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ペケとジマの複素解析 #5


 

登場人物

ペケ
理系,学部1年.
メガネ

ペケ

ジマ
文系,ペケの先輩.
メガネ

ジマ
 

ジマ:さて,前回までで複素積分の基本的なやり方を一通り終えたから,今回は難しい実積分を複素積分を使ってラクに解いていこうという方針だ.
複素積分を用いることで,通常の方法では到底計算できないような様々な実績分の値を計算することができるYo~.

ペケ:え,あの2回でほぼ全部おわったってことですか!?
複素積分って意外とラクなんですね?

ジマ:そうだよ.見た目がゴツいのと,抽象的な部分を理解できれば後はラクだね.今後はこの辺意識して解説していくよォー.

ペケ:よろしくお願いします.

ジマ:では早速だが,今日は次の実積分を解いてもらう.

$$
\int_0^\infty \frac{\sin x}{x}\mathrm dx
$$

見たことある―?w

ペケ:あー,値が$${\pi/2}$$になるやつか.ディリクレ積分でしたっけ?

ジマ:So-.ペケくんが後期にやるだろうラプラス・フーリエ解析でも出てくるから覚えておいて損はないよォー.どうやって求めるかは知ってる?

ペケジマさんなんで経済なのになんでそんな工学部に詳しいんですか…
求め方は…知らないです.

ジマ:ククククク…w  出た!ディリクレ積分の答えだけ覚えてイキってる,絵に描いたようなエセ理系!w

ペケ:すみませんでした.やり方教えてくれますか?

ジマ:仕方ねぇなァー.まぁ俺レベルになると,ディリクレ積分は7,8通りの方法で示せるんだが,今回は複素解析ということで,これを使って示していくよォー.
まず,次の等式を示してくれ.

$$
\int_r^R \frac{e^{ix}}{x}\mathrm dx+\int_{-R}^{-r}\frac{e^{ix}}{x}\mathrm dx=2i\int_r^R \frac{\sin x}{x}\mathrm dx
$$

言うまでもなく$${R>r>0}$$だ.

ペケ#1でやった$${\sin}$$のオイラーの公式による定義
$${\sin x=(e^{ix}-e^{-ix})/(2i)}$$に注意して,

$$
\begin{aligned}
&\int_r^R \frac{e^{ix}}{x}\mathrm dx+\int_{-R}^{-r}\frac{e^{ix}}{x}\mathrm dx\\
&=\int_r^R \frac{e^{ix}}{x}\mathrm dx+\int_{R}^{r}\frac{e^{-it}}{-t}(-\mathrm dt)\\
&(x=-tと置換)\\
&=\int_r^R \frac{e^{ix}}{x}\mathrm dx-\int_{r}^{R}\frac{e^{-it}}{t}\mathrm dt\\
&=\int_r^R \frac{e^{ix}}{x}\mathrm dx-\int_{r}^{R}\frac{e^{-ix}}{x}\mathrm dx\\ &(ダミー変数だからtをxとしてよい)\\
&=\int_r^R \frac{e^{ix}-e^{-ix}}{x}\mathrm dx\\
&=2i\int_r^R \frac{e^{ix}-e^{-ix}}{2ix}\mathrm dx\\
&=2i\int_r^R \frac{\sin x}{x}\mathrm dx
\end{aligned}
$$

$${\cos x/x}$$が奇関数だから,オイラーの公式のコサイン部分が相殺されるんですねぇ.

ジマ:あってるよォー.そんで次の複素積分を計算していくYoー.

$$
\oint_虹 \frac{e^{iz}}{z}\mathrm dz
$$

ペケ:「虹」ってなんスカ.クロノの最強武器ですか.

ジマ:ウヘヘヘヘww!今は「夢幻」だがな,おじいちゃん.
次の積分経路の事だよォー.ちとふざけすぎたかな?
まぁコジ(筆者)はパイナポーとか呼んでるから,それよりはまだマシだろ.


図1. 積分経路 : 虹

ペケ:確かに虹のイラストみたいですね.被積分関数の極というか,不定形になりそうな点って$${z=0}$$くらいしかないから,「虹」の内部に極が無いのでゼロですかね.

