
詩ことばの森(180)「かつて風が」
かつて風が
かつて風が
望みを失い
迷走していた頃のこと
雪のふりしきる町でのことだ
家々が立ち並ぶ道沿いで
君が見ていたという夢に
僕も触れてみたいと思った
けれども 風に吹かれて
頁がめくられていく詩集のように
途方もない旅路を置き去りにしたまま
君はふたたび立ち去ってしまった
朝が来ると
町から出かける人びとに混じり
僕が君を探し続けた日のことを
いまでも忘れられない
そんな儚い物語を
いつか書き残してみたいのだが
僕はいまだに書けずにいる
(森雪拾)