【バトンインタビュー佐世保編③】「弱いつながり」の場を創造する「させぼの読書会」主宰 稗田憲太郎さん
どのように「まち」を自分事として捉え、何に価値を見出して取り組んでいるのだろう―。そんな疑問を長崎や佐世保を中心に活動する人にぶつけ、価値感を探るバトンインタビュー。
佐世保市編第3回目は、「させぼの読書会」主宰の稗田憲太郎さん。第2回で登場していただいた「桃源郷」さんからのご紹介。
稗田さんは、読んだ本を紹介し合う交流会を佐世保市内で定期的に開いている(現在は新型コロナの影響で休止中)。読み終わった後に感じる余韻や物語の面白さを誰かに共有することで、さらに知的好奇心が刺激される。そんな場をつくる上で大切にしてきたことは、偶然の発見や出会いを生み出しやすい「弱いつながり」だった。
3月の、まだ肌寒いある日。「今日は、いろいろ話せるように本を持ってきました」。稗田さんははにかんで、トートバックから6冊ほど取り出した。分厚い本や、コーヒーが染み込んだ本まで。「読書会始める前までは、読書家ではなかったです。漫画ばっかり読んでました」
佐世保市出身。高校まで佐世保で過ごし、福岡の大学へ。読書会との出会いは、社会人になって働き始めた2014年のとき。とあるラジオ番組の中で、「福岡で読書会やってます」とのお便りが読まれた。これまで、本の感想を共有する場は身近にはなかった。「行ってみるか」。軽い気持ちで、その読書会に参加することにした。
会場は、博多にある全国チェーンカフェ。土曜日のお昼ごろ、30代前後の男女約20人が持ち寄った本を片手に、思い思いに語っていた。「知らない本に出合うし、人に会うのが心地良いな」。そう思い、会場に何度か足を運ぶようになった。
16年に佐世保にUターン。この頃、東浩紀著「弱いつながり 検索ワードを探す旅」(幻冬舎)を読んでいた。同書には、仲が良くて深い関係性だと、「偶然」が生まれにくいこと。たまたま、パーティーなどで言葉を交わしたぐらいの関係性の「弱いつながり」のほうが、人生を豊かにすること…などが綴られていた。確かに、自分の興味の延長線上で本を読んだり、音楽を聴いたりすることが多いと思う。でも、自分のカテゴリーの枠外から、知るよしもしなかった情報がたまに入ると、豊かになったり、ともすれば人生を変えたりする。「ああ、自分にとっては読書会がその役目だったんだ」。どこか腑に落ちた稗田さんは、佐世保で読書会を開くことを決意した。
会場は、稗田さん御用達の佐世保市下京町のバー「Romantic Blast」(ロマンティック ブラスト)で実施することに。平日午後8時。高校時代の友人を誘い、稗田さんも友人も知らない初対面の人との3人が初回を飾った。最初は時間を決めずに本を紹介し合っていたが、世間話や映画、音楽などの話題で盛り上がりすぎて日付をまたぐことも。月に1度、継続することで読書会の認知度も上がり、1回に最大20人が本を持ち寄ることもあった。これまでの参加人数は、なんと延べ約600人。今は毎月第2火曜午後8時~10時に開いている。
▼夜の読書会の様子(稗田さん提供)
佐世保のまちをよりワクワクする場にするには、どうしたらいいだろう?
稗田さんは、偶然が起きやすい「弱いつながり」の機会を今よりも増やすことを提案する。「田舎あるある」かもしれないが、同じ人に会って、同じことをずっとし続けがち。その状況を打破するのが、「弱いつながり」だと強調する。
例えば、あえて登録制でもなく、行きたい時に行ける読書会がそうだ。参加すると、意外な本や人に会う。平日夜にやっているのも、「明日の仕事が早い」とか「残業がある」とか、参加できない理由をつくりやすい。行けたら行く、くらいのゆるいつながりだけど、実は、面白い本を知っていたり、面白い企画をできる人に会うかもしれないー。思わぬ収穫がある「弱いつながり」の場があれば、日常がちょっと楽しくなったりして。
インターネットで簡単に本を買える時代になり、書店に行って「こんな本があるんだ」「これを探していた」といった発見がない暮らしになりつつある。「次世代の子どもたちが、自分の殻の中で、同じ思考ばかりになるのはもったいない。だからこそ、佐世保は『弱いつながり』ができる場が増えたらいい。もしかしたら人生を変える出来事に出会うかもしれないし、むしろ、そういうことが起きてほしい。それが『驚きがある町』につながるから」。そう、期待を込めた。
昨年から新型コロナの影響で、現在、読書会は活動中止に。オンラインでの開催も手だが、稗田さんはあくまでも対面にこだわる。それは、読書会を通して偶然の出会いを大切にしたいという、信念のような強い思いが垣間見えた。
【開催情報】
毎月第2火曜午後8時~10時
*現在、新型コロナの影響で活動中止。再開のお知らせは、「させぼの読書会」公式ラインで。
【本の紹介】
取材時に稗田さんが持ってきてくださった本を紹介します!
坂爪真吾著「性風俗のいびつな現場」(ちくま新書)
読書会の参加者が紹介してくれて、衝撃を受けた一冊。この翌月にこの本買いました、という人が多かった。
性産業がある種、貧困や、何かしら仕事ができない人のセーフティネットになっているという話。とある風俗店の経営者は、そういう人たちの一時的な駆け込み場所として会社を設立。従業員はそこで働いている間、別の職業を探してもらう。
そういう考え方もあるのかと知った。自分だったら、性産業の経営者がどんな人物かは調べない。経営者の胸の内を知れて、違う視点を与えられた。
山下直樹、浜田淳著「LIFE AT SLITS」(スペースシャワーネットワーク)
かつて、東京に「スリッツ」というライブハウスがあって、当時無名で、のちのちビッグになったミュージシャンが実はスリッツに通っていたよね、という話。そういう話、ぼく好きで。密接に誰かを知っているというよりかは、たまにふらっと行くという場から、物語は生まれる。
極楽(ミッドナイトトーキョー)著、稗田憲太郎編「起きてるうちに連絡をくれよ」
これはぼくが所属する3人組のバンド「ミッドナイトトーキョー」のエッセイ集。ボーカルが文章を書くのが好きな人間なので、CDだけ発売しても面白くない、ということになって、歌詞とリンクさせたエッセイ集を2019年2月に発売した。
大学時代にバンド活動にのめり込み、ライブの開催などを通して、「自分自身で何かをやろう」という自主性を身に付けた。ライブハウスで人と会ったりすることも面白かった。
自分はバンドで学んだことが多い。それが、ベースとなって読書会をやっていると思う。
【編集後記】
読書。それは、わたしにとってどんな存在なのだろう。ページをめくると、慰めの言葉をかけてくれたり、時には現実を突きつけられたりすることもある。でも、読み終わると、どこか冷静になり、自分を客観視できている気がする。それは読書でしか味わえない感覚だ。
取材を通して、自分の趣味嗜好で選書していたということに改めて気づいた。だからこそ、「弱いつながり」というワードはわたしの心に響いた。そして実は、普段の生活の中にも「弱いつながり」の機会は潜んでいるのかもしれない。
新型コロナが収束し、読書会が再開すればぜひ参加したい。自分の知らない、知るよしもない世界を求めて。
文・こけ
写真・さおりん
イラスト・hoNika