ジマ:そらそうよ.次はちょっと面白いぞ.$${R \rightarrow \infty}$$で$${C_1}$$の積分がどうなるかを調べるんだ.

$$
\begin{aligned}
0&\leq\left|\int_{C_1}\frac{e^{iz}}{z}\mathrm dz\right|\\
&\leq \int_{C_1}\left|\frac{e^{iz}}{z}\mathrm dz\right|\\
&\left(\because 三角不等式\left|\int_{C}f(z)\mathrm dz\right|
\leq \int_{C}\left|f(z)\mathrm dz\right|\right)\\
&=\int_0^{\pi}\left|\frac{e^{iRe^{i\theta}}}{Re^{i\theta}}iRe^{i\theta}\mathrm d\theta\right|\\
&=\int_0^\pi|e^{iR\cos\theta}||e^{-R\sin\theta}|\mathrm d\theta\\
&=\int_0^{\pi/2} e^{-R\sin\theta}\mathrm d\theta+\int_{\pi/2}^{\pi} e^{-R\sin\theta}\mathrm d\theta\\
&=\int_0^{\pi/2} e^{-R\sin\theta}\mathrm d\theta+\int_{0}^{\pi/2} e^{-R\sin\phi}\mathrm d\phi\\
&(\theta=\pi-\phiと置換)\\
&\leq2\int_0^{\pi/2} e^{-2R\theta/\pi}\mathrm d\theta\\
&\left(\because ジョルダンの不等式\sin x\geq\frac{2x}{\pi} \ \left(0\leq x\leq \frac{\pi}{2}\right)\right)\\
&=2\left[-\frac{\pi}{2R}e^{-2R\theta/\pi}\right]_0^{\pi/2}\\
&=\frac{\pi}{R}\left(1-e^{-R}\right)
\end{aligned}
$$

$$
\lim_{R\rightarrow\infty}\frac{\pi}{R}\left(1-e^{-R}\right)=0
$$

より,はさみうちの原理から,

$$
\lim_{R\rightarrow\infty}\left|\int_{C_1}\frac{e^{iz}}{z}\mathrm dz\right|
=0
$$

だから,

$$
\lim_{R\rightarrow\infty} \int_{C_1}\frac{e^{iz}}{z}\mathrm dz
=0
$$

ペケ:へー!具体的な値を求めなくても,大きさがゼロになることを示すだけで十分なんですね.
不等号のイコールついてますけど,イコール書く必要あります?

ジマ:$${0\leq1}$$って間違いなん?
万が一イコールになるとき書いてなかったらバツだし,いちいちゼロになるか検証しなくてもいいんだから書き得じゃねー?
書く癖付けた方が良いね.

ペケ:あー,確かに.聞きそびれましたが,ジョルダンの不等式は図を書いたら分かりましたが,三角不等式って積分でも成り立つんですか?

ジマ:カス!!積分を差分の和の極限と解釈すれば自然に分かるだろ!!

$$
\begin{aligned}
\left|\int_C f(z)\mathrm dz\right|
&=\lim_{n\rightarrow\infty}\left|\sum_{k=1}^nf(z_k)(z_k-z_{k-1})\right|\\
&\leq\lim_{n\rightarrow\infty}\sum_{k=1}^n|f(z_k)(z_k-z_{k-1})|\\&\left(\because 三角不等式|\alpha+\beta|\leq|\alpha|+|\beta|\right)\\
&=\lim_{n\rightarrow\infty}\sum_{k=1}^n|f(z_k)||z_k-z_{k-1}|\\
&=\int_C |f(z)||\mathrm dz|
\end{aligned}
$$

ペケ:なるほど.

ジマ:次お前$${C_3}$$やれや.

