幸も不幸も見方しだい ―エリック・カール『ちいさいタネ』
世の中は不公平だ、って思ったことはありますか? 私はあります。
自分はブサイクだから、好きなあの人に振り向いてもらえない。美大に行きたいのに、家が貧乏だから高卒で働かなければならない。自分は虐待されて育ってきた。生まれたところが〇〇国だから、隣国との対立でいさかいが絶えない。生まれたところが〇〇国で、自分のまわりでは虐殺が平気で行われている……。
世の中を見渡せば、そんなことがいっぱいあるじゃないですか。
不公平だと思うのは、自分の責任でもないのに、この親に生まれたからこの国に生まれたから、という理由で他の人(他の国の人)に比べて自分がより多くの負を背負わなければならないことに、憤りを感じるからですね。
不公平は必ずある。でも負けないで生きてほしいという願いをエリック・カールはこの本にこめた、そう私は思うのです。
おはなし
秋になれば植物は実りを結晶させて種をつくり、次の世代に託します。主人公の「ちいさいタネ」は仲間とともに風に乗って旅立ちました。
旅立った時には、仲間はそれは大勢いました。
「とびだした たくさんのタネのなかに、とくべつ ちいさい タネがひとつ」
それがこのお話の主人公「ちいさいタネ」でした。
旅は過酷でした。高く飛びすぎて太陽の熱で燃えてしまう者、力尽きて氷の山に落ちてしまう者、長い旅の間にさまざまな障害の犠牲になって芽吹くことを阻まれる多くのタネのなかにあって、「ちいさいタネ」はがんばって飛び続けます。
でも「ちいさいタネ」はとくべつ小さいのです。みんなほど体力がありません。おしまいの方は低空飛行を余儀なくされます。それでもがんばってついていきました。
そしてなんとかみんなと新しい土地に着地することができたのです。でもそれで安心かというとそうでもありません。落ちた場所によっては、ちゃんと育つことができなかったり、踏みつけられたり。
「ちいさいタネ」はどうなった?
幸も不幸も見方しだい
不公平は、そのまま幸不幸に直結するわけではありません。自分の置かれた状況をどう受け止めるかによって、その後の展開は180度変わってきます。
恵まれた環境に甘えて、それで自分は偉いなどと錯覚すると、鼻つまみ者になります。恵まれた環境が不幸な人生を導くことだってたくさんあります。
逆境に負けて投げやりになれば、人生は堕ちていくしかありません。死んでしまえばそこで終わりです。でも深く考え、前進していこうという意思をもてば、人の痛みがわかる人になり、哲学や芸術といった人間の真実にたどりつける道もみつけるかもしれません。
みなさま、そしてあなたの大切な人へ。
人生を大輪の花に。
『ちいさいタネ』
エリック・カール/作
ゆあさ ふみえ/訳
偕成社
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