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「せつなときずな」 第24話
浮世から身を隠し、親子で寄り添って生きる暮らし。
いや、寄り添ってなどいない。
息子はまだ4歳。母親にすがることしかできない生き物。
息子が私に寄り添って、では、私が寄り添える、私を支えられる人は誰?
お母さんは、そうかもしれない。
でも、それは、ほんの一部。
お母さんも自分でわかっている。私のことがよくわからないことを。
私は、親しい友人を作ってこなかった。
人が、苦手だった。
みんなが思うように、みんなが感じるように、この社会の世間一般がことごとく苦手だった。
そんな私は、自分を変えるきっかけを「白猫」で見つけて、その姿を公彦に見つけられた。
私は初めて、自分以外の他者と繋がった気がしたけど、それは、心の前に身体で越えた境界だった。
その逆の順序は、二人が大人になることを妨げたのだろうか。
それは過ちではなかったのだろうか。
だとしたら、絆は、過ちの結果なのか…
私はあの時、迷いもなく、新しい生命を産む決断をした。
私には、後悔などあり得ないと思えた。
その選択に、将来に渡り後悔など起こり得ないと盲信していた。
盲信は、愛に似て、本当は不確かなのだ。
公彦は、いやらしい男だった。
その肉欲にほだされたあの日々は、たまらない記憶だ。
私は受け身だけにはおさまらなくなったが、その先にたどり着く前に、絆を身籠った。
絆の誕生は、二人のみだらな日々の終焉だった。
地方の普通科の高校などに、魅力的な求人など有りはしない。
卒業して籍を入れてくれた公彦の決断に、私は未来を夢見たが、生計を支える収入は学歴に比例する。
現実社会は、幼く無知な夫婦にやさしくはない。
お母さんの助力があって、家業にお世話にならなければ、とても生活など成り立たない。
公彦は、少し足りなかった。
無理をしても稼いでこようという気概は感じられなかった。
家事もあまりしない。
夜は求めてくる。
私は、もうそんなのは要らなくなった。
だから、何だと言うのだ?
…
刹那は、生まれて初めて買ってきた煙草に火を点けた。
自棄といえばそれまでだが、昔から吸ってみたかったのだ。
今さら、一体何に気兼ねする必要があるとでもいうのだろうか。
思ったようにむせび、咳き込んだ刹那に向かって、絆は「お母さん、臭いよ」と言った。
「うるさいなあ!」
自分でも驚くような怒鳴り声が、旧く薄汚い部屋中に響き、驚いた絆は恐怖のあまり声を出さずに泣いた。
二人にとってそれは、初めての断絶だった。
なんだかくそだわと、刹那は煙草を灰皿に捻りつけた。