「せつなときずな」第46話
「…うちのような認可外の新興保育園は、この保育士不足の時代に求人したって誰もこんのだよ。
新卒や有資格者は、地元の老舗保育園や大手チェーンに行っちまうんだ。わかるか?
だから、人材採用企業から資格を持った登録者を斡旋してもらうしかない。
こちらが採用を決めたら、成約報酬を幾ら払うかわかるか?
70万だぞ!
しかも採用者が就業している限り、給料の一定割合をその企業に払うシステムになっている。
奴らは一時金をぼったくっおいて、なおかつサブスクリプションで権利収入を掠めとっていくハゲタカどもだ。
それでも成り立つのは、保育士や看護士は慢性的に不足していて、俺ら脆弱な事業者にはどうにもならんからだ。
おかしいんだよこの国は。
そう思うだろ?
犯罪加害者家族だからって、こうして惨めに生きていくのはおかしいって、そう思わんかね?
なぁ、聞いてんのか?福原さん」
杉山は、力を込めて刹那の頭をぐっと押えた。
「なんなんですか、このいやらしい音は?
人の話ちゃんと聞いてるんですか?この変態が」
直にそうなることはわかっていたが、杉山は刹那にとって想像以上であった。
いや、期待以上と言うべきか。
指で散々弄び、長々と口淫を強要しながら、杉山はエレクトしたまま延々とビジネスの話をする。
頭と身体の機能が直結してないに違いない。
この男は、自分のお楽しみを最大限に引き出すことに歓びを見出だす術を知っているのだ。
「だからさ、あんたに保育士になってもらうように何でもサポートするのさ。
収入、仕事、社会保障、あんたの新居の保証人、資格取得のためのあらゆるバックアップ。
挙げ句に俺たちは、こんなに固い友達になれる。
わかるだろう、硬いんだよ。福原さん。
どうなんですか、これは硬いんですか?聞いてるんですよ」
杉山は無表情のまま、刹那の口を存分に楽しんでいる。
聞かれたところで、塞がった口で答えられる訳がない。
しかし、刹那はこうなる前から、杉山の嗜好がどんなものか、なんとなくわかっていた。
なぜかはわからない。
それほど得意でない性技を要求されるのは、お互いにとってどんなものなのだろうと思いながら、それもまたこの男のお楽しみなのだろうと思う。
唾液にまみれた口を玩具にされたまま、刹那は何故か、美緒さゆりの唇を思い出した。
あの小さく、少しふっくらとした美しいフォルム
私はきっと、あの唇を奪いたいと思っていたのだ。
男になって、この杉山のように冒してみたいと。
私は、どこかでおかしくなっていったのだ。
どこからなのか
いつからなのか
でも、そんなことどうだっていいではないか。
それがわかったところで、昔に戻れはしないのだし、戻りたい昔も特にない。
力を入れて杉山から離れると、刹那は挑発的な目で杉山を見た。
「こんなんで悦んで終わりかよ」
「そういうのを待ってたんだよ、福原さん」
杉山は見たことのないような歪んだ笑みを浮かべると、刹那の両脚を掴んだ。