![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/68846823/rectangle_large_type_2_4d57987efb01377012b3c5f45a779ee9.jpg?width=1200)
「せつなときずな」第51話
刹那の思惑通り、絆は刹那に支配された。
刹那は家のことは厳しく躾け、自分の洗濯物は自分で洗い、食事の配膳と片付けもきちんとやるように強要した。
風呂に独りで入らせたのは、身体に穿ったピアスを見られないためだが、絆に女性の裸体に耐性を持たせないことの方が重要だった。
朝のゴミ出しを二人で行い、休みの日は手作りのデザートで絆を餌付けした。
勉強を教える。
隣に座り、根気よくやさしく、それは普段の厳しさと真逆の姿で、課題が上手く解けたら褒め、わからない時は慰めながら一緒に考える。
終わったあとは必ず「よくやったね」と後ろから思い切り抱き締めて頬擦りした。
時には頬にキスをする。
自立を強いながら、自立の心をスポイルする。
母親に精神的に依存し、自分で決断できない人間に育てる。
いや、育てない、のだ。
ことあるごとに「絆はお父さんの代わりだよ」と息子に頼り、甘える仕草をした。
しかし、生活に少しでも乱れがあったら容赦なく責め立てた。
飴と鞭の使い分けは、恋愛関係や夫婦にありがちなDVの構造と同じだ。
刹那はそれを、ハートスタッフでDV被害者を支援した時に把握した。
人の心はあやふやで、弱い者ほど自分で考える力を失いやすい。
悪魔だなと、刹那は自分を思ったが、悪魔は自分が悪魔であることを後悔はしない。
絆には中学に上がるまで携帯は与えないと言ってある。
これも、ゲームや性への好奇心を遮断するためだ。
外的な快楽を抑えつけ、その欲求を可能な限り自分に向けるさせる。
家にはタブレットがあり、刹那の監視下の元ではゲームは許された。
タブレットは刹那が出勤時に持っていくので、絆が親の目を盗んで自由に使うことは不可能だ。
しかし、なぜゲーム端末を与えなかったのか。
刹那は、絆が小学校6年の12歳から、徐々に企みを加速させた。
時折、アダルトサイトを開いた履歴をわざと残した端末を、忘れたように居間に置いて出勤した。
収納を買い換えたことを口実に、絆の引き出しの横に自身の下着を入れるようにした。
それはネットで購入した、セクシーな下着ばかりだ。
杉山とのお楽しみのためだけではない。
絆に見つけてもらうためだ。
絆が見つけるのは、きっと下着だけではないはず…
絆は、それまでは別々に入浴して、決して裸体を見せることがなかった母親が、いやらしい下着を着けて部屋を横切った時に驚いて目を逸らした。
しかし、それは、その後も時折起こった。
絆は見ない振りをしながら、母親の下着姿を目で追うようになった。
絆は自分がいやらしいことに興味を持つことに深い罪悪感を覚えたが、そう感じれば感じるほど、性への好奇心は止まらなくなってしまう。
勉強も集中できず、悶々とする時間が増えていった。
絆は塾や習い事、部活動も禁止されている。
放課後、友人と遊ぶことは許されたていても、門限は厳しく、携帯も持たされないので友人すら少なかった。
絆は抑圧された生活の中で、それが性欲に向かっていくことに無自覚だった。
母親が忘れていった端末で、初めてアダルトな画像を見つけたことで、もう止まらなくなった。
リンクを移ると、動画まで見ることができる。
母親が帰ってくることにハラハラしながら、ひたすら成人動画に没入した。
いけないことなのに、もう止められる気がしなかった…
刹那はその日帰宅すると、絆が気付かぬように検索履歴をチェックした。
「チェックメイト」
刹那は、遂にその時が来たのだと、堪らない気持ちに狂おしくなった。