ENOTECA MANIFATTURA
熱海駅から数分、観光客で賑わっている商店街を横道に逸れてその店に向かう。身なりを正して緑の扉を開けるとカウンター越しに萩原さんが立っている。こちらに視線を向けるといつものように軽く挨拶を交わす。
ワインバー、エノテカ マニファトゥーラは熱海の中でも無国籍な空間と時間が流れる稀有な場所。店の中には時代や国も問わず様々なアンティークが溢れ、ふと気づくと自分がどこにいるのかわからなくなっている。そしてオーナーの萩原さんは本、アート、音楽をこよなく愛している。
初めて出会ったのは去年の夏だったか、エタブルオブメニーオーダーズの新居幸治さんから面白い店があると連れられて訪れるとカウンターには本やワインが埋もれるように高く積まれていた。その隙間から目をやるとどうやら奥にはオーナーがいるらしい。今夜の客が幸治さんと分かると目の前に置かれた本を端に寄せてワインを注ぎながら最近読んだ本について語り始めた。気がつくと店内には客が溢れ、この店の空気を慈しむかのように大事に過ごしていることが伝わってくる。
萩原さんは若い頃、フランスとイタリアを転々としていたことがある。ブラジル料理屋で黒人と一緒に働きお金はなかったけど楽しかったこと、イタリアでピンキオーリ氏からワインの味を教わったこと。ときどき呟く「楽しいことが大切」という言葉はその頃の記憶につながっているのかもしれない。そんな萩原さんが自らの手で少しずつ作り上げてきたお店は作家やアーティストに愛されてきた。
その記憶を継ぐようにエノテカ マニファトゥーラは今夏に向けて生まれ変わろうとしている。
竣工写真はこちら
https://unscape.tokyo/projects/post/manifattura_2020