あなたなら叱りますか?――『あさえとちいさいいいもうと』筒井 頼子 (著), 林 明子 (イラスト)
子どもをもつ親御さんなら、一度は経験するショッキングなできごと。いろいろありますが、子どもが迷子になってしまうこともそのひとつですね。
さっきまでそこにいたはずなのに、気づくといない。もし交通事故にあったら、悪い人に連れていかれたら、このまま行方不明になったらどうしよう……。たちまち不安は黒雲のように広がります。
私も、何度も経験いたしました。見つかったときには、それが奇跡ではないかと思うほど、不安と安堵のギャップは大きいものでした。
あらすじ
表紙。あさえちゃんが妹のあやちゃんに、くつをはかせています。あさえちゃんは世話好きな、とてもやさしいお姉ちゃんなのです。
扉。あさえちゃんが、家の玄関先ででひとり遊びをしています。
お母さんが、出てきて言いました。「あさえちゃん、おかあさん ぎんこうに いってくるわ。すぐ かえってくるから まっていてね」。
妹のあやちゃんは、家の中で眠っています。お母さんは、あやちゃんが起きる前に帰って来るからと、急いで出かけました。
ところが、お母さんのいない間に、あやちゃんは泣きながら起きてきたのです。あさえちゃんは、さっそくお姉さんぶりを発揮します。
「いっしょに しゅっぽ しゅっぽ、しましょ」と言いながら道にチョークでせんろを描きはじめると、あやちゃんも泣き止んでにこにこします。
あさえちゃんは、あやちゃんにうんとよろこんでもらいたかったので、ながい ながい せんろ、えき、やま、トンネル、とたくさん描きました。「ぜんぶ かくまで まちなさい」といいながら。
描き終わって顔を上げると、あやちゃんがいません。
遠くで「ききーっ!」と自転車のブレーキの音。まさかと思って、あさえちゃんはあわてて走り出します。
叱る(怒る)べきなのだろうか
私などはこの展開はドキドキします。妹に楽しんでもらおうと一生懸命やったことがとんでもないことを引き起こす、子どもならありがちなことです。もし何かあったら、本人に悪気はなく、むしろやさしさからした行動だったとしても、親としては思わず怒りの矛先をむけてしまうでしょう。
すると親は、怒りをぶつけた後て苦しむことになります。「姉を叱ったことはよかったのだろうか、それとも自分のストレスをぶつけただけなのではなかったのだろうか」と。
姉はもしかすると、とても傷つくかもしれません。「自分は一生懸命妹のめんどうをみたのに……」と。
反対に、親は何事もなかったように子どもに接することはできるでしょうか。
親は考えます。「これは下手をすると命に関わる問題だ。甘い顔をしていたら、危険に対して不感症になるかもしれない。ここは厳しくしなければ」と。
もしお子さんが感受性の強い子であれば、親に叱られなくても、「なんてことをしてしまったのだ」と怖くなっているでしょう。そこに親の叱責が加われば、「自分はダメな人間だ」と思って自己肯定感のもてない人生を歩むようになるかもしれません。
『あさえとちいさいいもうと』は、そんな親の迷いにひとつの答えを用意しています。それをそのままうけいれるのではなく、「あなたはどう思う?」と質問を投げかけているように思います。
いっぽう、この本を読みきかせしてもらっている子どもの思いも気になります。あさえちゃんの身に起こったことは十分自分の身にも起こりうることですし、その分あさえちゃんの気持ちに寄り添えるように思います。その時に起こる化学反応に、私はとても興味があります。
『あさえとちいさいいもうと』
筒井頼子/作 林 明子/絵
福音館書店《こどものとも》傑作集