インタビュー Rulu-001 2023/08/02
「無名人インタビュー」以外のインタビューをしたくなって、違うインタビューをすることにしました。
テーマは、隔週でその人の話を聞く。(30分くらいで)
文字起こしも編集もインタビュアーが一人でする。
期間は、どれくらいするかわからない。3回かもしれないし。もっと長くするのかもしれない。
最初の方は https://note.com/rphoto さん。
SNSでモデルを募って写真を撮る方。気になった人はサイトを見てくださいね。
では、新しいインタビューという名の人間ツーリズムにようこそ。
まえがき:qbc(無名人インタビュー主催・作家)
冒頭
——これは、いつ撮影したものですか?
ええと、7月末ですね。
この方もTwitterでコンタクトをとって、その日に初めて会ったっていうことになりますね。
某所で会いました。
その土地自体、初めて行ったんですけど。
駅で持ち合わせて、喫茶店でお話をして。
思い出の場所に連れて行っていただくっていう企画なので。
——インタビューにかける時間はどれくらい?
だいたい1時間くらいお喋りしますね。きっちり枠組みは設定してなくて、目安なんですけど。
喫茶店で飲物を飲みながら、雑談のように。
ただ環境的に隣に人がいたりとかするので。
彼女の場合は喫茶店では本当に雑談をして。
結局、思い出のあるというホテルに移動してからもインタビューしました。
——駅で一目見て、すぐにその人だってわかったんですね。
はい。
お会いしたとき、黒いワンピースを着ていて。
小柄で、すぐにあの方だなってわかりました。
彼女、最近デザイナーさんにワンピースを作ってもらったという話をTwitterでしていて、そのワンピースの画像もアップされていたんですね。
待ち合わせのとき、わからないときもあるんですけど。
——撮影全体で、どんなことが印象に残っていますか?
初対面から撮影が終わるまでの間に、ちょっと、非言語的なものではあるんですけど。
その、言語的なインタビューから始まるんですけれども。
なんでしょう、気持ちの揺らぎみたいなものを、お互いに感じるような撮影でした。
ちょっと、抽象的ですかね。
——川の流れに例えたら? 激しい流れとか、そういうので。
穏やかな、ゆるい感じですね。
優しいとはまたちょっと違うんですけど、ゆるやかな流れで。
彼女のインタビュー。
内容、背景的なものは、結構ヘビー、重たい。
——はい。
ある種の虐待を受けていたっていうエピソードで、衝撃。
ひとつ重要なものではあったんですけど。
でも、撮影している時間っていうのは、穏やかですね。
そういった話から解放されるような。
撮影
——ホテルに入ってからは、具体的にどういう流れで進むんですか?
はい。
ホテルに入って、撮影の同意書をもらって、インタビューをして。
ある程度話したいこと話し終えたかな、みたいなタイミングで、撮りましょうかと言って。
その後は。
そのまま思い入れのあるワンピースで撮るのかなと思っていたんですけど、「準備しますね」って言って、彼女はすぐに着替えに行って。本当に何の装飾もない、特徴もないようなワンピースに着替えて。
ちょっと広めのビジネスホテルの部屋で、撮れる場所が限られていたから、窓際を使いましょうかって相談したりして。
それで、お願いしますと言って、撮影が始まりますね。
私は、撮影中に指示はなるべくしないようにしていて。
なので、ただそのまま撮る。気配を消して、シャッターを切る。
お互い声は、声は出さないですね、ほとんど。撮影が始まると。
彼女は彼女で自由に動いて、私はそれを自分のタイミングで切り取って。
——被写体の方は、ご自身でポーズが取れる方だったんですね。
うん。そう。動ける方でしたね。
とにかくずっと動いてましたね、ゆっくりゆっくり。
手なり、顔の向きなり。
私にこの角度で止まってって言れて止まるわけじゃなくて。
彼女がこれを聞いたら集中できるんですって言って、バッハの音楽をスマホでかけていて、それに合わせて、心地よい感じで、体をゆっくり動かしていました。
——撮られること自体は初めてではない方?
そうですね。
写真とか芸術、アートが好きて、今までも何回か撮ってもらったりしたことがある方です。
でもそのほとんどはやっぱり、顔を隠したものとか、ヌードが多いようです。
——何か、印象に残ったポーズはありましたか。
手を伸ばしていて。それが天井とか上の方だったり、ライトがある方だったり、私の方だったり。
手を伸ばすようなポーズは印象に残ってますね。
そういうときに、私の心が動いて、それでシャッターを切って、っていう感じです。
——シャッターを切る時は、どんな気持ちなんですか。
どんな気持ちなんだろう。
これはこうだからこうで、こうなんだなっていう論理的な思考にはなってなくって。
でもそれを見た瞬間に、何かを思って、ちょっと前のめりで撮るみたいな。
反射神経的な反応よりも、先に手が動いてるって感じで。
それが何を意味してるかわからないけど、でも何か重要だなって思って。撮った。
ただ、この人の深層心理的には。
例えば助けてもらえなかった幼少期が、助けを求めてるんだなとか。
そういうふうには思っていましたね。
——手を伸ばしてきた時に、こちらからも手を伸ばして、手を握り返そうとか、思わないんですか?
