
早く気づいてあげられなくてごめんね
私が所属する日本トイレ研究所は、子どもたちが元気にすくすくと成長できるように、トイレ・排泄を切り口に、食、睡眠、運動の専門家と連携しながら、フォーラムを開催したり、情報発信を行ったりしています。
先日、子どもの健康に関する活動で知り合った女性から、10年ぶりぐらいにメールをいただきました。かなり久しぶりだったので懐かしいなぁ、なんて思いながらメールを開いていると、そこにはお子さんの便秘のことがビッシリ書かれていました。
このメールをもらう2日前、朝日新聞に子どもの便秘に関する以下の記事が掲載されました。記事には日本トイレ研究所の調査結果や私のコメントも載っていて、それを読んで、どうしてもメッセージを送りたくなったとのことでした。
https://www.asahi.com/articles/ASM6N3T3ZM6NUTFL006.html
メールの内容を以下に紹介しますね。
「こんにちは。大変ご無沙汰しております。朝日新聞の記事を読んでメッセージをどうしても送りたくなりました。。突然ですみません。。うちの子も0歳から便秘になり、切れ痔もひどく大変苦しんできたので、お子さんの様子がリアルに分かり心が痛みました。…中略…お医者さんはもちろんのこと、保護者にも正しい知識を持ってもらいたいと切に感じます。」
今まで、子どもの排便に関する活動に取り組んできたものの、私自身が便秘症の子どものお母さんに一対一でじっくりお話をお聞きする機会はありませんでした。そんなこともあって、このメールを読みながら、すぐに会わなきゃと思い、話をお聞きしたいという返事を送りました。
ということで、今回は、メールをくれた女性(母)に聞いた子どもの便秘の話を紹介させていただきます。
私:最初に便秘かな、と感じたのはいつ頃ですか?
母:生後7カ月か8カ月くらいで、ちょうど離乳食をはじめた頃だったと思います。たしか、1人座りができるようになったぐらいです。
私:日本トイレ研究所の調査では、便秘状態と思われる1~3歳の子を持つ母親にアンケートで「子どもの便秘症状はいつ頃から気になりだしましたか」と聞いたところ、子どもの便秘症状が気になりだした時期は、0歳が53.5%で最も多い結果となりました。
ところで、うんちは、どのくらいの頻度で出ていたのですか?
N=568
調査:NPO法人日本トイレ研究所、協賛:森下仁丹株式会社(母親と子どもの排便に関する実態調査)
詳細:https://www.toilet.or.jp/wp/wp-content/uploads/2019/03/the-survey_190329-1.pdf
母:2~3日に1回ぐらいです。毎回、ものすごくいきむんです。赤ちゃんがこんなに苦しそうな顔をするなんて…と感じたのがとても記憶に残っています。かなりいきむので、肛門が切れることもありました。
私:とても心配だったと思うのですが、どなたかに相談しました?
母:もちろん家族には話しました。あと、記憶があいまいなんですが、健診のときに軽く相談したような気がします。ただ「便秘は、よくあるからね」というような返答だった気がします。肛門が切れることに関してもピンときていない感じでした。離乳食をはじめるとうんちが出にくくなることもある、という話は聞いたことがあったので、自分でもそんなに不安になっていなかったと思います。
私:だとすると、どのタイミングで病院に行こうと思ったのですか?
母:1歳ぐらいのときに、児童館の保健師との何気ない会話の中で「肛門が切れて、血が付くんですよねー」と話したところ、「それはすぐに病院に行った方がいいわよ!」と言われたのがきっかけです。
私:そういうきっかけって大事ですね。それで、小児科を受診されてどうでしたか?
