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「せつなときずな 」第16話


サキのアクションは早かった。

刹那を連れて校長、教頭、担任と5者で面談し、刹那が妊娠したこと、出産予定は在学中になること、相手は明かせないこと、卒業するためにはどのような問題をクリアしなくてはいけないのか、学校側はどんなサポートが可能なのか、それらの確認を淡々と提示した。

学校はサキの扱いに悩んだ。
何故なら、1年前からサキは、この地方ではちょっと名の知れた存在になったからだ。

刹那が中学に上がる時、自身の資産と管理物件の承継を見据え、祖父はサキを会社に入れた。

売上や税制上の問題から法人としてはいたが、福原家の個人事業であった有限会社福原興業は、サキが取締役になると惰性で任せていた管理会社を変えたり、古い物件のリニューアルを進めるなど、どこにそんな才覚があったのか不思議なほど事業を変革していった。

そして昨年、「ハートスタッフ」というブランド名で、このエリアでは異例ともいえる、シングルマザー専用の賃貸物件を立ち上げたことでサキは在名のマスコミから大きく取り上げられるようになったのだ。
この物件が異例だったのは、行政のサポートと連携してDVのシェルターを兼ねるため、住所も物件名も非公開とし、ハートスタッフを経由しないと利用者と連絡が取れないシステムにしたことだった。

そんな相手を前に、学校側も立て板に水という訳にはいかない。
サキの要求に応えるべく、多分渋々調整に入った。

わずか数日の間で激しい出来事に翻弄され、刹那は酷く消耗した。
それでも、不安の半分は、母親の力によって払拭された。
残り半分は、自分の力で答を出すようにサキに突き付けられて。

何も知らない男は、刹那をいつものように誘ってきた。

「公彦、それよりも話したいことがあるの。
あんたの部屋には行かない。

私ん家に来て」

林はちょっと驚いた。
大体、刹那が自分の家に呼ぶなんてことを口にしたのは初めてだからだ。

「もしかして、お母さんに俺を紹介したいの?」
「お母さんに会わす前に、大事な話があるのよ」
刹那は、林がどう思っているかわからなかったが、上手く取り繕えるような平常心の持ち合わせなどある訳がない。

学校が休みの土曜日、林は言われた住所に刹那を訪れた。
サキは、ハートスタッフを立ち上げてからは、平日休みに変えたため家にはいない。
しかし刹那は、林の欲求を拒否するためにも、林の部屋は避けたかった。

自分の部屋ではなくダイニングに林を通すと、あらかじめ買っておいたマロンパイと、自分で淹れたハーブティーをテーブルに出し、落ち着かない林の心を逆撫でするような言葉で、刹那はいきなり本題を伝えた。

「私、子どもができたんだ。私と公彦の。

祝ってくれる?」

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