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十八代目中村勘三郎丈というひと。

十八代目中村勘三郎。
昭和平成を駆け抜けて生きた歌舞伎役者。

2021年現在である程度の年齢の方…40代以上なら特に、歌舞伎を見たことはなくても「勘九郎さん」としてよくご存知のかたも多いのではないかと思う。
大河ドラマ「元禄繚乱」の主演、紅白歌合戦の司会、大竹しのぶや笑福亭鶴瓶との深い交流、まあたまには醜聞も含めて、華やかな話題に事欠かない人だった。
小さい頃から「勘九郎坊や」としてテレビ、映画、歌舞伎で活躍し、以降亡くなるまで八面六臂、まさに大車輪の勢いで特に舞台に命を燃やし、老境を迎える前に逝ってしまった。

そんな方との出逢いについては以前、こんなnote.を書いたことがある。

一通の手紙がすべての始まり…なのだが、その後、中村屋ときちんと交流が持てるようになるにはその後、しばらくかかった。

中村屋の中で私という人間がガチンと記憶にハマったのはいつ頃なのだろう。それは中村屋にしかわかりようがないが、気になって「いつ一致したんですか」と聴いてみたことがある。それにははっきりとした答えはなかったが、最初の手紙のことは10年近く経っていたが覚えていらした。

「あのときさ、貴女、試演会の感想を書いてくれたでしょ。お弟子さんたちのこと。あれがすごく嬉しかったんだよ」

そう笑ってらした。

何度か、中村屋を大きく感激させたことが私にはあるのだが(その話はまたいずれ…)、その感激の理由はいつも、自分の舞台の感想や役の工夫のことではなく、人のことだった。

脇役にいたるまで、すべての出演者のこと。
警備員さんやお茶子さん、係員のこと。
お弟子さんたちのこと。

そこに目を配られると大感激して、大きな声で「ありがとう!ありがとね!」と繰り返し御礼を言ってくれた。

平成中村座、2012年5月、十八代目存命中最後の試演会。
縁があってゲネプロを見せていただいたのだが、稽古終わりに歌女之丞さんの手を握りながら、みんなほんとにここまでよくやってこられたね、よかった、よかった、とボロボロと泣いた。
歌女之丞さんもひどく驚いてらしたし、拝見していたこちらもなぜそこまで、と思うほどの涙だった。

そういう人だった。

怒りっぽかった。
熱すぎるきらいもあった。
せっかちだった。
人の好みがはっきりしていて嫌いな人のことはくそみそに言うようなところもあった。けして「できた人」ではなかった。

でも何より、人が好きで、人を喜ばせたり驚かせたりするのが好きで、人が輝くのを助けるのが好きだった。
そういう優しさを持った人だった。

私は1ファンでしかなく、身内の人間ではない。
中村屋と話した総時間はファンをしていた12年間でも多分、100時間にも満たないと思う。
そんな私が何を言えるかな、とも思うのだが、また逆に、私のような利害関係のない人間だからこそ中村屋が聴かせてくれた想いや言葉はあったと思う。
中村屋との思い出は、中村屋にとっては「公私の狭間」のような時間だったので、これまでぽつりぽつりとSNSにこぼすように書いてはきているがが、改めて書き残したことはない。
しかし、中村屋の急逝から丸8年。あと7年もすると自分も中村屋の享年に辿り着いてしまうことに気づき、昨年のCOVID19禍の中でいつ自分の命も終わるともしれないことを考えると、あのたくさんもらった言葉、舞台にかける想い、人にかける想いを私とともに消してしまうのはあまりに淋しい、と不意に思った。

年月が経って思い起こすにも当時の資料を確かめながらでないと難しいため、それほど頻繁にではないが、このCOVID19禍で「おうち時間」ができたのを幸い、少しずつ書き起こしていこうと思う。

ゆっくりとあの笑顔を偲びながら。

なお、私は何か約束して旦那に逢ったことは、全くとは言わないが、皆無に等しい。楽屋に伺ったのも数えられる回数だけ、ほとんどが楽屋に向かわれる途中やお帰りの時だった。そんな時でもきちんと接してくださる人だった。まあいわゆる出待ちというやつなわけだが、それを嫌がる方も多い中、あの方はそこも一つの仕事場だと考えてらしたのだろうと思う。
なにしろ、ファンからの手紙を受け取るときにあんなに楽しそうな役者、なかなかいない。いつも観客が満足してるかを知りたがっていた。

「正直な声」に餓えていたと思う。

手放しで出待ち行為を推奨するつもりはない(基本的には迷惑行為だと思う)。私の場合は相手が中村勘三郎だった、それが僥倖だっただけだ。
そんな前提でお付き合いくだされたく。

※今後、不定期に更新します。

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うのじ。
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