雑草

「何でこんなことも出来ないんだ!そろそろ先輩としての自覚を持って後輩に教えていく立場だろ?あっ?」入社2年目でもほぼ新入りに近い社員は今日も怒られている。これはもう五月病になるのも仕方がない。
「でも、部長。このくらいの事自分で考えろと言ったじゃないですか。」
社会人2年目は足を震わせながら、必死に上司に返答する。
「馬鹿か。おめーよぉ。普通はこうするだろ?」一体会社という共同体はなんなんだろうか。社会人2年目の彼はそのように感じていた。彼は短い社会経験の中でも任された仕事を必死にこなした。「このくらい自分で考えろ!」という言葉は「あんたに任せる」って意味合いではなかったのか。やり方は一つじゃない。このやり方は成功したと思っている。しかし、上司はカンカンに怒っていた。

「なんか気分が晴れないなぁ。カフェでも行こうかな。」
もう今日は上司に会いたくない。「自分の何が悪かったのか反省します。そして自分がどうすれば良いのかを考えます。午後から休暇を取らせていただきます。」
彼は今にも泣き出したい気分であったが、何とかやり過ごして会社を退室した。

お気に入りのカフェに向かう事にした。バースタイルのカフェであり、店主がゆっくりとコーヒーを入れてくれる。一般の店とは違ってスピーディに商品を提供することが目的ではないのだ。
「詩音さん、どうしたんですか?こんな早くに。」
「実はこの俺に任せてくれて情熱を持って取り組んだプロジェクトに上司がカンカンで、どうすれば良いか分かりません。今日も怒られてもうやる気が出ないんです。」
「またどうしようもない上司だなぁ。個を大切にしてくれる企業なんてもはやユートピアなのかも知れないな。」マスターはコーヒー豆を焙煎しながら答える。溜め息をつきながらそれはもう嫌悪感に溢れている。

「俺だって最初はさ。就職したんだよ。でもね。いつの間に会社に入って変わった自分を見つけたんだよ。怒鳴られるのを恐れて挑戦しないで、良い感じの上司の言いなりになって、本心とは裏腹に行動していてそんな自分に嫌気がさした。」

マスターは続けて自分の事について語り始めた。マスターは比較的ポジティブな方であったのでそんな病みの部分をさらけ出すことに驚きを感じた。
「マスターが会社で働いていたなんてイメージがありませんでした。」
「このままじゃ自分の人生が自分のものじゃなくなってしまう。そう危機感を覚えた。その日から心の火を燃やし始めて、クラウドファンディングで費用を集めたりして店をオープンさせる為に動き始めた。調理関係の資格を持っていなかったから、当初はオーナーとしてカフェに参加して、雇った店長の下でアルバイトとして色々な事を教わった。」
「元々カフェを始めていなかったんですね。」
「あぁ。俺は自分の人生に責任を持てるなら、やりたいことをすると良いと思う。心の薪が会社で燃えなかったら、燃えるような環境を作ることが大事だよ。まぁ、俺の場合は会社で自分がなくなってしまうと感じたから逃げ出したんだけどね。カッコ悪いと思われても仕方がない。」マスターは真面目なことを語っていたが、最後には照れ笑いを浮かべた。

「そうか。何かに燃えるような熱意を感じなければ社会人にはなれないということですね。」
「そうだなぁ。一ついいか?お前は会社に損失を与えた訳ではないよな?」
「はい。俺は会社に損失を与えてはいません。でも上司は一つのやり方しか考えられなくて。」

「なら大丈夫だ。きっとあの上司は自分の出世のことしか考えていない。挑戦なんて危ない橋を渡りたくないだけや…。待たせたな。いつものカフェオレだ。」そう言ってカフェオレをマスターから受け取る。煎りたての良い香りがする。
「マスター。頂きますね。」
「うん。今日のブレンドはどうかな。なんか音楽が無いとちょっと寂しいね。俺が勇気付けられた曲を今からこのアコースティックギターで弾き語りするよ。」
マスターはインテリアだと思っていたアコースティックギターを取り出すと弾き始めた。

「じゃあ、恥ずかしいけど弾くよ。」

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