幼児の絵本
幼児にとっての絵本について
絵本は子どものためだけのものでしょうか? そんなことはありません。絵本の可能性は高く、幼児にも、幼稚園児・小学生にも、おとなにだって絵本はさまざまな顔を見せてくれます。幼ないころにお母さんやお父さんに読んでもらった絵本をおとなになって読み返してみて、まったく新しいことやその深い意味を発見することもあります。
そんな絵本ですが、年齢によって絵本から受け取るものは違います。今回は幼児が見ている絵本の世界を考えてみたいと思います。
幼児が見ている世界
おとなになると、幼児のころはどんな世界をみていたかなあと考えても、ほとんど思い出すことはないでしょう。いまは想像するしかなさそうですね。
生まれたばかりの赤ちゃんが見る世界は、すべてが見知らぬものでしょう。毎日が発見の連続です。ティッシュの箱を見つける。そこで上に出ている紙をくわえてみたら味はなく、すぐに破れて舌にくっついてしまった。一枚引っ張り出したら次つぎと別の紙が出てくる。こいつはおもしろいとどんどん引っ張り出してくると、お母さんの「きゃー」という悲鳴が聞こえる。毎日が冒険の連続です。
そんな冒険の日々のなかで、絶対に自分を守ってくれる神様は、お母さんやお父さんだと赤ちゃんは思うでしょう。なぜって、自分のコミュニケーションの手段は手足の動きと笑顔と泣き声だけですが、お母さんとお父さんはそれが何を意味しているかを考えてくれて、望むことをしてくれる人たちなのですから。
もちろんそれが望んでいないことのときもありますが、そんなときは赤ちゃんはいやいやをして、通じるまでなんとか気持ちを伝えようとします。赤ちゃんは究極の自己チューなので、相手が忙しかろうが別のことで一生懸命であろうが関係ありません。何でも聞いてくれる神様。お母さん、お父さん。
そしてお母さんやお父さんが自分にむけて投げかけてくれる声は、神様の声なのです。
絵本は神様が見せてくれる現実
ゆったりした時間のなかで、お母さんが絵本を読みきかせをしてくれるとき、幼児はこの絵本を知らない人が書いたおはなしだとは思いません。神様であるお母さんが、楽しかったりドキドキしたりする現実を見せてくれていると思います。
夜、だんだん眠くなってくる時間にお父さんが話してくれる物語は、夢の世界へと続く冒険です。幼児にとって物語は、自分が主人公になっていろんな世界に出かけていき、そこで得られる体験にほかなりません。
でも、ちょっと待ってください。保護者が語ることばは神様のことばであり、繰り広げられる物語は幼児の体験になるとしても、そもそも幼児にとっては、最初に出会うことば自体が見知らぬ世界ですよね。ことばがわからなければ、物語もわからないということになってしまいます。
幼児にとっての絵本の役割はここにあります。ことばと物語とのかけ橋です。知らないことばが出てきても、幼児は絵を見ることでストーリィを読みとることができるのです。
「幼児と絵との関係は、まずその絵からストーリーをくみとることにある。子どもは、自分では読むことのできない物語を、その絵が語ってくれることを要求する」(リリアン・H・スミス著『児童文学論』)
神様の声である保護者の声と、絵本の絵による物語へのいざないによって、幼児は物語を「体験」するのです。
絵本の絵
人間が物事を理解する力はさまざまです。幼児にとっての絵本の絵に対する理解は、個人差はありますが、おとなが絵を鑑賞する態度とは違います。
おとなは美しい配色だとか、構図がいいとか、審美的な目で絵を見ますが、幼児にとってはまず、その絵がおはなしの内容を伝えてくれるものでなければなりません。絵が的確にストーリィを表しているものであれば、白黒であろうが下手な絵であろうが、その絵を好きになります。
ある一定の年齢の人ならばわかると思いますが、テレビが白黒であった時代の漫画は、白黒だったからおもしろくなかったとは思わないでしょう。思い返してみて「カラーではなかったのか?」といぶかることも珍しくありません。初期型のファミリーコンピューターを知っている人は、マリオがガタガタの絵だとしても、今のゲームと比べて劣るとは思わないでしょう。絵本の絵が物語を表していればどんなものでも、幼児はおはなしを楽しめます。
でも、またまたちょっと待ってください。幼児にとって、絵本に繰り広げられる物語は実体験と同じです。ということは、見ている絵、ことばのリズム、おはなしの内容といったものも「実体験」され、心の奥底にある無意識の領域に記録されます。大きくなって、意識しなくても「これは好き、これは嫌い」という判断の基準になってくるのです。
いい絵本とかよくない絵本とかいう価値判断は、私にはわかりませんが、少なくとも幼児の頃に触れた絵本が、その後の子どもの人生に大きく影響することは間違いないでしょう。どのように育ってもらいたいかを考えながら絵本を選ぶことは大事なことのように思えます。どんなふうに絵本を選び、どう与えていくのかは、今後のこのnoteでも、考えていきたいと思います。
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