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詩ことばの森(224)「秋の小道」

秋の小道

秋の気配が近づいていた
少年は恋をうち明けねばならないと
少女との道行きで思い詰めながら
いつもの林を通り抜けていく

白い塗料の所々には木肌が見えて
古い建物は想像かきたてるに十分で
少年には かつての詩人のロマンさえ
そこに変わらずに残っていると信じていた

けれども 白樺の木々の向こうに浮かぶ湖は
なぜか深い沈黙を漂わせていて
少年の空想にはそぐわない何かを感じさせていた

少女の母は 彼女がまだ子どものころに
どこかへ行ってしまったのだときいた
少年は黙ったまま歩きつづけた
自分はそれに答える言葉を持たぬことに
はっきりした無力感の自覚を身に染みていた

寄る辺ない放浪者のようだと
少年は自らを思うのであった

(森雪拾)

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