そこで、なんだろう。
フィジカルの接触というか。
何か、なんでしょうね。
押してしまうのは介入しすぎるんじゃないかなって思ってしまうんですよね。
「これは他の人に話したことはありません」って言われたんです。
撮影以外に接点がない、彼女の日常生活に関わらない、初対面だからこそ安心して話せるっていう枠組みがあるような気がするんですね。
撮影中の彼女の表現とか、身体を動かすっていうことについても……。
なんだろう。
ここは表現の中だから安全ですよっていう枠組みがそこにも必要だと思っていて、だから相手がすごく自由に表現するのはいいことだし、それがどんな表現であっても、窓から飛び降りようとしてるとか命の危険に関わるようなことでなければ、私は全肯定してシャッターを切るし。
役者さんにとっては舞台なのかもしれない。
写真の場合は、現実だけど多分現実とすこし違う空間。
だから、淡々とシャッターを切ります。
そこでは安全が保障されてないといけない。
——被写体の方は、どんな気持ちなんでしょうかね。
どんな気持ちなんでしょうね。
考えてない。
考えてないではないんですけど。
なんでしょう。なんでしょうね。
そのときの記憶がないみたいな感じ、があるのではないかなって思うんですね。
それはなぜかというと、休憩中とかに、どんな感じですかって聞かれて。
カメラを渡して見ていいですよってしたときに、こんなことしてたんですねとか、こんなに顔を向けていたんですねとか。
自分が考えてる姿とは結構違ったんだろうなっていう反応をされていたので。
——では、被写体の方には、こう写りたいというイメージがあったんですかね。
うん。
そうかもしれないです。
撮影前に、明確に「私はこれはNGです」っていうのがある方だったんですね。
他の方で言うと、特にNGはないですっていう人もいるし、あんまり撮られたことがないから、NGも何もちょっとよくわからないっていう方もいるし。
でも、なんだろう。
今回は、もうはっきりとこれとこれとこれ、顔が正面から映るのは嫌です、髪や影で隠れていればいいです、それから笑った顔はNGです、って。
笑顔は、その人の記憶の中にだけあればいいし、自分は笑顔とかキラキラしたものが似合うタイプではないので。
笑顔が似合う若くてキラキラした方がやればいいという考えです。
っていうことをはっきり述べていたので。
見せるべき自分とか見せたくない自分とか素顔とか、そういうものをある程度明確に持ってらっしゃる方なんでしょうね。
ゆらぎ
——「ゆらぎ」っていうのは、なんだったんでしょう?
最初、彼女のNGっていうものがあって、それを守って撮る、ということに気がとられていて。
彼女自身も、やっぱり顔が映らないように隠して。
ちょっと影をつけたら顔が隠れやすいようなときは、彼女は何も言われずにポーズを動かして。
それは今までの撮影経験から得たことなのかもと思うんですけど。
ちょっとカーテンに顔埋めて横を向くとか、そういったポーズが多くて。
顔を映さずに撮るって難しいんですよね。
やっぱり感情とか今どう思ってるとか、なんだろう、顔の表情とかの情報ってすごく多いので、やっぱり人を撮るときに顔を撮らないようにするっていうことは、特別な意図がない限りしないことなんですけど。
だから、ちょっと、どうだろう。
探り探りですよね。顔を映してはいけない、映してはいけないと思いながら、向こうも写されない写されないように、写されたくないけど写りたいし、という状況から始まって。
なので最初の方のカットは、多分、彼女が想定していた写りたい姿に、比較的近いんじゃないかなと思うんですよね。
でも、そこからだんだんだんだん、手を伸ばしたり顔を向けたり、あと目がすごく合うようになってきたりとかしたときに、ルール制限の中で撮っていたものから、気持ち的にちょっと何か解放されたような気分になって。
何か、変化が起こったんだなっていう。
変化については、そうですね。
終わったあとに、その場で撮影データを見てもらって、こんなにカメラに顔を向けて写ることはまずないですねとか、そういう話をしていて。後日メールでも彼女は同じような内容をしていて。
何度もそういうようなことを彼女が言っていて。
だから、彼女の中ではすごくイレギュラーなことなんだなって思いました。
——はい。
彼女の幼少期のエピソードの中で、母親の職業だったりとか、家庭環境。
私は虐待は受けてないんですけど、すごく近かったんですね。
それで、彼女があらかた話し終わったときに、うちはこうだったっていう話をして。
それで彼女は私に対して親近感を持ったのかもしれないですね。
後々のメールでも、境遇が似ていたりとか、共通項が多いという話はしましたね。
——その「ゆらぎ」があったポイントって、この写真の前後って指摘できますかね。
写真でいうと、一番感じたのは、カラーにしてる写真で。後半の2433です。
これは結構印象的ですね。
何かガードが溶けたような、そこで緩んだような瞬間というのを感じました。
——何かアクシデントがあった?
