勘三郎さんの分身ミッキー④カップルシリーズ・仇ゆめ
分身ミッキーシリーズ、4つ目です。
今回は「仇ゆめ」の狸と深雪太夫。カップルシリーズ、その2です。鰯売はバカップルですが、仇ゆめは悲恋。
狸の報われない愛、死にゆく姿に自身の愛の死を重ねる深雪太夫の深い共感と、それでも愛する人の腕の中で死ねる狸の幸福と叶わぬ深雪の孤独が深く染みる物語です。
毎回毎回、狸も深雪太夫も哀れで滂沱の私が、瀕死の狸が深雪太夫を訪ねてきた際の「狸どの…」で沸き起こる笑いに憤慨するのを勘三郎さんも同意してくれていたのを覚えています。
日本人の観客は直前の笑いに引きずられやすい、切り替えの下手な観客だなあ、とこの30年ほどの観劇経験からは思っていて、勘三郎さんとはこの「笑い」についてはよく話しました。
歌舞伎座で「刺青奇偶」をやっていたころに「演劇界」の三津五郎さんとの対談で「笑い」についても話したから楽しみにしててよ!と予告されたのですが、掲載時はカットされていた模様…どんな風に語ったのか、知りたかったところです。
閑話休題。
実は1〜3までは渡した時系列どおりなんですが(2004〜2005年)、これはちょっと時がジャンプします。
勘三郎さんの狸に久里子さんの深雪太夫だった、2008年の春暁巡業のときにお渡ししたもの。
久里子さんの深雪太夫が切なくてかわいくて、ミニー深雪太夫をお渡ししてほしかったんですよね。どうなったかはわかりませんが。
◎これまでのミッキー達
①黒足袋の十郎(助六所縁江戸桜、白酒売)
②ミッキーNYへ(夏祭浪花鑑)
③カップルシリーズ、猿源氏と蛍火(鰯売恋曳網)
◆
この巡業も3月だったので、またもやバレンタインミッキーがベースです。この頃には作り慣れて、実は自分のためにも一つ余分に作りました。その子は今でも手元にいます。
人間はこんな姿です。
狸(=舞の師匠に化けている)が緑の松葉の着付に桃色の羽織。松葉の着付は後半、瀕死になると黄色と茶色の枯松葉に変わる。美しい趣向ですね。
羽織の紋が、狸はなんと肉球という! これを作りたかったのですよねー。
縮緬で作った着付に帯。さすがに松葉柄は見つからず、巡業の季節に合わせて桜柄。
手のひらサイズなので結ぶとすごく不格好になったので、このときは苦渋のスナップです。貝の口に結んだものを留めてます。
我ながらこれはよく作ったと思うの!
紋はフェルトです。
完成形〜。
深雪太夫は、そのまんまは無理なのでイメージで。
ミニーのリボンは和柄の布で作り変えてます。
打ち掛け。
今回はなんと、袖まで裏がある! 袷の作り。
裾のふきの部分も本当は着物そのものを重ねてつくる厚みですが、裾だけ二重にしてそれらしく作りました。
雪持ち笹の刺繍は無理なのでフェルトで。
帯は作り帯に。
打ち掛けの裏側。
遊女独特の襟の返しの部分は試行錯誤しました…だいぶむりやり。
完成形ー。
後ろから。
綺麗にツーショットを撮っておけばよかった…んですが、このときはそういう考えが全くなくて、作業台でばかり撮っています(笑)
どこまでも勘三郎さんにあげるためだけのものだったからなー。
最初に持っていたハートクッションを元通り手に縫い付けてお渡ししました。
今、我が家で暮らす狸どの。
せっかちなので同じものを2個作る(同じ作業を繰り返す)のがすごく苦痛で、自分のために作ったのは2つくらいしかないのです。そのひとつです。
久里子さんの深雪太夫は確かこのときが最後かな…次の2010年の文京シビックでは七之助さんが深雪太夫でしたよね。
そして、あの突発性難聴直前の2010年12月、金沢歌劇座での上演が、勘三郎さん最後の「仇ゆめ」でした。
寒い金沢の冬の空気、ありありとエネルギー不足を感じる勘三郎さんの顔色。三階さん達の案じる表情。淋しく思い出します。
もう一度、元気な勘三郎さんの狸に逢いたかったなあ。
勘九郎さんが引き継いでいってくれると思いますが、小俣踊りの狂乱にも近いバカバカしさ(歌舞伎座ではラテンでしたからねえ)から、村人達に退治されて瀕死になったあとの悲愴への急激な落差は勘三郎さんならではであったように思います。