冒頭から曲の世界へいざなってくれる素敵な歌詞~#スキな3曲を熱く語る~
Well begun is half done.
「何事も始めが大切である」という英語の諺だ。
アリストテレスの名言でもあるらしい。
この言葉、私は歌詞にも同じことが言えるのではと思っている。
素敵な一節で始まると、それだけで頭の中に、曲が描こうとしている情景が浮かんでくる。
最初の数秒から曲の世界観に入り込めて、最後まで浸っていられるから、とても贅沢な時間を過ごした気になれるのだ。
今回は、冒頭から曲の世界にいざなってくれる、素敵な歌詞を3曲分語ろうと思う。
1曲目 スキマスイッチさんの「アイスクリーム シンドローム」
親友である「君」に片思いをしている「僕」の心情が描かれた歌だ。
ポケモン映画の主題歌でもあるが、夏のラブソングとしても有名だろう。
そして冒頭の一節がこちら。
関係はいたってフラットだ 何でも話せるくらいかな
この「いたって」が、とてもいい味を出していると思う。
「君」の笑顔を「どうにか焼き付けられないかな」って思う程に、「僕」は好きな気持ちが高まっている。
でも「君」から相談される恋愛トーク中は、恋心がバレないように接している。
それはきっと、「君」には好きな人がいて、相手は「僕」じゃないから。
好きでしょうがないんだけど、でも隠しておきたいし、一番の段階の「僕」はきっと叶わないと思っている。
その諦めや強がりが「いたって」に凝縮されている気がして、私はこの曲を聴くたびに、「僕」に感情移入して切ない気持ちになるし、ついつい応援してしまう。
ちなみに一番サビとラスサビどちらも、「僕」は「君」をファインダー越しに見ているが、若干印象が異なっている。
一番では「想像よりずっとずっと遠くに君がいる気がした」と、高嶺の花のような存在として「君」を認識している。
一方ラスサビでは「手が届きそうなほどそばに君が見えたらいいな」と、わずかにポジティブになっている。
曲も転調していることから、溶けたアイスクリームを見た「僕」の心が一歩、いや半歩だけかもしれないが、前へ進んだのは確実。
「君」との関係を「いたってフラット」と表現していた「僕」のことを、ますます応援したくなってしまうのだ。
2曲目 大瀧詠一さんの「スピーチ・バルーン」
言わずと知れた名盤、「A LONG VACATION」に収録されている一曲。
作詞は松本隆さん。
港で別れる男女を描いたスローバラードだ。
私はこの曲で初めてスピーチ・バルーンという言葉を知った。
意味を知って「なんてお洒落な言葉選びなの!」と感動したのを今でも覚えている。
そして冒頭の一節はこちら。
細い影は人文字 海の背中に伸びている
まず、影が細いことから、時間は明け方か夕暮れであろうと想定できる。
また「海の背中」であることに注目したい。
背中というと、なんとなく自分に後ろを向けているような、ここから立ち去るような印象を受ける。
そして「影は人文字」なので、おそらく影を作っている人物が、自分から離れていくであろう景色が脳裏に浮かぶ。
離れていくとなると、明け方よりは夕暮れかな……と、この一節だけで、そこはかとない、もの悲しさが伝わってくる。
冒頭のたった一節で、聴き手にはもの悲しい情景が思い浮かんでいるので、曲が進むにつれて、より一層別れの切なさが込み上げてくる。
余談だが、実はこの歌詞の中には「私」や「僕」といった一人称が出てこない。
なので、曲中の「君」と別れる側として聴くこともできるし、あるいはその別れの様子を離れたところから見ている第三者としても聴くことができる。
どちらの視点で聴いても成立しているので、凄いなあと唸ってしまう。
第三者視点で聴くと、モノクロ映画のワンシーンを見ているかのような気分になれるので、私はこの聴き方が好きだ。
3曲目 桑田佳祐さんの「波乗りジョニー」
正直、この曲は今までの2曲のような説明はできないかもしれない。
私が初めて「音楽って良いな」と思った曲なので、理屈抜きで最高なのだ。
一応、冒頭の一節を引用しておこう。
青い渚を走り 恋の季節がやってくる
夏!
この一節だけで「夏が来るんだ!」という興奮が呼び起こされる。
波乗りジョニーとの最初の出会いは小学生の頃。
家族でのお出かけは車だったのだが、そのときのBGMが桑田佳祐さんのアルバム「TOP OF THE POPS」で、波乗りジョニーは、その1曲目として収録されている。
ただ、子供の頃からとにかく車に酔いやすい体質で、音楽に耳を傾けている暇などなかったので、「この曲良いなあ」なんて感想は全く持っていなかった。
時は過ぎ中学2年生の頃。
父親が持っていたiPodを、何かのきっかけで借りた。
特段音楽が好きというわけではなかったので、何故借りたのかはもう覚えていない。
しかし、借りて1曲目に流れてきた音楽はよく覚えている。
そう、波乗りジョニーだったのだ。
ピアノのイントロ、そして桑田さんの声を聴いて、一瞬で虜になった。
小学生の頃にはなんとも思っていなかった音楽が、車に酔っていない状態だと、こんなにも色鮮やかで、爽やかで、楽しいものなのか!
アルバム2曲目の「黄昏のサマー・ホリデイ」では、夏の湿っぽくてムワムワした暑苦しさを感じ、3曲目の「白い恋人達」では、寒さと共に訪れる失恋の切なさを感じた。
アルバム最後の曲が終わるまで、絶えず桑田さんの世界にいざなわれて、ただひたすらに音楽の奥深さ、表現の豊かさに感動を覚えていた。
この経験がきっかけで、私は音楽のことが好きになり、他のアーティストの曲と出会うことができた。
なので、波乗りジョニーの冒頭の一節は、私にとっては音楽と引き合わせてくれた歌詞と言っても過言ではない。
以上で、冒頭から曲の世界にいざなってくれる、素敵な3曲の紹介を終える。
探せばまだまだ素敵な歌詞は見つかると思うし、「こんな曲も良いよ」というオススメがあれば是非教えていただければ幸いである。
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