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詩ことばの森(288)「誰もいないベンチ」

誰もいないベンチ

誰もいないベンチで
僕は見たのだった

その男は灰色のシャツを着ていた
いかにも静かで目立たない服装だった

なぜ僕が気になったのかといえば
その男に一度会ったことがあったからだ
いや二度も三度も会ったような気がする

しかし 僕はその男の名前も知らなかった
夢だ 夢の中で僕はその男と会話したのだ

男が なにを語っていたのか
今はもう おぼえてはいない

だが 彼はささやくように 僕に話したのだ
いかにも静かに目立たない服装で

誰もいないベンチに
腰をおろしたまま

(森雪拾)

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