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さよなら 大好きだったバーニンガムさん――『パイロット マイルズ』ジョン・バーニンガム
ジョン・バーニンガム様
2022年2月6日、あなたの遺稿に出会いました。
2019年1月4日に地球に別れを告げたあなたの、この絵本をこのときまで見逃していました。申し訳ありません。
あなたが日本に来られたとき、ほんの短い時間でしたが、福岡の街をご案内できたことは幸せなことでした。寡黙だけれど時おり発する言葉が深くて、心に染み込むようでした。
疲れた足を休めようと入った喫茶店で、緑茶の緑に見入られたあなたは、この緑色を絵に使いたいとおっしゃっていましたね。どんなときでも絵を忘れない芸術家の気構えを思いました。
この絵本の冒頭、奥様のヘレン・オクセンバリーさんが、この絵本を制作するときのことを書いておられます。ご病気のため絵本を完成させることができないことを悟られたあなたは、奥様に後を託されましたね。奥様はあなたの思いを立派に引き継いで、余韻の残るすばらしい絵本に仕上げて私たちに届けてくださいました。この絵本を世に出してくださった方々に感謝申し上げます。
今は天国で、地上では見ることのできない色に接し、新しい作品作りを続けておられるのでしょうか。
合掌
ジョンの最愛の妻ヘレンのことば
マイルズ やっかいな我が家の愛犬
私の夫のジョンは、やっかいな我が家の愛犬、ラッセルテリアのお話を2篇書きました。最初のが「ドライバーマイルズ」で、もう1篇この「パイロットマイルズ」を構想しているうちにジョンは病気が重くなり、仕上げることは出来ないと悟って、私に仕上げてくれる気はないかと言いました。マイルズが死んだのはそのときでした。私は自分の参加が愛する一人と一匹への敬愛のしるしになると考えました。
「パイロットマイルズ」を絵にするのは、いろんな理由で簡単ではありませんでした。ジョンの旧友ビル・サラマンが、ジョンが話していた事を思い出せる限り思い出して書いてみようと申し出てくれました。ビルは美しい感動的なストーリーを書いてくれました。ジョンの描いたイラストも3点入っているし、見返しには小さいスケッチを使っています。
ヘレン・オクセンバリー 2021(『パイロットマイルズ』前文より)
あらすじ
マイルズは若い頃、元気よくボールを追いかけたり、ハディさんに車を作ってもらってドライブにでかけたりしていました。
しかし彼ももう年老いて、以前のようには動けません。ボールを投げても足が痛くてあるくことすらできないし、耳が遠くなったのか、声をかけても気づいてくれないこともあります。
なんとかマイルズを元気づけようとノーマン・トラッジは、お母さんといっしょに、おとなりのハディさんに相談に行きました。
ハディさんはそのとき、ちょうど飛行機を作っているところでした。機体は小さくて、コックピットはマイルズの体がぴったりはいるサイズです。
あるはれたひ、みんなでみちをわたって のはらにいって テスト飛行をしました。
エンジンは うなり、プロペラは かぜをきり、ひこうきは のはらを つっきって そらにうきました。
マイルズは、飛行から帰ってくるとぐったりと疲れます。でも回復すれば、また気ままにいろんなところへ飛んでいきます。
ところが、、、
やがて、散歩にも行かなくなり、食べ物もほしくなくなり、飛ぶこともやめてしまいました。
そんなある日、マイルズはよろめきながら部屋から出てきて、飛行機に乗り込んだのです。
息を吹き返すエンジン。
うなりをあげて空を目指す飛行機。
操縦する、紙面いっぱいに描かれたマイルズの勇姿。
マイルズは、大地をはるか下に見下ろして飛んでいきます。
「マイルズは とんだ、 これまでになく たかく。
マイルズは とんだ、これまでになく とおく。」
さよなら、マイルズ。
クレジット
『パイロットマイルズ』
ジョン・バーニンガム & ヘレン・オクセンバリー/絵
ビル・サラマン/文
谷川俊太郎/訳
BL出版
2021年9月15日 初版
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