「出てるなら大丈夫」に気をつけて!
前回につづいて、便秘治療に取り組む別のお母さんにお話をお聞きしました。「出てるなら大丈夫ですよ」というフレーズがいかに悩ましいかを痛感しました。日頃から「うんち」のことは話題にあがらないので、私たちはうんちや排便に関する会話に慣れていません。そもそもデリケートな話題なので深掘りしづらいのだと思います。それがゆえに、なんとなくのやりとりが誤解を生み、便秘を悪化させていくのではないでしょうか。
では、お子さんの便秘に悩みながら改善に向けて努力しているお母さんの話をご紹介します。
私:お嬢さんが便秘かもって、感じたのはいつ頃ですか?
母:生後4か月くらいの頃で、まだ離乳食前です。うんちが出ない日があったのでなんとなく気になって、いろいろな人に聞いたところ、水溶性食物繊維がいいということだったのでプルーンジュース100%を探して、飲ませたりしました。
4か月健診で予防接種のときにも、お医者さんに「うんちがちょっと出ないのですが…」と相談しました。
私:そうしたら?
母:「そんなに心配しなくても、母乳だから大丈夫ですよ。」とのことでした。
私:母乳だと便秘になりにくいのですか?
母:その時は、そういう意味だと理解しました。でも、いろいろ調べてみると、そんなことはないんですよ…
私:そうなのですね。
母:離乳食は6か月から初めました。その後、9か月で便秘が気になったので、管理栄養士に相談し、10か月のときは保育園の看護師に相談しました。でも、毎日もしくは2~3日に1回出てると伝えると、「出てるなら大丈夫ですよ。」という回答でした。
また、1歳のとき、痛がりながら白っぽいうんちが出たことがあり、とても驚いたので、救急相談センターに電話してから病院に連れて行ったことがあります。このときは「胆道が細いのかもしれませんね。ですが、あまり気にしなくてもよいですよ。」と言われました。
それでも気になっていたので、1歳半健診で食事の写真を持参して、管理栄養士とお医者さんに聞きました。食事の内容は、以前に管理栄養士にアドバイスをしてもらったこともあり、かなり意識していました。お二人からは「食事は気をつけていらっしゃいますねー」という回答のみで、うんちについては何となくスルーになってしまいました。
私:かなりあちこちで相談されていたのですね。
母:実は1歳半の検診で聴力に関する治療が必要なことが分かりました。このことで、あわててしまい、排便のことに意識がまわらなくなっていた時期がしばらくあり、あらためて気になったのは3歳健診のころです。うんちが硬くて気になっていたので、健診のときに相談するとやっぱり「2~3日に1回ぐらい出てるんですよね。それなら大丈夫ですよ。」でした。
私:「出てるなら大丈夫」って、注意が必要ですね。
母:そうなんです。赤ちゃんのころから排便状況があまりよくないと感じていたので、どうしても出ないときは市販の浣腸を使うこともありました。ですが、身内の不幸で生活リズムが崩れたときに一気に悪化し「おなかがいたい!おしりがいたいー!」と言うようになり、肛門が切れたり、うんちが漏れることがあったり、浣腸しても出ないこともありました。そこで、アレルギー治療のために小児科に受診したときに、小児科医に相談し、慢性機能性便秘症だと診断されました。
私:やっとですね…
母:ですが、処方された薬をのむと、子どもはとても激しくおなかを痛がります。2時間ぐらいあぶら汗をかきながら床の上を転げまわって痛がる感じです。見ているのがつらくて…。これではあまりにもかわいそうだと思い、再度受診したのですが、さらに薬の量を増やすと言われました。調べてみると刺激性下剤の一種でした。この他には、市販の浣腸を使ってくださいとも言われました。以前から市販の浣腸を使っていましたが、あまりにも嫌がるので、小児科オンライン(https://syounika.jp/)で相談しました。このとき初めて、浣腸はあたためてから使用した方がよいことを知りました。これまであたためないで使っていたので、かなり辛い思いをさせてしまったなぁと反省しています。
今年の元旦、はっきりと憶えているのですが、朝7時~午後3時まで、今までにないくらいひどくおなかを痛がりました。6時間もずっとです。
もうこれはおかしいと思い、受診して、状況を伝えました。
私:それでどうなったのですか?