ペケ:はい.

$$
e^z=\sum_{k=0}^\infty \frac{z^k}{k!}=1+z+\frac{z^2}{2}+\cdots
$$

だから,

$$
\begin{aligned}
\int_{C_3}\frac{e^{iz}}{z}\mathrm dz
&=\int_{C_3}\left(\frac{1}{z}+i-\frac{z}{2}+\cdots\right)\mathrm dz\\
&=\int_\pi^0\left(\frac{1}{re^{i\theta}}+i-\frac{re^{i\theta}}{2}+\cdots\right)
ire^{i\theta}\mathrm d\theta\\
&=\left[i-re^{i\theta}-i\frac{r^2e^{2i\theta}}{2}+\cdots\right]_\pi^0\\
&=-\pi i+\mathcal{O} (r) \ (\mathrm{as} \ r\rightarrow+0)
\end{aligned}
$$

で$${r\rightarrow +0}$$をとるという魂胆ですね?

ジマ:一丁前にオーダー記号なんか使いやがってYoー.Soー.
じゃ,$${C_2+C_4}$$は?

ペケ:えーと,あ.これ冒頭で計算したやつですね?
伏線回収アツい.

ジマ:So-.あとは言わなくても分かるな?

ペケ:はい.

$$
\begin{aligned}
0
&=\oint_{虹}\frac{e^{iz}}{z}\mathrm dz\\
&=2i\int_r^R \frac{\sin z}{z}\mathrm dz
+\int_{C_1}\frac{e^{iz}}{z}\mathrm dz+\int_{C_3}\frac{e^{iz}}{z}\mathrm dz
\end{aligned}
$$

で,$${r\rightarrow +0,R\rightarrow\infty}$$として,

$$
\begin{aligned}
0=2i\int_0^\infty \frac{\sin z}{z}\mathrm dz
+0-\pi i
\end{aligned}
$$

だから,

$$
\begin{aligned}
\int_0^\infty \frac{\sin z}{z}\mathrm dz=\frac{\pi}{2}
\end{aligned}
$$

ということですね?疲れた.
なんかすごくアマクダリ・・・・・な解法ですよね…
なんでネットや教科書には載ってないんですが,$${\sin z/z}$$を直で「虹」積分したらダメなんですか?

ジマ:n~~.やってもいいんだけどぉ~~.

$$
\begin{aligned}
&\int_{C_1} \frac{\sin z}{z}\mathrm dz\\
&=\int_{C_1} \frac{e^{iz}-e^{-iz}}{2iz}\mathrm dz\\
&=\int_{C_1} \frac{e^{iz}}{2iz}\mathrm dz-\int_{C_1} \frac{e^{-iz}}{2iz}\mathrm dz\\
&=\int_{C_1} \frac{e^{iz}}{2iz}\mathrm dz-\int_0^\pi \frac{e^{-iR\cos\theta}e^{R\sin\theta}}{2}\mathrm d\theta
\end{aligned}
$$

で第二項が発散しちまうから,第二項は「逆虹」で計算しないといけないんだよねー.おんなじこと2回もやりたくないだろォー?So-.
どうせ計算過程で求めたい$${\int_0^\infty \sin x/x \ \mathrm dx}$$が

$$
\int_{C_2+C_4}\frac{e^{iz}}{z}\mathrm dz=2i\int_{C_2}\frac{\sin z}{z}\mathrm dz
$$

という具合に出てくるから天下りの方がラクだしね.
これからやる奴らもそうだけど,複素積分で実績分を解く方法は非常にアマクダリティが高いから覚悟しとけよー.

ペケ:分かりました.でも,大体方針がつかめました.

  1. 計算したい実績分を含むループの積分経路をとる.

  2. ループ内の留数を計算.

  3. 実績分以外の積分経路の部分が,極限飛ばしたら

    1. ゼロになりそう→ゼロになることを示す.

    2. 値が出そう→値が出ることを示す.

  4. 留数と個別に計算した経路積分を等置して極限をとって整理する.

  5. 完成!

ループの複素積分が留数と求めたい実積分を媒介するんですね!

ジマ:そういうことだねー.


#5のまとめ

  1. ループの複素積分が,留数 と 求めたい実積分を媒介する.

  2. 複素積分を用いることで,通常の方法では到底計算できないような様々な実績分を解くことができる.

  3. 一方,解法は非常に天下りになるケースが多い.

  4. ディリクレ積分$${\int_0^\infty \sin x/x \ \mathrm dx=\pi/2}$$

  5. 虹(積分経路)


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