続ける。
フラれた日より、諦めることを決めた日のほうが、よっぽどつらい。私の日常から、「あの人」を消さなくちゃいけないんだから。
年末、夕方5時の空を見て。「5時でもこんなに明るいんだね」と言う私と、「5時ってこんなに暗いんだって思った」という彼。見えている世界が全然違うんだって、あらためて感じた瞬間。