「せつなときずな」第52話
その晩刹那は、絆と夕食を済ませたあと、いつものように一緒に宿題に向かった。
正直なところもう1年ほど前から、刹那は絆の課題や勉強を教えることは難しくなっていて、教えるというより一緒に考えるというスタンスに変えていた。
絆が先にできた時はぎゅっと抱き締めて褒めるのだが、普通は12歳にでもなれば恥ずかしくて遠慮する年頃でも、二人だけの歪な世界で生きる絆には、母の愛情は絶対的なものだった。
その日も刹那には苦手な算数を、絆はゆっくりと一つ一つ解いていく。
しかし、日中にあった出来事からまだ気持ちが抜けきれない絆は、刹那にも気まずいことを隠そうと必死で、どこか上の空で集中が持続しない。
「今日はこの辺にしたら」
刹那はやさしく絆に言った。
絆は、ちょっとほっとした。
「明日ね、杉山さんが夜に来るの。
一緒に夕食食べるから、絆もね。
そのあとお母さんは杉山さんとお話があるから、部屋に来ちゃダメだよ」
刹那はプライベートでも、絆を同伴して杉山と一緒に外食や休日のレクリエーションを過ごしているので、絆には特別なことではなかった。
ただ、今までは仕事の尊敬している上司としか言っておらず、絆には、杉山と異性としての繋がりを殊更見せない配慮を続けていた。
父親は外国で働いている、らしいから。
絆が教科書を片付けようとした時、刹那は不意に絆の手を握った。
絆は驚いて、隣の刹那を見た。
「絆もお年頃だから、女の子に興味あるでしょ?
ねぇ、好きな子はいるの?」
絆は激しく狼狽した。
いないことはない。
でも、恥ずかしくてお母さんにはそれが言えない。
「いるんだ。絆、可愛いね!
またぎゅっとしちゃうぞ」
刹那はそう言うと、また後ろから絆を抱き締めて耳元にキスをした。
それは、絆には初めてのことだった。
そして、普通の親なら自分の子供にやったりはしない行為だ。
キスをした時、微かに吐息を残した。
絆は、自分では理解できない様々な感情に呑まれ、狂いそうになった。
「あとね、もうそろそろ女の子の体に興味が出てくるよね。
でも、もうちょっとがまんしないとダメよ。ここを触ったり…」
そう言うと、刹那はやさしくズボンの上から絆の股間を軽く撫でた。
「そんなことしちゃダメよ。
でもね、気になってがまんできなくなったら、その時はお母さんに言ってね。
悪いことだから、他の人には言っちゃダメだよ」
絆は、もう自分の感情をどう処理していいかわからなくなっていた。
自分の母親に、今まで持ったことのない何かを感じている。
それはわかる。
でも、それが何かを知ってはいけない。
知ってはいけないと、それはわかるのだ…
翌日、学校から帰ると、都合のいいようにタブレットは置き忘れていなかった。
絆は、収納の引き出しを開けた。
それは、刹那の下着が入った引き出しだった。
赤や紺や黒や白の、様々なブラやショーツや、網タイツやガーターベルトなどが綺麗に並んでいる。
絆は、恐る恐る赤いレースのショーツを手に取った。
手に取ると、それは前が大きく開いた卑猥なデザインであることがわかった。
絆は夢中になってズボンを降ろし、自分の性器でショーツを貫通すると、ショーツからむき出しになったそれをもどかしく握りしめた。
なんとなく陰部に触れて心地好さに浸ったことは何度かあったが、自慰と呼べるものをしたことがない絆は、それでも本能的に自分の性器を弄び始めた。
自分が何をやっているのか、自分でももうわからないほどおかしくなっている。
何度も波がきて、ひくひくと痙攣した。
それでもまたやりたくなって、何度も繰り返し続けた。
「あっ!」
絆は突然、下半身からこみ上げてくる何かに驚いたが、それは既に意識では追い付かないスピードで、止めることもできずなすがままに熱く迸っていた。
絆は初めての射精にパニックに陥った。
何がなんだか全くわからない体の反応、萎えた性器からだらだらとにじむ汁、見たことのない体液が床におびただしくぶちまけられた惨状、しかも母親の下着もべたべたに汚している。
慌ててティッシュで拭き上げ、ズボンを上げると洗面所に飛んでいき、刹那のショーツを洗うとタオルに挟んで踏みしめ、水気を抜いてドライヤーで乾かした。
刹那に教えてもらったことが、こんなことで役に立つとは思ってもみなかった。
ショーツを引き出しにしまうと、絆は初めての射精と、自分の犯したことへのショックでベッドに潜り込んだ。
お母さん、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…