【バトンインタビュー長崎市編③】まちの「らしさ」を大切にする カリオモンズコーヒーロースター代表 伊藤寛之さん
どのように「まち」を自分ごととして捉え、何に価値を見出して取り組んでいるのだろうー。そんな疑問を、長崎や佐世保を中心に信念を持って活動する人にぶつけ、価値観を探るバトンインタビュー。
長崎市編第3回目は、カリオモンズコーヒーロースター代表の伊藤寛之さん。現在は、西彼時津町と長崎市に2店舗を構えている。住民や観光客と関わり、日々店頭に立つ伊藤さんは、長崎の環境資源にポテンシャルを見出し、「そのまちらしさ」を大切にしてお店をつくっていた。
長崎市樺島町の路地にある長崎店。白色を基調とする店内に、コーヒーのいい香りが広がっている。豆は、ニカラグア、エルサルバトル、ホンジュラスなどさまざま。信頼関係を築いた農家さんから仕入れている。こだわりの一杯を店内で味わって飲む時間は、日常に特別感を与えてくれる。
そんな素敵な空間を生み出したのは、長崎県雲仙市出身の伊藤さん。高校まで雲仙市小浜町で過ごし、18歳の時に長崎市に移住。市内のカフェでアルバイトし、コーヒーと出会った。気が付くと、淹れ方や提供方法、味も店ごとに異なるコーヒーにのめり込んでいた。
起業を決意し、2009年に西彼時津町のパン屋さんの駐車場を借り、小さな移動カフェを立ち上げた。半年間で、移動カフェで稼げる限界も見え始めた。「家族を養えない。なんとか次の手を打たねば」。そう思っていた矢先、新聞の折り込みで石材の加工工場が賃貸物件になっていたのを見つけた。一目見て気に入り、大家さんに交渉。広いスペースに、手作りのカウンターと移動カフェの車だけを置いた店舗型を2010年に始めた。
一人また一人とスタッフの人数も増え、店が軌道に乗ると、2016年夏に時津町から離れた大村市に展開し、2店舗目をつくった。戦略的な事業拡大により、売り上げは良かった。だが、伊藤さんをはじめ、スタッフたちはモヤモヤした気持ちを抱えていた。
背景には、スタッフ全員が大村に暮らしていなかったことがある。仕事が終われば、すぐに長崎や時津の自宅に帰る。食事も大村で十分にできていない。大村が「働くだけの場所」になっていて、満足に大村に貢献できていないと感じた。
その構図は「県外から進出してきた大型ショッピングモールと同じ」。長崎県は、都会と比べて人口は少なく、地形が複雑で、自然が豊か。そんな地域に例えば、馴染みのない大きなショッピングモールができるとする。それは、その「まちらしさ」を考えずに、身勝手に「らしさ」壊しているのではないかー。そう考えた。
「まちに寄り添ったお店をつくりたい」と確信。3年半で大村店の閉店を決め、2020年4月にスタッフの一部が暮らす長崎店に移転することになった。
店舗経営の経験を通して、見えてきたまちづくり。長崎県は、観光に力を入れているが、観光客が見たいのは、そのまちに息づいている人たちの「営み」ではないかと考えるように。
実際、伊藤さんたちの活動に真っ先に反応するのは県外の人たちだ。「長崎には、カリオモンズコーヒーがある」と関心を引ければ、人は訪ねてくる。消費に来るのではなく、営みを見に来るのだ。
「そこに、そこらしく、生き続けるだけでいい」と伊藤さん。斜面地で暮らす人、魚を釣って新鮮な魚を食べられること…。ただ営みを続けているだけで、よその人からは十分魅力的に写る。どこのまちも、画一的な都会化で、雰囲気やにおいが同じになってきた。だからこそ、立地や環境をいろんな条件や制約というのを生かし、生きてれば「そこらしさ」は絶対に出ると信じている。
そんな伊藤さんの妄想図は、「長崎の豊かな環境資源を生かした循環型のコミュニティの実現」だ。エネルギーも、人間も、社会も。「まちの人も、行政も、住民の営みにもっと興味を持ってほしい」と指摘する。買って終わり、食べて終わりな行為よりも、ローカルな人たちに重点を置いた未来をつくることを提案している。
例えば、ごみの問題。コーヒーで淹れた後に出た「出し殻」は、使い道を見つけきれていないから捨てている。それを素材として使ったり、土に混ぜて野菜を作ったり、ごみになるポイントをずらすことで資源の削減になるという。
現在は、アパレルや大学などと連携し、ショップバックのリユースプロジェクトを進めている。「コーヒーショップだけど、仕組みづくりの提案を中心となってしていきたい」と意気込む。「長崎が、資源を大切にできる先進地になったらいい」。資源を生かしたまちづくりができれば全国的に、世界的に関心を集めると考えている。
「コーヒーを通じて、いろんな発信をし続けて、その中で引っ掛かった人が行動してくれたら」。まちに根差すコーヒー店で、長崎の未来を考えると、より魅力的なまちになる可能性を信じたくなった。
【店舗情報】
カリオモンズコーヒーロースター 時津店
長崎県西彼杵郡時津町左底郷297-3
TEL・FAX: 095-870-7447
営業時間:月・水・木・金(12:00〜18:00)、土・日(10:00〜18:00)
カリオモンズコーヒーロースター 長崎店
長崎県長崎市樺島町2-11 造船組合ビル1F
TEL・FAX: 095-870-3140
営業時間:月・火・水・金・土・日(12:00〜19:00)
【編集後記】
「長崎には何もないと感じたことはありますか」。UNNYAのテーマであるこの疑問を伊藤さんにぶつけてみた。「いや、ありすぎているよ」と即答。意外にも、伊藤さんは県外に出て暮らしたことはなかった。色んな町や国を見る機会を通じて、長崎が持つポテンシャルに気付き、確信に変わったという。
伊藤さんと話していると、自分は「ないものねだり」を学生時代にしていたと思った。一度は、東京・六本木の某有名カフェでアルバイトしたい。そんな夢を抱いていた。それは、長崎にはない刺激だったからだ。(めっちゃ浅はか…)
経験やあこがれは悪いことではない。だけど、「長崎にはないから」という理由だけでいろんなことを選んでいた学生時代の自分は、もったいなかったと思った。そのまちの個性を見詰めないまま、過ごしていた。
だから今、長崎県内の「らしさ」を見つめ直している。一人一人の話に耳を傾け、記事にまとめて、発信する。「ないものねだりではなく、あるものに気付こう」。そんなメッセージをいろんな人に届けたい。自戒も込めて。
文・こけ
写真・さおりん
挿絵・hoNika