母:さらに薬の量を増やしましょうと言われました。大人が飲む以上の量の薬を処方されたため、この医者では問題は解決しないと思い、ネットで小児慢性機能性便秘症の診療ガイドラインなどを手当たり次第に調べました。英語の論文も読みました。調べている中で、子どもの便秘を専門的に取り扱っている先生がいることが分かりました。その先生のインタビュー記事に「気軽に連絡ください」と書かれていたので、すぐに先生宛にメールを送りました。これまでの排便記録も併せて送り、藁にもすがる気持ちで相談しました。先生のアドバイス通り浣腸も続けたのですが、状況は改善せず、何度かメールで相談する中で、先生が診ますので病院に連れてきてくださいとおっしゃってくださり、今年の2月に診てもらうことができました。片道1時間半以上もかかる遠方の病院ですが、専門医に診てもらい、とにかく治療を進めたいという一心で連れて行きました。
私:今度は、どうでしたか?
母:今までの経緯や記録をもとにやり取りさせていただき、順調に治療が進んでいます。浣腸もカテーテルで行う方法を教えてもらい、以前よりもスムーズにできています。とはいえ、浣腸を好きになるなんてことはありませんので、子どもも親も努力しています。
治療はまだまだこれからですので、時間をかけながら少しずつ良くなるように取り組んでいきたいと思います。
私:本当によかったです。便秘治療を専門とするお医者さんにお聞きすると、浣腸は癖にならないと言います。浣腸の使い方についてもっと情報発信する必要があるということですね。
母:先生から言われてショックだったことがあります。3歳までに便秘治療を完了させておけば、治療はもっとスムーズだったと言われたことです。これまで何度も「便秘ではないか?」と疑ってきて、医師にも相談してきたのに、見落とされてきた結果、治療が長期化することが、子どもにとても申し訳ないと思います。今の先生のところで治療を開始したのが、3歳後半でした。これから10年以上治療にかかると言われています。
母:あと、子どもから言われたことがありまして…
私:えっ、何ですか?
母:「お母さんは、この薬を飲んだらどのくらい痛いかわかる?飲んでみてよ」と言われました。
私:それで…
母:飲みました。もちろん、ものすごく痛かったです。2時間くらい…トイレから出られず苦しみました。
私:お子さんの反応はどうだったのですか?
母:知らん顔して横目で見ていたような気がします。でも、それ以来、家族と一緒に治療していくのだと前向きになりました。
私:さすがお母さんというか…大変ですね(汗)
私としては、できるだけタイミングよく保護者の方に排便情報を届けたいと考えています。困ったときはもちろんですが、できれば事前にケアしてもらえるようにしたいです。とくに今回お話をお聞きして印象的なのが「出ているなら大丈夫ですよ」という回答です。出てるだけでは大丈夫じゃなくて、「すっきり出てますか?」「痛がっていませんか?」「苦しそうじゃないですか?」という声かけが必要だと感じています。心配し過ぎるのはよくありませんが、母親が感じる違和感は大切だと思います。
どのようなタイミングで情報提供するのが効果的ですか?
母:私の経験からすると、生後4か月健診あたりで便秘に関する第1次情報を届けてほしいです。そして1歳半健診でしっかり聞いていただきたいと思いました。あと、赤ちゃんの便秘はまれではない、ということも伝えて頂きたいです。数か月ほうっておくだけでも直腸が拡がってしまうし、そうなったら食事ではどうすることもできない。だからこそ、早めに小児便秘の専門医に相談してほしいです。排便後のお尻の拭き忘れか、よっぽどひどい下痢でもない限り、ふつうはうんちが漏れることはないと思います。ですから、うんちが漏れている場合は、便秘の可能性も気にしてほしいと思います。
私:赤ちゃんの離乳食やアレルギー、睡眠などは、情報発信がされていますが、うんちについては圧倒的に情報不足だと感じています。「はじめてのうんちケア(仮称)」や「赤ちゃんのうんち手帳(仮称)」というものをつくりたいなと思いました。今日は、貴重なお話を聞かせて頂き、ありがとうございました。また治療経過など、ぜひ教えてください。
前回と今回、2人の母親から実際の経験にもとづくお話をうかがって、痛感することがたくさんありました。と同時に、排便に関する情報が不足していること、子どもの便秘をケアする体制が整っていないことを痛感しました。子どもも保護者も情報不足と体制の未整備で苦しんでいます。
関係者で力を合わせて、保護者に情報を届けること、相談できる窓口を増やすための活動を行っていきたいと思います。
まとめ
■ 「出ているなら大丈夫」ではなく、「すっきり出ている」が大事
■ 便秘症は食事だけでは改善できない
■ 痛がる、我慢する、うんちが漏れてしまうときは要注意
■ 便秘症で直腸が拡がってしまうことがある
■ 子どもの便秘は悪化しやすいので早めのケアが必要