「人でなしの行い」
この年齢になって、ようやく日常的に物を書くことができるようになりましたが、良くも悪くも自分の文体がはっきりしています。
小説を書いている時のそれは、凄く醒めていて、非感傷的にも思えます。
それは、小説を書く以前からの、おびただしい詞作を経てそうなった気がします。
僕は器用ではないので、作品によって文体を変えるようなことはできません。
野球投手の投球フォームと同じで、自分の型がはっきりした中で勝負していくしかありません。
今まであまり気にしていなかったのですが、昨日、なんともなしに、無自覚でいるのは執筆には良くないと思えてきました。
自分の手の内でできるベストを考えた方がいい筈です。
子供の頃から小説を成すことを想い、村上龍の作品を読んだことが小説執筆の強い動機にはなりましたが、それは作家としての強固な意思に感じ入っただけで、文章そのものに強い影響をもらった訳ではありません。
あらためて自分の文章を考えていたら、僕の文章に直接的な影響を及ぼしたのは、ブルース・スプリングスティーンの曲だったのではと至りました。
1982年の彼の6枚目のアルバム「ネブラスカ」は、自身のE・ストリートバンドとのセッションに備え、自宅でカセットに録音した弾き語りのデモテープをそのままアルバムにしたものです。
セッションでこのテープの生々しさを越えることができず、ブルースとプロデューサーのジョン・ランドゥーらの判断により、異例のアルバムが生まれました。
このアルバムの曲の半分は、犯罪について歌われ、過酷な状況に置かれた弱者がテーマです。それは、ブルースのアルバムでは初めてのことでした。
タイトルソングとなる「ネブラスカ」は、1958年に実際にあった、若いカップルによる無差別殺人事件を扱った曲です。
曲の最後、犯人の声をブルースは想像します。
「彼らは俺に生きるに値しないと断言した
俺の魂は地獄に投げ込まれると言った
彼らは俺がなぜこんなことをしたかを知りた
がった
ねぇ、いいかい、この世には
理由もなくただ卑劣な行為というものが
あるんだ」
https://youtu.be/uTHc_ZXsqXU
僕はストリートテラーではないので、彼のような詞を書くことはありません。
しかし、ここで提示される、善悪の彼岸とも言うべき、贖罪も断罪も斥けられた視線が、僕の言葉に強く影を落としていると知っています。
文章を書くというのは一種の業です。
その血の臭いに囚われた、人でなしの行いなのです。
#brucespringsteen
#nebraska