【バトンインタビュー長崎市編① 】旅人とまちを繋ぐアルマスゲストハウスオーナー 瀬川たかこさん
どのように「まち」を自分ごととして捉え、何に価値を見出して取り組んでいるのだろうー。そんな疑問を、長崎と佐世保を中心に信念を持って活動する人にぶつけ、価値観を探るバトンインタビュー。第1回目は、長崎・出島の側で、ゲストハウスを営む瀬川たかこさん。旅人が「また来たい」と思わせ、出島と旅人を繋げる仕掛けをつくっている。
▲アルマスゲストハウス提供
「おー、いらっしゃい」。出島表門橋の側にある薄ピンク色のビルを4階まで登ると、瀬川さんが満面の笑みで迎え入れてくれた。角部屋のフロントからは、なんと出島がくっきり見える。この景色を見るために、宿泊する人もいるとか。確かに、出島表門橋を含め出島を見下ろすことができる眺めは、出島の新しい“表情”を楽しめそうだ。
もともと五島市でゲストハウス 「雨通宿」の運営に携わっていたが、新たな宿づくりに挑戦したいと2017年4月に長崎市に移住。居留地があった東山手町の古民家を民泊として運営しつつ、開業場所を探していた。たまたま知り合いから現在の場所を紹介され、窓から出島が見える風景に一目惚れ。加えて、居留地での宿の経験が、出島へとつながる意味があるような気がした。「日本は、ここがきっかけで近代化へ発展した。この場所で開業したい」。そう強く思い、急ピッチで準備を進めた。
2019年8月にオープン。出島に近い宿として注目され、旅人はもちろんのこと、地元の人も訪れたり、まちづくりのイベントにもスピーカーとして呼ばれたりした。「いろんなつながりが出来たことは嬉しいけれど、いつも考えていた。自分はまちに何ができるだろう、って」
そんな疑問を解消してくれたのは、世界中から訪れる宿泊客たちとの出会いだった。
チェックアウト後の1時間だけおしゃべりできたアメリカ人男性が、瀬川さんのキーボードでジャズを弾いてくれたこと。オランダから来た旅人たちと、歓楽街の思案橋に飲みに行き、「あなたのホスピタリティに感謝している」と話してくれたこと。スペイン人のご婦人と人生について語り合ったこと。さまざまな人との触れ合いで、徐々に自分とまちとの関わりが見えてきた。「世界中から来るゲスト一人一人に声をかけ、仲良くなって、もう一度長崎に来てもらう。小さいことだけれど、それが自分のやるべきことなのかな」
近頃は、セルフチェックインが増え、人と関わらなくても宿泊できる場所は増えた。「それだと、旅はちょっと寂しい。せっかくならゲストに旅先で、人と触れる楽しさを知ってほしい」との思いで、旅人たちに瀬川さんのおすすめスポットを教えちゃうらしい。
▲出島表門橋公園を見つめる瀬川さん
▼瀬川さんの妄想図
瀬川さんの「まちが、こうなったらいいな」という妄想は、アルマスゲストハウスの目の前にある「出島表門橋公園」が、人で溢れる賑やかな場所になっていること。公園で、昼寝してもよし、本を読んでもよし、恋人とおしゃべりしてもよし。そして、世界各国からゲストハウスに集まった旅人たちが、ゲストハウスの窓から公園にいる人々に向かって「おーい」と手を振りながら交流する。「まちが、リアル『ウオーリーをさがせ!』みたいなイメージになったらいいね」。楽しそうな場面を思い描く瀬川さんは、キラキラ輝いていた。
【店舗情報】
◎住所 :長崎県長崎市江戸町2ー28 リバーガーデンEDO4F
◎チェックイン時間:午後3時〜午後9時
◎連絡先 :090ー9599ー9220
【編集後期】
実は瀬川さんとシェアハウスに半年間、一緒に住んでいた。「ゲストハウスをつくりたい」という思いは知っていたけれど、こんなに熱意があるなんて、取材して初めて知った。
そして、ゲストハウスを「アルマス」と名付けた理由について、本文で書ききれなかったので、ここで紹介したい。瀬川さんは2011年ごろ、五島市で家業の布団屋を手伝っていたとき、ALTとして五島の学校に勤務していたイギリス人女性のアルマスさんと出会った。仲良くなっていくうちに、過剰に気を使わずに自然体で生きることを教わったという。
アルマスさんと出会ったことがきっかけで、自然体を受け入れる場所をつくりたいと、ゲストハウス「雨通宿」の開設に踏み切ったというのだ。現在、アルマスさんはイギリスに帰国してしまったが、瀬川さんが出島のゲストハウスを彼女の名前でつくったことを伝えると、感動していたという。2人が再会できる日が待ち遠しい。その際は私もアルマスさんにお会いしたいなぁ。
文:こけ 写真:さおりん 挿絵:みねっち