FORGET "YOU" NOT 11 岡田泰紀 2022年2月28日 00:12 僕が高校の時は、10代で時代のヒーローになった2歳上の尾崎豊を、リアルタイムで体験した世代でした。名古屋の隣の長久手町(当時はまだ市ではなかった)に住んでた級友は、なぜか名古屋の北区の学校まで多分15キロはある道のりを自転車で通いながら、毎日行きに帰りに尾崎の「17歳の地図」をウォークマンで聴くほど入れ込んでいて、彼の影響で尾崎を聴き出しました。僕も一時入れ込みましたが、当時はあまり他に音楽を知らなかっただけで、どうにも拭えない違和感を抱きながら聴いていたのです。随分後になって理解したのですが、まるで4畳半フォークのような過剰なセンチメンタリズムと自意識が、生理的に受け付けなかったんでしょう。だから、ファンの人からしたらムカつくかもしれませんが、みんながもてはやす「I LOVE YOU」は、当時から今に至るまで気持ち悪くて大嫌いです。誰も言わないのが不思議なんですが、彼の本質、アーティストとして突出していたのは、ラブソングではありません。「DRIVE ALL NIGHT」や「FREEZE MOON 」などの、暴力的ともいえる過剰なカオスと根拠のない焦燥、非論理的な行き場のない叫びです。10代を過ぎ、学校や大人という批判対象を失った尾崎が、アーティストとして失速していくのは自明の理だったのです。僕が17歳の時に"10代3部作"と呼ばれたアルバムの最後を飾った「壊れた扉から」に収録されていたこの曲も、当時は聴いてましたが直ぐに苦手になり、このアルバム以降尾崎豊を聴くことはなくなりました。先頃アイナ・ジ・エンドがカバーで取り上げるまでは。個人的には、シンガーとしては彼女自身がリスペクトする椎名林檎は既に超えていて、今のJ-POPシーンではUAと並ぶべく才能だと思ってますが、多分彼女が生まれる前にはこの世にはいなかった尾崎豊の曲を、完全に自分の曲にしているのが凄まじい。最後、歌が感情そのものに豹変していく様は、正に尾崎豊が持っていた、過剰なカオス、根拠のない焦燥、非論理的な叫びそのものだと感じました。純粋を極めた先の焦土のように。彼女の歌によって、僕の中で「FORGOT ME NOT 」は成仏できました。 #エッセイ #尾崎豊 #音楽エッセイ #アイナジエンド #forget_me_not 11 この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか? サポート