いや、特にアクシデントが起こったり、何かを話したわけではないですね。
ただ、時間経過の中で、そうなっていったという。
——この写真は、カラーで保存してるんですね。
どんな色なんだろうって、何か見てみたくなったんですよね、急に。
——これ、途中でモノクロにしたりカラーにしたりって、簡単な操作でできるものなんですか?
はい。RAWデータが残ってるので。
JPEGモノクロで撮ってモノクロで出てくるんですけど、RAWデータがあるので、後からカラーに戻すこともできるんですね。
——なるほど。なんで、カラーで見たくなったんでしょうね。
なんででしょうね。
人間的な。
なんだろうな。
さっき、手を伸ばしてきたことに対して、握り返さないんですかっていう話があったんですけど。
なんだろう、これがでもその代わりなのかもしれないです。
自分のアクション。
——「ゆらぎ」は、快、不快で言うと?
そうですね。
快ですね。
終わった後に、ちょっと不思議な時間だったな、みたいな感覚。
でもそれは不快ではなくて、なんだろう。
なにかしらの、その、心の、一瞬温かい交流があったみたいな感覚が、残ってる。
そういう、余韻ですね。余韻が残ってる。
——その感覚は、毎回の撮影で必ず訪れますか。
毎回は訪れないですね。
なので、今回の場合、そういう意味ではうまくいった。
うまくいったという言葉が適切かは、ちょっとわからないんですけど。
——頻度は?
頻度的には、どうなんでしょうね。
どうかな。半分あればいいかなと思いますね。
広告の撮影のように、例えばこういう写真が撮れればゴールっていうものが、何もないじゃないですか。
なので、なんだろう。
何も感じなくて何も起こらなければ、何も撮れないんですよね。
本当に表面的なものしか映らない。
写真には最初から表面的なものしか映らないんですけどね。
ただ、その日の彼女は、他の人にもたくさん写真をいろいろ撮られていて。
すごくかっこいい写真、素敵な写真がたくさんあるんですけど。
私じゃなくても、他の人とか、もっとテクニカルに上手な方とかたくさんいるので、かっこよさを求めるんであれば、こうしてわざわざやっぱり、彼女に何かを打ち明けてもらったりとか。
私がそれを撮るとかっていうことはしなくていいんじゃないかなって思うんですよね。
だから……。
なんかずっと抽象的なことばっかり言ってるんですけど。
でもずっとやっぱ何かが起こって欲しいとか、何かがあってほしいみたいな気持ちで、毎回撮影に行きます。
終わりに
どうして人は、人に興味を持つんだろう。
数百人の話を聞いてきて、お金のやりとりなしで行われるインタビューの場で、そこにあるのは、その人らしさとか、人生とか、キラキラした生活とか、うまくいかない時の苦悩だとか、実はそういうものではなかった。
最初、そういうもので構成されるインタビューになるんだろうと思ったんだけど、違った。
あったのは、ただひたすら「話したい欲」と「聞きたい欲」のぶつかりあい。意味や意義といったものなんか、実際なかった。むきだしの人間。むきだしの人。
面白いものですね。
写真の場合を考えると、これは、「話す」は「撮られたい欲」、「聞く」は「撮りたい欲」。
今回のインタビューでもそうだったでしょう?
カメラは、ただひっそりと身を潜めて撮る。
被写体は、撮られる。
でも、撮られた後で、自分の撮られた姿を見たいと思う。
あれ、これ、「撮られたい欲」だけじゃなくて、「撮りたい欲」もあるじゃん。
自分を「撮りたい」けど、自分で自分は撮れないから、他人に撮ってもらうしかない。
中心にあるのは自分。「私」。私を「撮りたい欲」。
でも他人を通してじゃないと、「私」って見えづらいのよねえ。
次回はおそらくたぶん2週間後に。
制作:qbc(無名人インタビュー主催・作家)