【イベントレポート】2045年のパースペクティブin小浜(1日目の2)
長崎県小浜市で6月中旬に開催されたイベント「2045年のパースペクティブ」(1日目の1はこちら)。だいぶお待たせしちゃいました!もう夏真っ盛りですね。暑さに負けないくらい熱かった1日目の後半セッション「まちなかの賑わいづくり」と「交流人口の拡大」をレポートします!
まず「長崎市の景観施策にみる歴史的建造物の保存・活用」をテーマに話したのは、平山広孝さん(長崎市景観推進室)。市民の歴史的建造物に関する保存運動について活動を振り返り、保存や活用方法について説明しました。
長崎市には、明治期末に旧居留地や旧市街など各所に計800棟近く洋館があったそうですが、昭和30~40年代から次々と姿を消していきました。そんな状況に危機感を抱いた洋館愛好者らが「長崎の洋館研究保存会」として発足し、洋館活用の重要性を発信していきました。
そんな中、87年に旧香港上海銀行長崎支店などの解体計画が持ち上がりました。同保存会はすぐに、同支店の保存活用の署名活動を開始。1万超の署名を集め、当時の本島等市長に保存を訴えました。ですが、市側は計画の変更を拒否。同保存会は、保存活用の条例制定を求める直接請求へと動き出し、最終的に約10万1500人分を集めました。この一連の運動で、解体計画は撤回。長崎では景観のマネージメントが構築されていき、景観重要建造物等の指定は進んでいきました。
ですが近年、長崎の街並みを構成していた小規模な町家で、指定は受けていない建物が、事業継続の厳しさのため滅失することが加速しています。さらに、指定物件ですらデベロッパーに売却する例も出てきたそうです。
平山さんは「ふるさと納税や民間ファンドの整備などして、関心ある市民らが、きちんと支援できる仕組みが必要。さらに、まちづくりの目線を持った不動産が重要になる」と提案しました。
次に、チョープロの森恭平さんが「歴史的資産と中心市街地再生」と題して、長崎市中心部の都市計画の現状や、県庁跡地や第3別館がある江戸町地区のまちづくりについて話しました。
江戸町には、江戸時代に長崎奉行所が置かれていた県庁跡地があります。この跡地に長崎市の文化芸術ホール建設が計画されていたため、旧庁舎を解体した後の2018年10月~19年1月に敷地全域を調査。西側の長崎奉行所遺構が見つかりました。これを受け、長崎市はホール建設を断念。今年6月からは跡地南側の区域に埋まっている石垣の遺構を掘り出す作業が本格化しています。
「あの場所をどうするかはまだ決まっていないから、どう活用するか提案するチャンス。こんなに歴史の層があるところはない」。そう森さんは強く語ります。「100年、200年の歴史は買うことができない。(県庁跡地利用について)長崎県、市の動向が、今後の長崎のブランディングの鍵になる」。現在、県庁跡地にある真っ白な仮囲いに、まちの昔の写真といった地域のアーカイブを掲示できるよう模索しているそうです。
1923年に長崎警察署として建設され、2018年に閉鎖された第3別館についても、活用策は決まっていないため、周辺を掃除する取り組みも始めています。将来、最先端のベンチャー企業を誘致し、インキュベーションの場所にしたいとの考えを紹介しました。「街の資産を使って、街を活性化していく。歴史的建物を良い意味で遊ぶことが必要になり、それが、長崎の魅力につながっていく」
「ウォーカブルの魅力」と題して話したのは、長崎県庁に勤務する牧田悠依さん。居心地がよく歩きたくなるまちを目指すことを提言しました。
「ウォーカブルシティ」は、国交省が提唱。少子化が進む現代、イノベーションを創出するには偶然の出会いを生み出すのがこの構想だそう。実は昨年、ウォーカブルシティ推進都市に長崎市が加盟しました。
長崎は「天然のコンパクトシティ」とも言われます。すでに、長崎さるくなどがあり、ウォーカブルを実践している都市でもあります。
そんな中でも、牧さんがウォーカブルを実現したい場所は、旧県庁から市役所まで続いていた市役所通り国道34号線。なぜなら、県庁が江戸町から尾上町に移設したことで、この国道は「『官庁通り』から『文化的な通り』に意味が変容した」と解説します。加えて、近年の長崎駅の再開発に当たり、市街地の重心が長崎駅寄りになってきたと感じるため「新市街的な駅前と旧市街地的な中央橋をつなぐ道として、この国道の役割は重要」と語りました。この国道の車線を廃止し、歩けるようにすれば、イノベーションが起きると提案しました。
発表後には平山さん、森さん、牧さんの3人によるディスカッションがありました。
(司会・岩本)会場から質問があったが、結構、歴史的建造物が知らない間になくなることが多い。市民が関心が無くて知らないのか、情報がそもそも出ていないのか。
(平山)壊すという話は水面下でやっている。売買の話になるから表に出ない。実は残せるかもしれないけれど、所有者さんに寄り添える人がいない。残したい人も営業しないといけない。市は個人の所有物だから難しい。市の重要建造物でも個人の所有物には言いづらい。
(森)重要建造物にならなくても、街を構成する上で大切な建物もある。