母:はい、そこでは座薬と軟膏を出していただきました。あと、食物繊維や柑橘類も摂るようにとアドバイスをもらいました。それで、2~3日に1回の頻度で座薬をして、4カ月後には緩下剤も処方してもらいました。ただ、うちの子は、食べられるものに偏りがあり、柑橘類もあまり好きじゃなかったので、その辺はあまり神経質にならないようにしていました。薬を飲ませるのを忘れてしまうこともあったのですが、2歳の終わりぐらいには座薬で出ないときもありました。
私:大人だって、薬を飲み忘れることはありますよね…
母:つかまり立ちできるようになると、立った状態でおむつにうんちをするんです。うんちをするときに肛門がとても痛いみたいで、意識してうんちを我慢しながらうんちをすることになるので、とてもかわいそうな状態でした。
私:見てる方もつらいですよね…
母:3歳になる手前ぐらいのときなのですが、いつもなら15分くらいいきむところを、そのときは30分以上。しかも今までに見たことがないほど苦しそうな表情で、イタイイタイって泣いていました。すると、たくさん出血をしてしまい、それであわてて、病院の急患に連れていきました。
私:どうだったのですか?
母:そこでは応急的に浣腸をしてもらいました。出血は肛門が切れたことが原因でした。翌日、いつもの病院でそのことを先生に説明すると、近くの大学病院に便秘外来があるからそこで診てもらった方がいいと紹介状を書いてくださいました。すぐに、その便秘外来に連れていったのですが「何でもっと早く言わなかったの!」と先生に言われてしまい…本当はこれまでのことをいろいろと言いたかったのですが、先生が怖くて言えませんでした。。。
私:そうですよね
母:思い返してみると、1歳のときに診てもらった病院で、「1~2か月通って良くならなかったら小児外科を紹介しますよ」と言われたことがあるのですが、そのときは、それがどういう意味なのか分からなかったですし、小児科で診てもらうのと小児外科で診てもらうのは何が異なるのかも分かりませんでした。であれば今のままでいいのかなと、なんとなくスルーしてしまっていたと思います。
私:今はお子さんの状態はいかがですか?
母:便秘外来に4カ月間ほど通院していて、緩下剤を服用していますが、今はいいうんちが出ています。本当にありがたいです。
私:それはよかったですね!
母:便秘のことや治療のことなど、ちゃんと説明を受けてから、自分の無知に反省しています。もっと早く気づいてあげられなくてごめんね、という気持ちで一杯です。
私:子どもの便秘は悪化しやすいので、赤ちゃんの頃から便秘かどうかを気にすることが大切で、そもそも便秘の仕組みについても情報提供することが必要だと考えています。実際に便秘に悩まれた経験から、どのタイミング、どのような情報がもらえると役に立つか、ぜひ教えてください。
母:まずは、慢性の便秘は赤ちゃんによくあることを伝えてほしいです。私は家族に相談しましたがみんな素人なので、心配することはできても深刻だと認識して対応することはできませんでしたから。それから、うんちが出ないだけではなく、もしうんちが出たとしても、苦しそうだったり、肛門が切れたりしたら、病院(できれば便秘外来)に行って診てもらうことが必要だと思います。慢性機能性便秘症診療ガイドラインがあるくらいですので、ちゃんと治療できるということも知っていただきたいと思います。
私:うんちを我慢すると、どんどん硬くなってより出しにくくなります。硬くて大きいうんちをするときは痛いですし、肛門が切れてしまうこともあるので、怖くてもっと我慢してしまうという悪循環になります。慢性化すると直腸が弛んでしまうことで便意も感じにくくなると言われています。そうなるとさらに悪化します。そういった意味でもとにかく早めにお伝えしたいのですが、どのような場だと保護者の方に届きやすいでしょうか?
母:健診や保育園に子どもの排便について詳しい方がいるとありがたいです。転居等で地元のことが分からないこともあるので、できれば、身近な病院で便秘に詳しい医師がいるところを教えてほしいです。
私:保健師や看護師、保育士の方々と力をあわせて、まずは健診、そして保育園などで情報提供するのがいいってことですね。あと、子どもの便秘に詳しい病院の紹介って、かなり大事だと思います。これについては、どのように増やしていくか、リスト化していくかをガイドラインの先生方に相談しながら考えていく必要があります。
今回は、お子さんの便秘のことを率直にお話しくださり、本当にありがとうございました。