(平山)ニュースにならない物件で、(壊される)予備軍がたくさんある。この背景にあるのは確実に高齢化。跡継ぎいないから、壊す。やめるのもすごく勇気がいる。守るのも、壊すのも苦しい。それを所有者さん一人で悩んでいるのは良くないな、と。
(岩本)たしかに所有者のものなんだけれど、みんなに愛されていたり、街のアイコンになっていたりする。
(牧)愛着のある建物が無くなってきて、さびしいなと思う。背景には金銭的な問題があると思っている。そんな中、一般社団法人未来基金ながさきが今年5月に設立。この団体は年間700億円もの休眠預金を市民団体の活動に配分していくそう。公益財団法人佐賀未来創造基金(佐賀県)がいい例で、休眠預金をまちづくりの活動に充てているらしい。
次のセッションは「交流人口の拡大」。ここでは観光分野の最前線で活躍している3人がプレゼンテーションしました。
「観光まちづくり」と題して話したのは、長崎国際観光コンベンション協会(長崎市版DMO)の坂井桂馬さん。今年4月に福岡市の広告代理店から「観光まちづくり」に挑戦するために転職してきた坂井さんは、長崎で取り組みたいことを語りました。
DMOは観光地をマーケティングし、マネジメントしていく組織。軸においているのは「つなぐ」こと。市民同士、市民と企業、観光客と長崎市などのつながりをつくり、訪れやすく、住みやすいまちを目指そうとしています。
ですが、長崎市は観光に関するデータやノウハウがないため、マーケティング戦略の土台がないのが現状。「観光客の移動データなどを集めると、もっと効果的なアプローチができる」と分析します。
アフターコロナの観光のキーワードは「開疎化」。一極集中で効率よく、快適だとされた空間から、非接触型で人があまり動かず、ものが物理的に動く社会になっていくと予想します。「長崎の観光スポットは一つ一つの素材はいいが、それが関連づけて結ばれていない。長崎の魅力を紡いでいきたい」と話しました。
2人目の発表者は、観光を専門とするフリーランスのMiyakoさん。「ウィズコロナとアフターコロナのインバウンド」と題して、これからの観光についての展望を語りました。
「withコロナの時代」の観光には「積極的な情報発信が必要」と語ります。観光地にいるような擬似体験ができる動画の発信や、オンライン体験(リモートツーリズム)を紹介。日本は安心、安全、清潔で選ばれ、個人客が増加し、知らない人同士ではなく、知っている人同士のプライベート、パーソナルなカスタマイズ体験が好まれると指摘。さらに感染症の問題を考えると、アウトドアやビーチのニーズが高まるとの見解を述べました。
さらに新型コロナの発生は、観光客が増えて地域住民の生活に支障を及ぼしてしまう「オーバーツーリズム」の問題を考えるきっかけになると期待。今後、1日1組限定などの高単価で高品質なツアーや体験が好まれると話しました。
「長崎は歴史も文化もある。語り手がいてこそ価値があるので、ガイドをつけてコンテンツストーリーとして伝える仕組みを整えることが重要」。外国人向けの長崎さるくの実施や、オーディオガイドなどを提案。さまざまな観光客を受け入れるためには、ベジタリアンやビーガン、ハラル対応の食事提供の課題も挙げました。
「ここから長崎」代表の大島徹也さんは、現在取り組んでいるプロジェクト「茂木まちごとホテル」について話しました。
現在、長崎市茂木町で「NAGASAKI HOUSE ぶらぶら」を経営している大島さん。昨年、まちづくり会社を設立しました。自分たちが住みたいまちをつくり、その延長線上に観光があるようなビジョンを抱いているそうです。
同社は、空き店舗をカフェや土産店などに再生する構想もあります。イタリアの伝統集落再生の試み「アルベルゴディフーゾ」をモデルとし、「地域まるごとホテル」を提唱。「まちを楽しんでもらい、暮らすように旅する。5年間で10件の空き家再生を目指す」と意気込みます。
そのスタートを切るのが、「ぶらぶら」に近い別の料亭跡を改修した宿泊施設「月と海」。12月のオープンに向けて準備を進めています。今後「ぶらぶら」は、長期滞在の場や多目的施設に変更予定。大島さんは「2045年は、橘湾を活用した海上交通の整備や、地域の歴史的建築物をオーベルジュとして活用し、長崎や諫早、島原、天草の広域連携による取り組みをしたい。いろいろとチャレンジしたい」と語りました。
坂井さん、Miyakoさん、大島さんの3人によるディスカッションがありました。
(司会・森)新型コロナの影響で観光のあり方が変化していくと思う。それに対して、長崎はどのように対応すべきか。
(坂井)新型コロナの感染者がゼロになることはない。宿泊施設ではもちろん、感染をさせないような取り組みをして、対策を実施していることを丁寧に発信していくことが大事。
(大島)現場としては、きていただきたいけれど、まだどうしたらいいかわからない悩みがある。そもそも地域の人は、外から人がくること自体が不安で、どうやってその不安が解消されるのか。外国の人は接すれば楽しい。なので、接点を増やせるように、地域の人には丁寧に伝えたい。
(M)(その不安を解消するには)間でつないでくれるガイドの存在があればいいと思う。そうすれば地域の人の気持ちもわかるし、外国人の気持ちもわかる。間に入って、ファシリテーターのような感じで、お互いの立場でものを考えられたらいい。
2日目に続く…。
写真・さおりん